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67.約束

 王子の視点です。

 多少いちゃついています。



「えっ、アレクセイなの?」


 約一年前と比べ更に美しくなったエレオノーラが言った。目を大きく開けて、とても驚いた顔をしていた。自分の作戦は成功したようだ。


「ああ、俺だ」


 自分は平静を装う努力をしたが、それは無に帰した。どうしたってにやけてしまう。


「だって、足音が違ったわ」


 互いに歩を進め近づいた。自分の方が歩幅が大きいので、かなりエレオノーラ側で合流した。


「歩幅や足の置き方を変えたからな。驚いただろ?」

「私がアレクセイの足音を忘れちゃったわけではなかったのね」


 エレオノーラは少し安堵した表情を見せた。その頬は少し赤くなっている。目も潤んでいるようだ。


「…すまない。久しぶりだな」

「ええ、久しぶりね。…髪の毛伸ばしているの?」


 エレオノーラが右手を自分の顔の左側に近づけた。自分は背中を丸めて彼女の手に顔を寄せた。そして彼女の手を包み込むように握った。


「これでも切ってきたんだが…。ああ、あの時は短めにしていたからかな?」

「そうなの?」


 エレオノーラは首をかしげた。彼女の深海のような夏の空のような青い目がこちらをじっと見てくる。


「…あ、ああ、そうだ」


 思わず見とれてしまい反応が遅くなった。


「服も軍の正装だし、髪型も違うし…」


 自分は略装ではなく正装をしている。なんならマントもしている。


「まるで王子様みたいか?」


 二人で顔を見合わせて笑った。

 自分はエレオノーラの手を掴んだまま下ろした。


「もう…アレクセイは最初からずっと王子様だったわ」


 自分は体格のせいか軍人にしか見られない。ましてや軍服を着ていたら王子だとは思われない。


「軍人とは立ち方が少し違うかしら?なんとなくだけど…そう思うの」


 エレオノーラは微笑んだ。一瞬たりとも見逃さないようにエレオノーラを凝視すると、彼女の金の髪に美しく光り輝く物がついていた。


「そうか…。ところでその髪飾りは俺が贈った物だろうか」


 自分は実物を見ないで、しかも注文も人に任せていたので、どんな髪飾りなのか知らないのだ。今思えばよくそんな愚かな真似をしてしまったなと思う。


「そ、そうだわ!そうなの!」


 エレオノーラは少し興奮気味のようだ。頬はさらに赤くなり、目も輝いている。


「似合う…かしら?」


 エレオノーラは興奮していたと思ったら、急に大人しくなった。少し下を向き、髪飾りを自分に見せてきた。身長差があるのでそんな事をしなくても見えているが、必死に見せようとする姿が可愛らしいので黙っておく。


「ああ、よく似合っている。でも下を向いていたら顔が見えないので、顔を見せてくれないだろうか」

「…ええ」


 繋いでいた手を離し、エレオノーラの頬に触れた。

 エレオノーラの顔は真っ赤になっていた。自分の顔も彼女と同じように赤くなっているだろう。


「顔が真っ赤じゃないか」

「そういうアレクセイも赤いじゃない。それに私は今日お化粧をしているから頬紅のせいよ」

「頬紅は耳にまで塗ったのか?」


 エレオノーラは慌てて耳を隠した。少しむっとしている顔も可愛らしい。


「…ねぇ少し距離が近くなったと思わないかしら?」

「…ん?ああ、顔の距離か?」


 エレオノーラの美しい顔が近くなったような気がする。


「そうなの!結構身長伸びたのよ」

「…そのようだな」


 エレオノーラは身長だけでなく、出る所が出るようになっていた。しかも胸元が開いたドレスを着ているので気になってしょうがない。なるべく見ないように気を付けているが自然と視界に入るので、意識せざるを得ない。


