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69.厄介な人達

 王子の視点です。

 本編は74話までですが、小話を何話か更新する予定です。


 エレオノーラと別れ、用意された部屋に向かったのだが、部屋から複数人の気配があった。


「何故、皆さんがいるのでしょう…」


 戸を開けると、叔父とセルゲイ、自分の部下三人がいた。


「明日の予定の確認のためにおりました」

「右に同じ」

「右に同じです」


 ミハイルが言うとドナートとアルトゥールが続いた。


「…そうか。で叔父上とセルゲイ殿は?」

「ミハイルとチェスをしに来た。おかげで連敗記録が伸びそうだ」

「チェックメイト」


 叔父が唸った。連敗記録が伸びたようだ。


「私は叔父君の護衛でございます。ああ、三手前ならまだ活路を見出せましたのに…」

「ああ、やはり気付かれてましたか」

「ええ、もちろんです。実戦だと大変お強いのに、どうしてこうもやられっぱなしなのでしょう」


 セルゲイは悲しげな顔をしてみせた。


「ミハイルさんはお強いですから、仕方ないですよ」


 アルトゥールが頷きながら言った。彼も連敗記録更新中だ。

 仲が良くて何よりであるが、自分の部屋でたむろしないで欲しい。


「その様子だと、女王陛下に返り討ちにされたか?」

「返り討ちって…」

「純粋でらっしゃいますからねぇ」


 叔父とアルトゥールがニヤニヤしている。


「その通りです。落ち込んでいるので、一人にして頂けませんかね?」


 自分がため息をつくとミハイルが口を開いた。


「さて、明日についてです。近隣の国しか招待していないそうなのですが、先日まで仲が良くなかったあの国の王族がいらっしゃいます」

「…モコシュ大公国の劇団のご贔屓様が来るんだったな」


 物語の元になったエレオノーラと自分を見に来るのだろう。たったそれだけの理由でこんな遠くの国に来るとは恐れ入る。招待されていないのにどうやって捻り込んだのだろうか、と思ったが早い話、金品の贈与だろう。よくあちらの国の国王が許したなと感心してしまう。


「ええ、王太后と王妃と王女の三世代でいらっしゃるそうです」

「そうきたか…」


 まさか三世代とは驚いた。

 叔父が頑張れよと笑いながら言った。完全に他人事だと思っている。まぁ、他人事なのだが。


「キリル様もいらっしゃいますから、お気をつけください」

「頭が痛くなってきた…。もう寝ますので、皆さんご自身の部屋にお戻りください」




 就寝のための準備を終え寝台に寝転がり、明日に起こりうるであろうことを考える。主にはとことご贔屓様達についてだ。なんとも面倒臭そうだ。はとこはともかく、王族相手では逃げられないだろう。覚悟を決めなければならない。

 寝返りを打って、昼間と先ほどのエレオノーラとの時間を思い出す。本当に危なかったが理性が勝った。日頃鍛えているおかげだろう。

 エレオノーラは美しさに拍車がかかっていた。絵にも描けない美しさとは彼女の事だろう。画家は彼女の美しさを再現できなくて筆を折るだろう。


(それとも再現すべく修業に出るかもな。そうしたら世界中修行中の画家だらけだ)


 そう考えていて自分自身に気持ち悪くなってきた。エレオノーラに対する愛情が重すぎるのではないかと思ったのだ。


(エレオノーラは相変わらず恋愛に疎いようだし、あまり積極的に行きすぎると嫌われかねない。もしそうなったら俺は耐えられない…。それこそ旅に出てしまう)


 エレオノーラと少し距離をとった方がいいのだろうか。自分は一日中側にいたいが、彼女がそうとは限らない。彼女は十年もほとんどの時間を一人で過ごしていたのだから、まだ人に慣れていないのではないかと思う。


(そのうち慣れていくのだろうか…。いや、慣れなくても毎日顔を見られればそれだけで幸せだ。大体四六時中一緒にいるって赤子の面倒をみているんじゃあるまいし…)


 そういえば赤子なんて年下のいとこ達としか触れあう機会はなかった。叔父はエレオノーラが赤子だった時に会っていたらしい。自分も小さい時に会いたかった。すぐに求婚していただろう。


