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74.満月

 王の視点です。

 この話が最終回ですが、まだ何話か小話?番外編?があります。

 最終回まで読んでくださりありがとうございます!


 晩餐会も終わり、今は長椅子に座りアレクセイと二人きりで過ごしている。少し開けた窓から風が流れてきた。会場内の熱気でのぼせた体には夜風が気持ちよかった。


(と思いたいけど、隣にアレクセイがいるとどうしても顔が熱くなってしまうわ…)


 晩餐会での出来事を思い出すとさらに顔が赤くならざるを得ない。貴賓達の前で求婚され、抱きしめられ、挙げ句の果てに口吸いまでされた。


(嬉しいけど、何も皆さんの前でしなくたっていいのに!)


「さっきから百面相になっているがどうしたんだ?」

「えっ!」


 アレクセイが真剣な顔つきで聞いてきた。髪型は崩されており、先ほどとはまた違った刺激を感じさせる。

 百面相と言われたが、そんなに表情が変わっていただろうか。


「…晩餐会を思い出してしまって」

「皆、祝福してくれたな」


 アレクセイはとてもご機嫌なようだ。


「そうね…」

「……怒っているのか?」


 アレクセイに顔を覗き込まれた。一瞬視線が合ったが、自分は今のアレクセイを凝視出来るほど肝は据わっていないのですぐに視線をそらせた。


「そういう訳じゃないわ」

「怒ってないのに口を尖らせるのか?」


 アレクセイがニヤリと笑う。


「そんな子どもみたいな事してないわよ」


 自分はアレクセイを睨みつけようと思ったが出来なかった。アレクセイが顔を近づけてきたのだ。


「そうか、口吸いして欲しかったのか。気付かなくてすまない」


 えっ、と言う間もなく口を塞がれた。後頭部と腰に手を置かれているいるので逃げられない。

 少ししたら口を離された。


「ちゃんと鼻呼吸出来たみたいだな」

「もう!」


 自分はアレクセイの胸元を叩いた。強めに叩いて見たが、アレクセイは痛がる素振りもしない。


「手を怪我するぞ」


 アレクセイに手を握られ、優しく手を撫でられた。とても温かな手だった。なんだか耳まで熱くなってきた。


「大丈夫よ」


 自分がそう言ってもアレクセイは手を撫でるのをやめなかった。それどころか、指を一本ずつ確認しだした。自分の顔はさらに熱くなり、全身がムズムズした。


「っ!!大丈夫よ。どこも痛めてないわっ」

「しかしなぁ、よく見ないと分からないからなぁ…」


 アレクセイは指を絡めてきた。アレクセイの指は太くてしっかりしていた。


「また酔っているのね。だってさっきお酒の匂いがしたものっ」

「気のせいじゃないのか?なんならもう一度確認してみるか?」


 自分が否定する前に再びアレクセイに口を塞がれた。


「!!」

「はぁ…どうだ、酒の匂いはしたか?」

「した!してるわよ!もう、お水飲んで!」


 自分はグラスに水を注ぎアレクセイに渡した。


「飲ませてくれ…」

「…」


 アレクセイにグラスを突き返され、今渡したばかりのグラスを受け取り、アレクセイの口にそっと近づける。


「違う。口移しで飲ませてくれ」


 やたら低い声で言われた。アレクセイの視線はこちらを真っ直ぐと向いている。


「なっ!…アレクセイ、からかってるの?………あ、もしかして実は酔ってないのかしら?」


 アレクセイは下を向いて肩を震わせている。


「ひどい、からかっていたのね!」

「ククク、俺は酔っているなんて一言も言ってない。エレオノーラがそう思っただけだろう?」


 言われてみるとそうだった。恥ずかしさのあまり、アレクセイは酔っていると勝手に決めつけていた。

 自分は机にグラスを置き、肩を落とした。早とちりして一人で怒って恥ずかしい。


「エレオノーラは可愛いなぁ」


 アレクセイに抱きしめられる。逞しい腕に包まれ、分厚い胸板に顔を近づける。


(温かい……)