「まだ遠いけど…もっと大きくなってみせるわ」

「いや、そのくらいでいいんじゃないか?」


 もちろん身長の話である。


「えっ」

「顔の距離を近くしたいなら…」

「!!」


 自分はエレオノーラを抱き上げた。少し重くなっているが、自分は成人男性二人を担いで走れるので何の問題もない。


「ほら、こうすればいいだろ?」


 二人の顔はかなり近くなった。吐く息がかかる距離だ。


「……」


 エレオノーラは真っ赤な顔で困った表情をしている。目を見たら下を向いてしまった。


「なんだ、嫌なのか?」

「……」


 エレオノーラは顔を上げ、意を決したかのような目つきをしていた。今度は目を逸らさずいる。


「アレクセイ…」


 エレオノーラはじぃっとこちらを見つめている。


「なんだ?」

「ア、アリョーシャ!」


 今度は焦ったような困ったような様子で言ってきた。


「おう…」

「リョーシャ…?」


 眉根を寄せている。


「両親と兄上からはそう呼ばれたりもするな。まぁ、最近はあまりないかな」

「…私もそう呼んでもいいかしら?」


 ああ、そういうことかと得心がいった。


「出来ればアリョーシャにしてくれ。両親達と同じはちょっとな…」

「アリョーシャ…わかったわ」


 エレオノーラは小さく頷いた。


「俺はエレオノーラをなんと呼べばいい?ローラ?ノーラ?」

「その呼び方はうちの国にもあるわ」

「ご両親はなんと呼んでいたんだ?」

「そうね…エレオノーラとしか……。あっ!愛しい娘とか、可愛い娘とか?私の天使ちゃんとかかしら?アリョーシャに呼ばれるのなら何でも嬉しいわ」

「では俺の美しい女神様にするか」

「えっ!それはちょっと…」

「愛しいか麗しいの方がよかったか?」

「もう!からかってるのね!」


 エレオノーラは自分の胸をぽこぽこ叩いてきたが全く痛くなない。


「すまない…。怒っている顔も美しいな」

「それは…侍女達が光や影を足したから……」


 多分化粧の話だろう。化粧といえば北領領主は影を足しまくって具合が悪そうに装っていた。


「しなくても美しいし、していても美しいな」

「眉毛も整えてくれたのよ。ほら!」


 エレオノーラは眉毛を見せてきた。確かに書き足されているようだが、顔が一段と近くなったので心臓が速くなってきた。


「睫毛も何かしたのか?」

「何もしていないわよ…?」


 そうだ、エレオノーラの睫毛は元々長かった。


「…そうか」

「…そうよ?」


 よく分からない空気になったので、自分はエレオノーラを抱きかかえたまま椅子に座った。自分の腿にエレオノーラを乗せた。


「重くないの?」

「ああ、全然重くないな」


 事実彼女は全然重くない。


「重くなったら降りるから遠慮なく言ってね」

「ああ」


 仮に重いと感じても降ろす気はなかったりする。


「…お化粧って凄いわよね。鏡を見たとき別人が映っていたのよ」

「そんなに変わったようには見えないぞ?」


 化粧の話に戻った。正直どんな反応をしたらいいのか分からないので話題を変えたいのだが、エレオノーラに会えた喜びでいっぱいなので浮かんでこない。


「私はかなり違うと思ったのだけど…」

「…ああ、角度を変えると少し違って見えるな」

「でしょう?私本当に驚いちゃったの」


 違いが分からないのに嘘をついてしまったのでエレオノーラの笑顔を見ると心が痛む。美しい人は余程の事がない限り美しいままだろう。


「口紅も塗って貰ったのよ」

「ほう…」


 吸い込まれるようにエレオノーラの唇を凝視した。花開く前の蕾ような色をしていると思ったが、花の色なんて沢山あるのに何を考えているのだろうと思った。

 エレオノーラの唇の凝視し続けていると、彼女が自分の胸を一回叩いてきた。抵抗したのかと思ったが違ったようだ。


「さっき領主達と顔を合わせたのだけど、北領領主が見当たらないと思ったら!」