(婚約者…許嫁……)


 良い響きだと思う。顔がにやにやとしてしまう。早く寝なければならないのに何を考えているのだろうか。


(…寝よう。明日には厄介な人達と会話せねばならないのだからな)




 朝になり、今日も正装に着替えた。礼装は明日だけだ。髪も昨日と同じにしようと思ったが、昨日よりもぴっちりめに撫で付ける。鏡を見ると見慣れぬ自分がいた。エレオノーラが化粧をした時も彼女は同じように思ったのだろう。

 これでいいのかと鏡を眺めていたら、戸をノックする音がした。


「アレクセイ殿下、おはようございます。食堂にご案内いたします」


 侍従長だった。朝食は昨日の晩餐と同じ顔ぶれで食堂で食べる。

 食堂に着くとすでに領主達は席に着いていた。自分が席に着くとエレオノーラがやって来た。今日も綺麗だ。そう思いながら食事をしていたので食事の味がさっぱり分からなかった。ついつい彼女を気にしてしまっていたのだ。席順で近い場所にいるので尚更だ。

 朝食が終わり、エレオノーラと話をしようと近づいてみた。


「陛下、お時間よろしいでしょうか?」

「申し訳ございませんが、陛下は賓客を迎える準備がございますのでお控えくださいませ」


 侍従長に言われた。自分も賓客なのだがと言いたかったが、自分はもう身内みたいなものなので我慢する。


「殿下、一度部屋に戻りましょう」


 後ろからミハイルの声がしたので振り返ると、ミハイルとアルトゥールがいた。彼らは彼らで食事をしたようだ。


「ああ、わかった」


 エレオノーラと話が出来なかったのは残念だが、次に備えるために一旦休憩せねばと自分に言い聞かせる。


「大変申し上げにくいのですが…」

「…まさかもう来ているのか。それでドナートがいないのか?」


 二人は黙って頷いた。最初にドナートがはとこに見つかったらしい。なので二人はドナートを生け贄にして自分を呼びに来たのだろう。


「…分かったドナート救出作戦を決行する」




 ミハイル達について行くとはとこの声が聞こえた。ドナートの他にも生け贄になっている人がいるようだ。何やら話が弾んでいる。二人も知らなかったようで驚いている。はとこに対抗出来る人がいるのかと思い部屋に入るとそこにはセルゲイがいた。隣で少し穏やかな顔をしているドナートと目が合った。心の中でよかったなと言っておいた。


「おお!アレクセイ!我が弟よ!聞いたぞ!早速詳細を聞かせてくれ!」

「お前は兄じゃないし、誰が言うか!」


 さては自分がエレオノーラに求婚した話で盛り上がっていたのではないだろうか。自然に盛り上がったのではなく、セルゲイが会話を操作して盛り上がるようにしたのではないかと思う。