 自分はアレクセイの腕の中で目をつぶった。


「エレオノーラに会えてよかった」

「私もアレクセイに会えてよかったわ…」


 自分もアレクセイを抱きしめるために彼の背中に腕を伸ばす。


「…また胸を押しつけてきたな」

「そんなつもりじゃ…」


 体を離そうとしたが、アレクセイにしっかりと抱きしめられているので出来なかった。


「エレオノーラから口吸いをしてくれないか?」

「…えっと、こう?」


 アレクセイの首の後ろに腕をかけると互いの顔が近づいた。アレクセイの吐息は僅かに酒の匂いがした。


「そのまま唇と唇を合わせるんだ」


 自分は頷いてアレクセイの唇と自分の唇を触れさせた。


「ど、どう?」

「…今のは触れただけだが、まあいい。してくれるとは思わなかった。ありがとう」


 アレクセイは微笑んだ。心臓に悪い微笑みだ。

 自分はアレクセイから離れようとしたが、そのまま持ち上げられ窓の方に向かった。一体どうしたのだろうか。


「エレオノーラ、今日は何の日か知っているか?」

「戴冠式?勲章授与式?晩餐会?…じゃないわよね?」

「違うな」

 

 二人が初めて会った日でもないし、他に何かあっただろうか。

 アレクセイは自分を窓の前に降ろし、カーテンを開けた。


「今日は満月だよ」


 アレクセイは笑顔で言った。彼は窓を全開にして少し身を乗り出した。


「あった。あそこだ」


 アレクセイが指さした先には大きな満月があった。自分の髪の色と同じ色をしている。

 満月はアレクセイの髪の色と同じ夜空の中で周囲を明るく照らしていた。


「わぁ!すごい…本当に綺麗ね……」


 アレクセイに後ろから抱きしめられた。背中がとても温かい。


「ああ、本当に綺麗だな」

「!!」


 急にアレクセイが自分の耳元で話しかけてきたので驚いてしまった。低く心地よい声が耳の中に流れ込んできたのだ。


「どうしたんだ?」

「!!!」


 わざとだ。彼はわざとやっている。そうでなければこんなに耳に吐息がかかるはずがない。


「…わざとでしょう?」

「ふふっ、怒った顔も可愛いな」


 振り返えるとアレクセイは柔らかく笑った。

 なんとも質が悪い笑みだ。やっぱり酔っているのではないだろうか。


「…やっと一緒に月を見られたわね」


 言い返すと彼の思う壺なので話を満月に戻した。自分の視線も満月に向けた。いちいち反応するから面白がってからかってくるのだ。ならば無視すればよいのだ。そうしないと自分の心臓が持たない。


「そうだな。これからは何回でも一緒に見られるんだな」

「そうね…」


 また耳元で囁かれた。抱きしめる力も少し強くなった。

 アレクセイが塔に来た時は男性の低い声に驚き怯えたが、今はこんなに心地よく感じられる。塔の階段を下りる時アレクセイは甲冑だったので体温を感じなかったが、今はすぐ近くに体温を感じる。


