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70.したいようにしていい

 王の視点です。


(何故、アレクセイとの出来事をあんなにご存じだったのかしら?)


 わざわざ遠い国から来た王太后達との会話は、所々違ったが不思議と話が合っていたのだ。それに彼女らが持って来た祝いの品も随分と豪華だった。過去に国交があったわけでもないし、自分とも初対面なのに気前がいいのだなと思った。裕福な国だとこれくらい当たり前なのだろうか。


(王女の眼差しも憧れの人を見るみたいだったし…)


 心当たりがないので首を傾げるしかない。幼い王女の目は光り輝き、頬は紅潮していたのだ。素敵な物語を聞かされている時のようだった。


(三世代でこんな遠くの国まで来てくださるなんて有り難いわね)


 思い出しながら目の前に用意されていたお茶を飲んだ。今は応接間の近くの部屋に一人で待機中だ。当然ながら戸の前には兵士達いるが、部屋で一人の時間を過ごしている。ここ数日は長時間複数人と過ごす時間が多く気疲れしてしまったので、無理を言って一人にしてもらった。


(朝、アレクセイとお話出来なかったわ…)


 すぐ近くで朝食を摂ったが、特に会話もなく終わってしまった。領主達も、もくもくと食べていた。皆空腹だったのだろうか。


(昨晩の食事の量が少なかったとか…?)


 自分の皿にはいつも通りの量が盛り付けられていたが、彼らの皿には自分より多めに盛られていたと思う。料理長もアレクセイや領主達の体格を考えて量を調節しているだろうから、空腹なはずはない。


(まぁ…大声で喋りながら食べるのも不作法よね。そうよね)


 彼らはまだ眠かったのかもしれない。慣れない環境で十分に睡眠がとれなかったのかもしれない。


(枕が変わると眠れない人もいるものね)


 再びお茶を口にする。相変わらず猫舌なので少し冷ましてから飲む。

 カップを机に置き、両腕を上げて伸びをした。ドレスは凝った装飾をされているので大きな動きは出来ないが、これくらいの動きなら大丈夫だろう。


(……)


 ぼんやりしていたら、眠たくなってきた。なんだかんだ自分も寝不足のようだ。昨日はなかなか寝付けなかった。寝ようと思ってもアレクセイが頭の中に出て来て邪魔をするのだ。微笑んできたり、爽やかな表情をしたり、悪そうな顔をしたり…。


(アレクセイ……)