「こほん、では私が詳細を…」

「セルゲイ殿は詳しく知らないでしょう」

「想像でご説明しようかと思いまして」


 セルゲイはいつもの笑顔で言った。


「それは妄想や創作の類いでは?」

「ならばアレクセイ自身が話してくれればよいだろう」


 自分はため息をついた。やられた。はめられたようだ。セルゲイは昔からはとこと仲が良かった、というか気が合うのだ。


「…寄付を弾んでくれるなら考えよう」

「よし、いいだろう!」


 結局自分が覚えている限り話した。白状したという言葉の方が似合うだろう。


「ふむ、アレクセイにアルトゥールほどの押しの強さがあればな…」

「飛び火したぁ!」


 アルトゥールが顔を歪ませている。ドナートは笑顔でアルトゥールを見ている。こんな怖い笑顔がこの世に存在するとは知らなかったし知りたくなかった。


「王族同士が結婚前に乳繰り合えるわけないだろう」


 自分ははとこに抗議した。


「ケレース王国公認の関係でございますのにね」


 セルゲイがさらりと言った。


「ほう、公認か…」

「お二人きりにさせるのも多々ありましたからね」


 今度はミハイルが言った。裏切られた。


「おおっ、やはりか!」


 はとこは喜びながら書き付けをしている。


「今でも十分に大好評なのにさらに面白くしようとなさっておられるのですね。流石キリル様!」

「そうであろう、そうであろう。私は追求型だからな!それに一度だけではなく何度でも楽しんで貰うためには必要な事なのだよ」


 いつになく得意気なはとこである。今は傍観しておこう。


「繰り返し見に来させるためにですか…。面白いですね」


 はとことセルゲイの会話にミハイルが入った。怪我をするから止めた方がいいと思う。


「そうだ。純粋に何度でも見たいと思うかもしれないが、衣装や小物、背景などを楽しまれる方もいるのだ。後は舞台になった国を観光に行ったりとかな!今は無理かもしれないが、そのうちケレース王国にも観光客が来るであろう」

「そこまで考えてらしたとは驚きでございます。私どもでは到底考えつきませんでした」

「わざわざ来るのでしたら裕福な人でしょうか?」


 ミハイルが乗り気だ。


「その可能性は高いだろう。うむ、これは観光案内の計画も立てた方がいいな」

「舞台に出てきたのは王都だけでしたよね?」


 ドナートまで参加しだした。ドナートは妻子と見に行っているせいで気になるのだろうか。


「おおドナート!劇を見てくれたそうじゃないか。感謝するよ。ああ、舞台は王都だけだがこれからは名産や特産も織り交ぜたいと考えているのだよ」

「ああ、そうすれば、各領に足を伸ばすかもしれませんね。あるいは王都に行くまでか帰国するまでに寄り道をしてくれるかも…」

「その通りだ。…ん?各領の領主とも話し合うべきか?そうだな、行ってこよう。またとない、いい機会だ」


 止める間もなく、はとこは部屋から出て行ってしまった。領主達よ早く逃げてくれ。


「いつもより酷くないか?セルゲイ殿、あいつをあまり持ち上げないでいただきたい」

「そんな、思った事をそのまま言っただけでございますよ」


 セルゲイはなんとも嘘くさい台詞を笑顔で言った。先ほどのドナート程ではないが、この笑顔も怖く感じる。


「叔父上が逃げる時間を稼いだのですか?」

「私が気付いたときにはすでに逃げた後でございました。察知するのがお上手でございます」

「そうでしたか。はぁ、領主達が被害に遭わないようにキリルの野郎を探すか…」

「…アレクセイ殿下は他の賓客と挨拶がございますよ」


 そうだった。となるとセルゲイか部下達に任せなくてはならない。


「私達は護衛として殿下についていないといけませんので、セルゲイさんお願い出来ますか?」

「私でよければ是非」

「セルゲイ殿、領主を困らせるような言動はしないでください」

「ええ、もちろんでございます」


 とても不安でしかない。他の三人もそう思ったようで顔に出ていた。




 自分は念のためもう一度髪型を確かめ身だしなみも整える。乱れてはいなかったが、気持ちを落ち着かせるためだ。数え切れないくらい他国の王族に会ってはいるが、緊張するものはする。口には出さなくても国に帰ってから悪口を言われたりするので、少なくとも身なりで文句を言われないように細心の注意を払うのだ。


「陛下と挨拶を終えられた方がいらっしゃるそうです」


 ミハイルが侍従から連絡を受けた。


「ご贔屓様達か?」


 ミハイルは黙って頷いた。自分達は三世代で来た人達に会いに行くべく、部屋を後にした。




「まぁ!良く来てくださったわ。ちょうど私達から伺おうと思っていたところなのよ」


 王太后が明るい顔で言った。王妃と王女も一緒だ。王女は初公務だそうでおめかしをしている。

 三人とも目が輝いていて怖い。いや、王女は可愛らしいものだが、大人二人はギラついている。


「あの、文書偽造については誠に申し訳ございませんでした。関与していた者は厳罰に処しました」

「あら、もういいのよ。貴方のお父上からも正式に謝罪を受けておりますもの。…キリルさんから聞いていると思うけど、私達はモコシュ大公国の劇団の愛好者なんですのよ」


 王太后が満面の笑みで言った。

 自分ははい、と言い唾を飲み込み次の言葉に備えた。質問攻めにされるのだろうか、芝居の感想を聞かされるのだろうか。


「あらすじを聞いただけでこんなに胸が踊るなんて初めてでしたわ。実際に初公演を見たら期待をさらに超えておりましたの」


 次は王妃だった。王妃も笑顔で感想を言った。王太后ほどギラついてはいないが、やはり怖い。


「ええ、そうよね。王道なのがいいわよね。助けた王子と助けられた王女が惹かれあって恋に落ちる…けれど王子は国に帰らねばならない……ああっ、二人の別れの場面は思い出しただけて涙が……」