「エレオノーラ…」


 名前を呼ばれ振り返ると口を吸われた。先ほどよりは酒の匂いはしない。もしかしたら自分が慣れてしまったのかもしれない。


「はぁ…全部したくなるからやめておこう」

「全部?全身のことかしら?」


 アレクセイは全身に口吸いをしたいと言っていた。


「…全身でもあるか?まぁ、大体同じだ」

「べ、勉強になるわ」


 全部するのと全身にするのは大体同じ、覚えておこう。

 今なら物の本の題名が聞けるかと思ったが、怒られそうなのでやめておこうと思う。


「…ふふっ、勉強熱心だな」

「ええ、知らない事が沢山あるもの。どんどん覚えていかないと」

「…夜については俺が教えるから勉強しなくていいからな」

「夜?」

「そう、夫婦の夜の過ごし方だな」

「?…夜だけなの?朝や昼は?」


 アレクセイの顔をじっと見ると、彼から同じようにじっと見返された。


「朝と昼もしたいのか。そうか」

「…朝と昼は王様をしないといけないから夜だけアレクセイのものと言ったのを気にしているの?だったらごめんなさい」

「んー、違うがまぁいいか」


 アレクセイは気にしているのかと思ったが違ったようだ。


「…アレクセイはよく分からない言い回しをするのね。私にも分かるように説明して欲しいわ」

「…それはおいおい分かるだろう」


 アレクセイにはぐらかされてしまった。はっきり言ってくれればいいのに。


「拗ねないでくれ。ほら、一緒に美しい満月を見よう」


 アレクセイに促され夜空を見上げる。アレクセイがセマルグル王国に帰った後も一人で満月を観賞したがここまで気持ちは高ぶらなかった。悲しくなる方が多かったと思う。


「アレクセイ、…アリョーシャありがとう」

「どういたしまして…って何がだ?」

「全て…かしら?」

「そうか…」


 アレクセイは笑った。つられて自分も笑顔になった。

 日付が変わるまで二人で満月と夜空を眺めていた。




 翌朝、各国の貴賓を見送り一息ついた所でアレクセイと共に両親達の遺骨を安置している部屋に行った。


「…初めまして。私はセマルグル王国第二王子のアレクセイです。この度エレオノーラ女王陛下と結婚する事になりました。二人でケレース王国を緑豊かな国に戻します。もちろん、エレオノーラを幸せにします」

「今でも十分幸せですけど、私もアレクセイを幸せにしてみせます」

「ん?俺の方ががより一層幸せにしてみせる」

「私はアレクセイが幸せならそれだけで幸せになれるわ」

「そう来たか」


 アレクセイと二人で笑った。


「お父様とお母様、この髪飾りもアレクセイがくれたのですよ。とても大切な宝物です。何かお返しがしたかったのですけど…」


 自分は思い出し笑いをしてしまった。


「お返しは本を貸してもらったんです。そのお礼に俺がエレオノーラをくれと言ったんです。それで、戴冠式の個人的な土産が俺自身で…ってなんでご両親の前で説明しなきゃならないんだ。恥ずかしい!……!」


 アレクセイの表情が変わった。どうやら部屋の外の気配に気付いたようだ。アレクセイは足音を立てずに戸に近づき戸を開けた。


「おっと…なんだアレクセイ?どうした?」


 大公代理がよろけた。つい最近似たような光景を見た記憶がある。


「キリル、盗み聞きか?というか、帰ったんじゃなかったのか?」

「アレクセイが女王陛下のご両親に会いに行くとの噂を聞いてな」


 大公代理の視線の先を覗いてみるとそこにはミハイルがいた。


「…いい取材が出来たよ。ありがとう。ああ、ご両親にも挨拶をせねば!私はモコシュ大公国の大公代理のキリルです。ええ、そうです。何を隠そう、この私が二人の仲を取り持ったのです」