「エレオノーラ!」

「ひゃっ!」


 自分の心臓が跳ね上がった。体も跳ね上がったと思う。心臓はもの凄い速さで鼓動している。

 突然、戸が開いたと思ったらアレクセイが登場した。


「…すまない、驚かせてしまったか?足音で気付いていると思ったのだが」


 アレクセイは首を傾げながらこちらにやって来た。


「ぼんやりしていたから…」

「疲れているのか?」

「大丈夫よ」


 自分は何回か深呼吸を試みる。アレクセイが自分の顔を覗き込んできた。顔が熱くなるのでやめて欲しい。


「…エレオノーラの顔が見たかったから探したんだ。まぁ、応接間の近くにいるだろうと思って見慣れた兵士達を探したら当たった」


 アレクセイは得意気に笑った。


「そうだったのね」

「…疲れているのなら俺は部屋を出ようか?」

「平気よ」


 自分がそう言うとアレクセイは自分の隣に座った。アレクセイは昨日と同じ服装だが、髪型は昨日よりもきっちりとしている。


「ん?何かついているか?」

「何もついてないわよっ」


 自分はアレクセイの顔をまじまじと見すぎてしまったらしい。


「そうか…。エレオノーラは今日もその髪飾りをつけてくれているんだな」


 アレクセイが微笑みながら言った。心臓に悪いのでなるべく控えて欲しいと思いながら、自分はええ、とだけ言った。


「……抱きしめてもいいだろうか」

「…お尻を触らなければいいわよ。後、くすぐったりもしないでね」

「善処しよう…」


 自分はアレクセイの腕の中に収まった。胸元には沢山の勲章が付いていた。大綬も右肩から左脇に掛けている。


「…はぁ、落ち着くな」

「えっええ…」


 アレクセイが落ち着くと言っているが、自分は真逆だ。アレクセイはこの状況に慣れているのだろうか。なにやら、また心がもやもやしだした。


「アリョーシャ…」

「なんだ?」

「あの…その……」


 自分が聞くか迷っていると、アレクセイが腕を解き体を離した。


「すまない。嫌だったか?」


 アレクセイの顔は悲しげだった。


「いいえ、違うの。アレクセイは…他の人とも…」


 恋人や婚約者がいなくても、もしかしたら…。


「ん?他の人ともしたかって聞きたいのか?答えはいいえだがどうしたんだ?」

「だって何だが慣れているようだし…」

「慣れっ…まぁ、物の本で見ただけだ」


 自分が物の本と呟いたらアレクセイがそうだと言った。


「私にもその物の本を貸して。勉強するわ!」

「なっ!…駄目だ。かなり過激な内容になっている……」


 アレクセイは困惑している。目が泳ぎ気味だ。


「内臓とかが出てきても大丈夫よ!」

「内臓って…そう言えば過激な刑罰の方法も知っていたな…」

「そうよ。平気だから貸して欲しいの」


 アレクセイは一瞬考えたがすぐに否定した。


「あれはエレオノーラが読んでいい本ではない。だから貸せない」

「貸してくれないのなら題名だけでも…」


 この城にもあるかもしれない。ないなら取り寄せようか。


「駄目だと言っている。他の人にも言ってはいけない。はしたないと言われてしまうぞ」

「はしたなくてもいいの…。アレクセイはいつも余裕なんだもの…。私はされるがままで恥ずかしがっているのは……」

「悔しいのか?」


 自分は悔しいのだろうか。ずるいと思ったのは確かだ。


「ふぅ、ならばエレオノーラのしたいようにしてくれて構わないぞ?」

「それが慣れているように思えるのよ…」

「いもしない人物に嫉妬しているのか。エレオノーラは可愛いなぁ」


 アレクセイに抱きしめられた。

 嫉妬もしたしずるいとも思った。されるがままなのが悔しいとも思ったかもしれない。

 ふと、自分が抱きついた時のアレクセイの様子を思い出した。彼は赤面していたはずだ。


(よぉし!)


 自分は思いきって自分の腕をアレクセイの腕の下にまわして抱きついてみた。体もかなり密着している。

 アレクセイの顔を見てみると気まずそうな顔をして赤面していた。


「したいようにしてみたわ」

「そのようだな…」


 やってやった。アレクセイの余裕さがなくなったのだ。少し困っているように見える。


「うふふっ」


 自分は得意気に笑ってみせた。


「…しかしそれは前にされているからあまり効かない。どうせなら口吸いをしてくれればいいのに」

「えっ!」

「してくれないのか?」

「……その手には乗らないわよ」

「それは残念だな」


 これではまだアレクセイが優勢だ。次の手を考えねば。そう思いアレクセイの臀部を触ろうとしたが、アレクセイに阻まれてしまった。


「それは流石に自制が効かなくなるのでやめてほしい」

「したいようにしていいのではなかったの?」

「エレオノーラのために言っているんだ。これからまだ貴賓達と会うのだろう?変な王だと思われてしまうぞ」

「それはいけないわね…」


 アレクセイの顔を見るととても真剣な顔をしていた。


「ああ、いけない。絶対にしてはいけない」


 自分がもうしないと言ってもアレクセイは何度も念を押すように駄目だと言った。アレクセイに肩を掴まれ、真っ直ぐと目を見られると従わざるを得ない。自分が数回頷くと肩から手を退けられた。