 王太后がハンカチで目元を覆った。王妃も目が潤んでいる。


「アレクセイ殿下は、陛下のどこがお好きなのでしょうか?」


 幼い王女が興味津々な表情で聞いてきた。このまま質問攻めになるのだろうか。


「一目惚れですね。私が部下達と塔の部屋に入った時、陛下は悲鳴を上げることなく、我らに毅然と立ち向かわれたのです。陛下は今よりもずっと弱々しいお姿でしたが、王族たる矜持を示したのです。そのお姿に心打たれました」


 我ながらよい回答が出来た。実際に三人は喜んでいる。


「私は芝居を見ていないのですが、実際の私は武人らしすぎて王子には見えないでしょう?」

「いえ、そんな事はございませんわよ。確かに役者はもう少し線の細い男性でしたわね。ですけど武術に長けていると言う設定なのですから、アレクセイ殿下の体型の方が現実味がありますわね」


 設定とはなんだ。自分は好きで武術をやっているのだ。と言いたくなったが、にっこりと笑顔のままでいる。


「恋敵との対決も素晴らしかったですわ」

「こ、恋敵ですか?」


 はとこは恋敵を作ったらしい。自分は否定したのに無視されたようだ。三人に話を聞くと、はとこ自身のようだった。


「その話の流れですとその恋敵はキリルですね。確かに茶化すかのようにキリル自身が王になり、陛下を王妃にすると言い出しましたけれど…」

「まぁ!どうなりましたの?」


 王妃は目を輝かせている。他の二人も前のめりだ。


「陛下がご自身が王になると宣言されまして、キリルの申し出を突っぱねました。そもそもあいつには王になる気なんてなかったのです。あいつは自分の国が大好きですからね」

「呼んだか?!」


 はとこだった。神出鬼没である。三人もはとこの登場に驚いているようだ。


「名前を出しただけで呼んでいない」

「照れるな、我が弟よ」

「俺の兄はアレクサンドル兄上だけだと言っているだろう。大体恋敵がなんでお前なんだ!」

「それは私が美しいからだな」


 何故こうも自信満々なのだろうか。


「はぁ、聞いた俺が馬鹿だった……。ああ、すみません。みっともない姿を見せてしまいました」

「いいんですのよ。お二人とも仲が良くていらっしゃるのね」


 自分は否定しようとしたら、はとこから耳打ちされた。


「王太后は男同士の篤い友情物もお好きなんだ。少し機嫌をとれ」


 はとこと友情を築きたくないが、言うしかないようだ。


「ええ、幼い頃は…本を読んでくれました……」


 自分はやや棒読み気味に言った。


「そうなんですよ、アレクセイが是非読んでくれとせがむのでね」


 絶対に言っていない。何度も言うが言っていない。言ったとしたら言わされたのだろう。


「後は勉強を見てもらったりですかね…」


 別に不明な点はなかったのに無理矢理教えられた記憶がある。


「そうだな。後は剣術も教えただろう」

「いや、剣術は幼い時から私の方が上手いです。叔父上に教わっていたのだからキリルに教わるわけがないんです…あっ……」


 しまった。思わず本音を言ってしまった。


「叔父様に?」

「はい、父の末弟です。歳も父より私の方が近いのです」


 王太后は叔父との話に食らいついた。どうやら、思ったより好評だったようで暫く話をさせられた。




 王子は女王に惚れているので絶世の美女だ、絵にも描けない~などと言うのです。実際に美人なのは間違いないのですけどね。

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 ※予告なく加筆修正をいたしますので、予めご了承ください。

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