番外編 1 姫君
番外編1は遠い国のお姫様のお話です。
(どうしましょう…お城を探検しようと思ったら、おばあ様とお母様とはぐれてしまったわ…)
辺りを見渡してみても誰もいません。来た道を戻った方がいいのでしょうか。真っ直ぐ来たはずだからこのまま真っ直ぐ戻れば元いた場所に、お母様達のいる所に戻れるでしょうか。
(劇の舞台になった場所をよく見ておきたかっただけなのに、こんな事になるなんて…)
きっと今頃探されているでしょう。私は王になる人間なのに人に迷惑をかけるような事をしてしまうなんて王女失格です。おばあ様とお母様に心配かけてしまうなんて、悲しませてしまうなんて悪い子です。
「あれ?貴女は誰ですか?」
私が顔を上げると、明るい茶髪をした少し年上の少年がいました。とても美しい顔をしています。こんなに美しい顔をした人は私の国で会った事はありません。
「大丈夫ですか?」
「えっ!はい、大丈夫です。あの、私は道に迷ってしまって…」
どうやら私は見とれていたようです。
「お客様ですね。…もしかして王女様ですか?領主様はお嬢様を連れてきていないはずですから」
「そ、そうです。私は――」
「おーい!テオドロー何してんだー!」
少し離れた場所から元気そうな少年の声が聞こえました。
「王女様が迷子になったそうなんだ!」
「えーそりゃ大変じゃないか!」
少年が走ってこちらにやってきました。
「僕達で送って行こう。それでいいですか?」
「は、はい!お願いします!」
テオドロ様は手を出してきました。もしかしなくても手を繋いでいいのでしょうか。
そうしている間に後から来た少年はどこかに行ってしまいました。
「あ、こうした方がいいのかな?」
テオドロ様はそう言うと私に肘を向けてきました。私はテオドロ様の肘の内側に手をかけました。
「じゃあ行きましょう!戻るよりもこちらから行った方が近いですよ」
「そうなんですね。お願いしますっ」
テオドロ様について行くと、子ども達が増えていました。
「わぁ!おひめさまだぁ!すごーい!」
「ほんとうだぁー!」
「こら、あんまり驚かしたら駄目じゃないか」
「はぁーい!」
こんなに沢山の子ども達と一緒に過ごすのは初めてです。それも他国の子ども達となのです。
お城に入るとなにやら賑やかです。
「ここは厨房ですよ。今日はお客様が大勢いらしているから大忙しみたいです」
「厨房…」
とてもいい匂いがします。異国の料理です。味を想像しただけでよだれが出そうになりました。
私の国のお城の厨房は見たことないのに他国の厨房を見るなんてなんだか不思議な感覚です。
「そうだ!マリアの所に行こーぜ!」
「マリア?」
「そう!えがとってもじょうずなの。ねぇいいでしょう?」
「王女様構いませんか?」
「はい。もちろんです」
この楽しい時間が続くのならどこにでも行きます。
厨房から離れて階段を上り、少し歩いた部屋にマリアさんがいました。マリアと言うのは彼らが勝手に呼んでいるそうで、本当の名前は分からないそうです。なにやら事情がおありだとか。
「あら、あなた達来たの?」
軍服を着たふくよかな女性が言いました。
「…そちらの方はもしかして」
「王女様です」
「はじめまして」
私は挨拶をしました。
「知らぬ事とは言えとんだご無礼を致しました。申し訳ございません」
「いえ、知らせもせずに突然来た私が悪いのです」
「そんな!僕達が勝手にお連れしてしまったのです」
「…分かりました。王女様は私がお送りするからあなた達はここで、あの子の様子を見ていてくれないかしら?」
「いえ、大丈夫です。貴女の仕事を邪魔するわけにもまいりませんので、彼らに送ってもらいます」
私は女性を見つめました。
「お気遣い頂きましてありがとう存じます」
「エリザベータさん、僕達が王女様をしっかりと送り届けますのでご安心ください」
「ええ、任せたわよ。もう寄り道しちゃだめよ?」
「はぁい!」
部屋を出てテオドロ様が話しかけてくださいました。
「もう少し絵が見られたらよかったですね」
「ええ、でも少し見られました。私と同じくらいなのにあんなに描けるなんて凄いです」
「そうだよ、すごいんだよ!」
小さな女の子は自分が褒められたかのように嬉しそうです。私もそうなれたらと思いました。