「嘘つけ!」

「ふふふ、嘘でもなかろう」


 大公代理はにんまりと笑っている。

 自分にはそんな記憶は無いが、言われたアレクセイが反論しなくなったので、どこかで何かをしていたのかもしれない。


「ではそろそろ帰るとしよう。では皆、また会おう!」

「ええ、お気を付けて」


 大公代理は帰っていった。アレクセイは大きなため息をつき、そしてミハイルを睨みつけた。


「チケットを頂いてしまったので…それもかなり良い席の…」


 ミハイルはそっぽを向いた。それにしても何のチケットだろうか。


「買収されたのか…!」

「なかなか手に入らないですからね」


 ミハイルはにっこりと笑った。




「アレクセイ…明日帰っちゃうのよね」

「ああ。だがすぐに戻るよ」


 アレクセイは笑った。その笑顔を見て少し寂しくなった。また暫く会えなくなるのは辛い。また会えると分かっているのに辛い。


「ええ、楽しみにしているわね」


 無理に笑ってみたがアレクセイにすぐに気付かれてしまった。


「エレオノーラ…」


 自分はアレクセイに腕を引かれ彼の胸元に飛び込むような形になって抱きしめられた。


「これが終わればずっと一緒にいられる」

「そうよね」


 次の言葉を紡ごうとしたら、部屋の外で一昨日から所在不明になっていた人物の足音が聞こえてきた。


「入るぞーって、朝から乳繰り合いやがって…」

「一年中発情期の叔父上に言われたくないです」


 アレクセイは自分と体を離してしまった。


「いや、人間とはそういう生き物だって…。ま、俺も人肌恋しくなったのでそろそろセマルグルに帰る」

「人肌?」

「で、代わりの司令官は誰が来るんです?」


 アレクセイが怪訝そうに言った。

 自分の疑問は無視されたようだが、今は次の司令官が誰になるのかの方が大事だろう。


「もう来ている」


 もしかして、イワンはその人物を連れてくるために今まで所在不明になっていたのだろうか。


「…ですから誰です?」

「お前だよ。他に軍部の仕事が出来る王族で手が空いているのはお前しかいないからな」

「ほん――」

「本当ですか?!」


 自分は嬉しさの余り大声を出してしまった。


「…女王陛下がそんな大声を出すとは…。ええ、そうですよ。アレクセイに司令官を任せます。アレクセイ、お前は婿入りまでずっとここにいろ。その代わり何回か手続きやら準備やらをしに役人が来るぞ。覚悟しておけ」

「いいんですか?」

「お前が不機嫌になると、武術の稽古相手をした兵士達が自信をなくすからやめて欲しいそうだ」

「…ちょっと本気を出しただけですよ」


 アレクセイは気まずそうにイワンから視線をそらせた。


「たまには負けるとか、惜しかった場面を作るとかしないと駄目だぞ」

「…んん?叔父上が自分達に負けたのは…」

「あれは本気でやって負けたんだ。言わせるな。つーか、俺がお前達に勝てるのはお前らの癖を把握しているからだな」

「え」


 アレクセイがぽかんと今まで見たことがない顔になっていた。

 部屋の外からも同様の声が聞こえた。アレクセイの部下達だろう。


「幼い頃から指導なさっているからアレクセイ達の癖を全て把握していると?」

「その通りです。視線や呼吸、全身の筋肉の力みでも分かりますけど、それぞれ癖がありますからね。まぁ、それがなくても俺が勝つ確率の方が高いがな!」


 アレクセイはとても悔しそうな顔をしていた。


「将軍殿に鍛えて貰いますので、次は勝たせていただきますよ」

「はっ!俺が手の内を明かしたのは他にも策があるからだ。そう簡単に負けんぞ」


 どんな策なのだろうか。もしかしたらハッタリかもしれない。すでに勝負は始まっているのだろう。


「ああ、そうだ。マクシムを置いていくから、お前の部下達は帰してやれ」

「マクシム殿ですか?」

「ええ、あいつも気になる人がいるようなのでね…。はぁー、どいつもこいつも羨ましいな」


 マクシムの気になる人は誰だろうか。彼はあまり表情に出さないし、会話も必要最低限しかしないので全く予想がつかない。


「叔父上はまだ身を固める気はないのでしょう?」

「なくはないが、まだ自由にさせてもらう。明日俺は帰るからそれまでに引き継ぎするぞ。という訳でアレクセイをお借りします。すぐにお返ししますから少々お待ちください」

「ええ、きちんとお返しくださいね」

「そうですよ、叔父上。すぐにエレオノーラの元に帰してください」

「そう思うならすぐについて来い!」


 二人は部屋から出て行った。

 自分は部屋の窓から外を眺めた。雲一つない青空が広がっていた。今の自分の心模様を表しているかのようでとても気持ちが良くなった。こんなに晴れやかな気持ちになったのはとても久しぶりだ。


「お父様、お母様…。私はもう大丈夫ですよ」




 最初は二人で満月を見るシーンで終わる予定でしたが、某二人が姿を現さないのは変なので足してみました。

 次回は登場人物紹介を投稿します。

 ちょっとでも面白いと思ってくださった方は評価&ブクマをお願いいたします。

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