「…アレクセイはまだここにいていいの?」

「いいんじゃないか?」


 アレクセイは自分がここにいるとは知らなかったようだし、もしかしたら周囲の人に黙ってここに来たのかもしれない。


「誰かが来たらまずエレオノーラに会いに来るだろう?俺はその後だろう。立場的には王太后や大公代理の方が上だから、今から来る人達は先にそちらに挨拶するだろうしな」

「じゃあ、もう少しこうしていてもいいのね」


 自分はもう一度アレクセイに抱きついてみた。今日も化粧をしているので、顔をつけないように抱きついた。心臓はドキドキとしてしまうが、アレクセイの体温を感じられるので少しだけ落ち着ける。


(温かい…。アレクセイが落ち着くと言った意味が分かった気がするわ)


「…エレオノーラ、わざとか?どこでそんな技を覚えたんだ?」

「技…?」

「無意識なのか?さっきから胸を押しつけているじゃないか」


 胸と言われて慌てて抱きつくのをやめて体を離した。


「そんなつもりじゃ……」


 自分は胸を隠すように横を向いた。


「大体なんでそんなに胸元が開いているんだ」

「成人したから…かしら?ああでも、昨日初めてこんなに開いているドレスを着たわ」


 アレクセイはじとりとした目つきでこちらを見てくる。


「…そういうドレスは俺の前だけに……すまない、今の発言は撤回する。ただの独占欲、下手すれば束縛だ」

「…私は王様だから……誰か一人のものにはなれないの」


 昨日アレクセイの求婚の言葉を否定するような言葉になってしまった。ハッとしてアレクセイの顔を見た。


「ああ、もちろん分かっている。そのドレスとてもよく似合っている。今まで見てきた誰よりも綺麗だ」


 アレクセイは少し悲しそうな笑顔になった。どうしようかと思い必死に考えた。


「ありがとう…。あ、夜だったらアレクセイだけのものになれるわ」

「ぅんんっ!だからそういう事を言わないでほしいのだが…」


 アレクセイは咳払いをして言った。その顔は少し頬が赤くなっている。


「緊急事態があったら駄目だけど、それ以外だったら夜は平気よ」

「うん、分かった。分かったからそれ以上は言わないでくれ」


 アレクセイは言い終わった後に自分に抱きついてきた。夜だけでは不満なのだろうか。


「俺のエレオノーラ…」

「……っ私のアレクセイ」


 なんと返したらいいのか分からなかったので、アレクセイの真似をしてみた。どうやら正解だったらしく、抱きしめられる力が強くなった。よく分からなかったら真似をすればいいのだろう。

 思ったより難しくないのかもしれないと考えていたら、部屋の外で何やらもめているようだった。


「えー、陛下はただいまお取り込み中でございまして!!」

「陛下は休憩をなさっているだけではないのですか?」


 マッテオと侍従長の声が聞こえた。アレクセイは上手く聞き取れなかったようなので、自分から説明した。


「俺は隠れた方がいいようだな」

「っ、そうね」


 アレクセイと自分は部屋の外に声が漏れないように小声でひそひそと話した。

 アレクセイは部屋の入り口から死角になりそうな場所に隠れた。


「アレクセイ来てくれてありがとう。疲れがとれた気がするわ」

「ああ、俺の方こそ礼を言う」


 自分から戸を開けて部屋を出た。


「ああ、陛下。ファウヌス王国の方がお見えになりました」

「ええ、ありがとう。行きましょう」


 侍従長が言った。

 ダニエラとアンナはマッテオの様子からアレクセイが部屋にいたのに気付いているようで一瞬微笑んだが、すぐに真顔になった。

 王らしくしなければと気持ちを切り替えた





 今更ですが、アレクセイは尻フェチなわけではありません。近くにあるものを触りたいだけです。

 本編は残り四話です。評価&ブクマをよろしくお願いいたします。

 ※予告なく加筆修正をする場合がございますので、予めご了承ください。

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