しばらく歩いていると遠くに背の高い黒髪の男性がいました。アレクセイ王子殿下です。
「わぁ!王子様だ!」
「ほんとうだ!王子様だ!」
他の子達もアレクセイ王子を知っているようです。近くで見るととても大きな方ですが、王子は私達のために身を屈めてくださいました。
「如何にも。私はセマルグル王国第二王子のアレクセイと申す。諸君らと姫君は何故この場所にいるのだ?」
「おひめさまがまいごになっちゃたから、いっしょにおかあさんをさがしているの」
「そうか、偉かったな。でも今日は王城内に入っちゃいけないと言われたんじゃないか?」
「はい、すみません。しかし、大人を呼ぶよりこちらの方が早いと思いました」
テオドロ様が喋ると王子は不思議そうな表情をなさいました。
「なんでしょうか?」
「…どこかで会った事あるか?」
「皆さんそうおっしゃいます。僕は将軍ジョヴァンニの息子のテオドロです」
テオドロ様は苦笑いをしました。将軍と言えば嘆願書に署名した人物です。
「ああ、将軍殿の…。それは失礼した」
やはりただ者らしからぬ気配がしていましたが、お父様も素晴らしい方のようです。見た目だけでなく中身も尊敬出来る方なのです。
(テオドロ様………)
「よし、王女は私が送り届けよう。私の方が怒られないだろうからな…」
王子の声にはっとしました。そんな、もう少し一緒にいたいのに。そんな時に救世主が現れました。
「アレクセイ!よいではないか!彼らも見届けたいだろう!」
キリル殿です。確かキリル殿と王子はご親戚だと聞きました。髪の色は似ていますが、他はあまり似ていません。王子は背が高いのに加え体の厚みもかなりありますが、キリル殿は全体的に細めです。後は王子は少し日焼けしていますが、キリル殿は色白です。
「この人も王子様ぁ?」
「いや、私は大公代理だな。まぁ直に代理はとれるが」
「なにそれー」
「へんなのー」
「む、変とはなんだ。ちびっこと言えど許せん発言だなぁ」
「きゃはは!」
キリル殿は言葉では悪い人っぽく話していますが、表情や動作はおどけてみせてとても面白いです。
「おい、遊ぶのはなしだ。今頃王女は探されているだろう。急ぐぞ」
ああ、そんなもっと一緒にいたいのに。
おばあ様とお母様の所に無事に送り届けて頂きました。お二人と再会出来てとても嬉しいのですが、テオドロ様と別れる悲しさの方が大きくなって素直に喜べません。明日また会えるでしょうか。
エレオノーラ女王陛下もアレクセイ王子殿下もこんな気持ちだったのでしょうか。こんな気持ちで一年も離れていたのでしょうか。なんて恐ろしいのでしょう。こんなの耐えられるのでしょうか。
(ああっ、行ってしまうのですね…)
翌日の戴冠式ではついテオドロ様を探してしまいました。
(あ!テオドロ様!)
昨日とは全然違う服を着ています。髪型も違ってとても格好良いです。車椅子に乗った方の補助をしているようです。他にも様々な役割を熟していました。大人からも頼りにされているのですね。
勲章授与式の時にもテオドロ様が登場なさいました。車椅子に乗っているのは宰相だったのですね。小柄なおじい様です。眉毛が長いです。お顔や手はしわしわです。こんなご高齢の方が隣の国まで助けを求めに行ったのですね。
次は将軍、テオドロ様のお父様です。テオドロ様はお父様似なのですね。お父様はお顔の右側に怪我をなさっているようです。お父様はかなり長身です。王子よりも背が高そうです。
(テオドロ様も長身になるのでしょうか)
想像したら恥ずかしくなってきてしまいました。
(これから先、会える日が来るのでしょうか?…手紙を書いたら返事を下さるでしょうか?ああ、私はこれからどうしたらいいのでしょう……)
晩餐会でとても感動的な場面を目撃しました。アレクセイ王子殿下がエレオノーラ女王陛下に求婚なさったのです。会場は拍手でいっぱいになりました。おばあ様は声を上げて喜んでいました。部屋に帰った後もずっと興奮していました。もちろん私もとても嬉しかったです。
(私もいつか…いつか……)
その日はいつか来るのでしょうか?
幼い王女とテオドロはどうなるのでしょうね。二人の話を書く予定はありませんが、続編に出てくるかもしれないです。
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