 エレオノーラはかなり興奮しているようだ。そんなに驚いたのか。


「ん、俺もさっき領主達とあったけどいなかったな」


 嫌でも目に付く大きな体をした人間はいなかった。


「でしょう?」

「ああ、南東領主と南西領主と挨拶したが北領領主はいなかった」

「一緒にもう一人いなかった?」

「そういえばいたな……え?まさか……」


 記憶を蘇らせてみる。二人のすぐ近くに叔父ぐらいの年齢の男性がいた。服装からすると従者ではなく領主だろうと思ったが他の領の領主だと思った。そう言えば北領領主の従者もいた。


「食事の量や回数を減らして運動もしたと言っていたわ」

「あれだけ太っていたのに、あの大きさになったのか」


 普通よりは少し大きいが小太り程度だ。


「人は変われるのね」

「よかったな…」


 北領領主は思っていたより若かったようだ。顔にも体にも肉がついていたから年齢が分かりにくかったようだ。


「国も少し緑が増えたの。後は生き物が戻って来てくれれば…」

「時間はかかるだろうが大丈夫、根気強く続ければ戻って来てくれるさ」


 エレオノーラは自分の腕の中で頷いた。


「…アレクセイ。いえ、アリョーシャ…次はいつ会えるの?」

「……」

「ごめんなさい…」


 エレオノーラは涙を溜めていた。彼女は顔を隠してしてしまい、そして自分の腿から降りてしまった。


「エレオノーラ…」


 彼女の背中を見つめる。

 小さく鼻をすする音がした。


「っごめんなさい。再会したばかりなのに、もう次の話をするなんて…」


 エレオノーラは我慢していたのだ。自分がすぐに帰国してしまう悲しさがあるのに、無理をして明るく振る舞っていたのだ。


「……」


 自分はエレオノーラを後ろから抱きしめた。


「エレオノーラ…俺は……」


 言葉が出てこない。


「心配かけてごめんなさい。もう大丈夫よ」


 彼女は振り返って笑顔をみせた。


「…エレオノーラ、小説面白かった。ありがとう。何か礼をさせてくれないか?」

「そんなっ!あれがお礼なのに、お礼のお礼だなんて変だわ。私はあれだけでも足りないと思っているのよ?」

「では、エレオノーラを俺にくれないだろうか?」


 彼女を見つめると、彼女の目には自分がいた。


「え?」

「それでだ、セマルグルからは祝いの品は持って来ているが、俺自身は手土産を何も持って来ていない。俺をエレオノーラにやる」


 よくこんな恥ずかし台詞が言えたなと思う。顔と耳が熱い。顔から火が出そうだ。


「それって…」


 エレオノーラは固まっている。


「結婚しよう。ずっと一緒だ」


 自分はエレオノーラを抱きしめた。


「本当?」

「ああ」

「本当に本当なの?」

「ああ」


 自分は片膝をつき、エレオノーラの右手を握った。そして自分は真っ直ぐと彼女を見た。


「もう一度言う。俺と結婚しよう」

「っはい…」


 エレオノーラの顔は彼女が流した涙で濡れていた。




「落ち着いたか?」


 自分が尋ねるとエレオノーラは激しく頷いた。

 彼女が落ち着くまで椅子に座っていた。今はそれぞれ椅子に座っている。


「本当に私でいいの?」

「エレオノーラでなければいけないんだ」


 自分は覗き込みながら言うと、エレオノーラはハンカチで涙を拭った。また涙が出て来たらしい。化粧はとっくに落ちている。目を腫らしているが、素顔でも十分綺麗だ。


「後で両親達の遺骨を安置してくれる部屋に一緒に行ってくれる?」

「もちろんだ」


 両親()と言うのは弟か妹の遺骨も見つかったからだろう。


「水で濡らした布を貰ってくるか?目、痛いだろ?」

「…お願い」


 戸を開けると見張りの兵士達と自分の部下達がいた。ドナートとアルトゥールも今回一緒に来たのだ。ミハイルは連絡係としてケレース王国にいたが、自分が来たので護衛をしてもらっている。


「…水で濡らした布を頼めるか?」

「はい!」


 アルトゥールが大股で取りに行った。義兄であるドナートと一緒にいたくないだけと思われる。


「何かあったのでしょうか」


 ミハイルが眉間に皺を寄せて言った。


「陛下が泣いたので目元を冷やしたいんだ」

「陛下に伝えられましたか?」

「…ああ」


 ドナートに確認された。恥ずかしい。


「では、義弟が戻ってきたら私から宰相殿に報告しに行きます」


 ドナートは笑顔になった。義弟と言った時は顔が引きつったように見えたが気のせいだろう。ミハイルはドナートを見て笑いを堪えている。


「俺は部屋の中に戻っている」

「はい」


 部屋に戻るとエレオノーラが笑顔でこちらを見ていた。


「皆さんいらしてるのね」

「ああ、ドナートに会うのは久しぶりだな」

「ええ」


 アルトゥールとミハイルは交代でケレースに来ているが、ドナートはずっとセマルグルにいたのだ。


「…ハンカチ汚してしまったわ。洗って返すわね」


 最初はエレオノーラ自身のハンカチで涙を拭いていたが、涙と化粧で汚れてしまったので自分のを貸した。


「返すのはいつでもいい」

「ありがとう」

「…夫婦になるのだから、口吸いぐらいよいだろうか」

「えっ、駄目よ。赤ちゃんが出来――」

「出来ない」


 やはりだ。思った通りだ。何となく察していた。


「え?そうなの?」

「何故口と口が接触して子どもが出来るんだ。どうやって子宮まで行くんだ」

「血管を通って…?」

「それでは出来ないからな…出来ないから、いいだろうか……」

「それならいい――」


 エレオノーラが言い終わる前に、自分と彼女の唇と唇を接触、もとい口吸いをした。

 支えるために彼女の頭と腰に手をやった。


「ぅんんー!」


 少ししたらエレオノーラが何か訴えているので唇を離す。


「くっ、苦しいわ」

「鼻で呼吸すればいいだろう」

「そうよね!いつも鼻で呼吸しているのに何故忘れちゃうのかしらね?不思議ね!」


 これは照れを隠すために喋っているのだろう。


「そうだな。理解したからもう一度するがよいか?」


 自分は手に少し力を入れて彼女を引き寄せる。


「ちょ、ちょっと待って。鼻息が荒くならないかしら?」

「気にしないし気にしないでくれ。もういいか?」

「わ、分かったわ。もう一度…」


 戸をノックする音が聞こえた。なんと間の悪い。

 戸を開けるとアルトゥールがいた。自分は睨みつけるようにアルトゥールを見下ろす。


「…ご所望の品でございます。失礼しましたっ!」

「助かる」


 アルトゥールから水に濡らした布をおぼんごと受け取った。

 戸を閉めるとエレオノーラはまた笑っていた。


「ほら、目を冷やそう」

「うふふっ。ありがとう」


 エレオノーラに布を渡し、彼女は目元を布で覆った。


「ひんやりして気持ちいいわ…」

「そうか」


 自分は悪い奴なので、視界がふさがれているエレオノーラの口をふさいだ。




 どこまで書いていいのか分からなかったので、控えめにしてみました。このくらいなら全年齢で大丈夫なんでしょうか…。サブタイトルでネタバレしたら嫌なので、何にするか何十分も悩んでしまいました。

 続きが気になる方は評価&ブクマをお願い致します。暑さは吹っ飛ばないけど多少元気になります。

※予告なく加筆修正をする場合がございますので、予めご了承ください。

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