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58.物見遊山

 王の視点です。

 この回から月日の経過が早くなります。


 アレクセイが帰国の途についてから三日経った。今頃南東領辺りにいるだろう。もしかしたら南東領領主から東領が女学校を閉鎖した理由を聞かされているかもしれない。

 東領が女学校を閉鎖したのは東領出身の侍女があの男に愛人まがいの事をさせられたからだそうだ。侍女は逃げ帰ったそうだが、その報告を受け同じ被害が起きないように告発しようとしたが、逆に処分されるのではないかと思い女学校を閉鎖するに至ったのだった。


(東領領主はあの男の異常性に気が付いていたのね。もっと風通しが良ければ大事に至らなかったのかも…)


 南西領領主から西領に支援を開始したと報告された。支援と言っても南西領も被害が出ているので、物資ではなく建築技術者を送ったらしい。西領は建物の被害が顕著なのだそうだ。住居は全部同じ間取りにし、設計の時間を短縮、すぐに建設に取りかかったそうだ。外観を変えれば家を間違えたりしないだろうとの話だ。

 南領領主の母親は噂通りの人物だった。各領から即位祝いの書簡が届いたが、南領は領主の他に母親からの手紙も同封されていた。当然ながらこれは他の領にはなかった。手紙の内容を要約すると、早く結婚して男児を産み譲位しろと書いてあった。


(この人に学校の先生を任せていいのかしら…。他にも権力から遠ざける方法を考えないと…)


 自分はため息をつき、目をつぶった。

 夕食も湯浴みも終わり、一人で寝室にいる。


(いちいち相手にしていたら疲れてしまうから、無視しようかしら?)


 無視していたら相手の不満が増大しないか不安でもある。宰相達は気にするなと言ってくれたが、これから先、ずっと突っかかられるのも困ってしまう。

 自分はくまさんに視線を送る。くまさんの首には青いリボンが結ばれている。アレクセイへの手紙に結んだリボンと同じ物だ。

 アレクセイは手紙を読んでくれただろうか。自分はアレクセイから貰った手紙を何回も読み汚さないように大切に閉まってある。どのくらいの頻度で手紙を書いたらいいのだろうか。毎日は論外だとして、毎週なのか隔週なのか一ヶ月に一度なのか。


(きっとセマルグルの王城に到着したら連絡が来るわよね。そうしたら返事を書いて…)


 アルトゥールに聞いたら国境を越えるのは三日四日ほどだが、セマルグルの王都にある王城までは更に倍近くかかるらしい。やはり大陸一の国土を持つ国は国内の移動だけでも時間がかかるようだ。


(書いて…次はいつ手紙が来るのかしらね……)


 自分は寝台に移動し、寝台の脇の机からくまさんを手に取った。くまさんはいつもと変わらない顔をしている。


「本当にまた会えるのかしら…」


 自分で呟いて悲しくなってしまった。言わなきゃよかった。

 アレクセイは自分が貸した本を読んでくれているだろうか。移動するだけで疲れてしまうだろうから、読んでいないかもしれない。

 自分は寝台を登った。少し慣れてきたので前よりは楽に登れるようになった。筋肉も少しついてきた気がする。鍛え続けたら自分もアレクセイのようになるだろうか。自分はアレクセイの顔を思い出し、懐かしさを感じた。自分にはそれほどの時間が流れたように思える。


(夢で会えたらいいのに…)


 自分はそう思いながら眠りについた。




 翌日の昼すぎ、イワンが執務室にやって来た。イワンは部下のセルゲイを残し、アレクセイが帰国した翌日から周辺の領に視察と称して物見遊山していた。ちなみに物見遊山と言ったのはセルゲイである。


「女王陛下、ただいま戻りました」


 イワンは礼をした。


「どの領を回ったのでしょうか?」

「北東と中央と東に。北東は木材の伐採や運搬に前職の将軍達を送ったそうですね」

「ええ、何か問題でもありましたか?」


 人質を取られていた前将軍と兵士達は自ら望んで重労働を志願した。


「いいえ、真面目で立派な働きぶりでした。あまりの働きぶりに禿げ山になるのではないかと思いましたよ」


 森林の管理者が伐採する木を決めているだろうから、禿げ山になんてならないだろう。


「えっと、今のは冗談ですよね?」

「…真顔で返さないでほしいですね」

「陛下、上司の非礼をお詫び致します」


 セルゲイは悲しげな顔をしているが、わざと表情を作っているらしい。アルトゥール曰く、あの人は笑顔で人を刺してもおかしくないのだそうだ。自分にはそんな危険人物には見えない。もしかしたら比喩か何かだろうか。


「少しふざけたって罰は当たらないだろうに」


 イワンは渋い顔をした。やはり冗談を勉強しないといけないようだ。


「…中央と東はどうでしたか?」

「…えー、中央領は思っていた以上に荒れていますね。戦闘があった訳でもないのに建物も農地も居住区もあそこまで荒れるとはね。中央領には新しい領主が立たないのを不安がっているのも見受けられました」


 宰相が部下を送ったと言っていた。補佐官をはじめとして皆優秀な人物だそうだ。


「分かりました。湖はどうでしたか?」

「あー、そちらまでは行ってないです。後、東領はこの中なら一番よい状態でしたね」

「…ええ、存じております」

「陛下、申し訳ございません。上司は資料を見ていないのです。後で読ませます」


 セルゲイはまた悲しそうな顔をして見せている。


「うるせぇ、実際に見ないと分からないだろう!」


 イワンはやや声を張った。


「そうですね。実際に見た感想をお聞かせください」

「ええ、国民の表情は明るかったので、復興するのは早いでしょう。過ぎた事を気にするより、前を向いて突き進むのがいいと分かっているようです」


 空元気でなければよいのだが。


「我が国のため尽力してくださり、連合国軍の皆様には感謝しております」

「ええ、食糧の強奪も起きていないそうですし、皆が協力しあっていますね。今の所は、でしょうけど」

「イワン殿下、含みのある言い方をしてはいけません」


 イワンはセルゲイをじろりと見た後、ため息をついた。


「まだ平等だからでしょう。これで地域格差が出てきたら不満が爆発しかねないですね」

「格差…。中央領で起こる可能性が高いでしょうか?」


 イワンは頷く。新しい領主がいないのも十分な原因になる。


「だからと言って、陛下が顔を出してはなりません。今度は他領で何故うちには来てくれないんだ、となりますのでね」


 考えなくはなかったが、そこまで単純な思考はしない。その後の事まで考えているつもりだ。


「ええ、王とは何か分かっているつもりです。私の言動一つで大勢の人生が狂いかねないのも重々承知しています」


 イワンは目を大きく開いた。そしてすぐに笑った。


「ははは!これは失礼しました。そうだ、お詫びに私の友人を紹介しましょう」

「?ええ…」


 お詫びに友人を紹介とはなかなか強引だ。


「窓を開けてもよろしいですか?」


 イワンが言うと侍女達は困惑していたが、イワンは危険ではないというので窓を開けた。


「陛下、窓から離れていてください」


 そういうとイワンの左手にはいつの間にか分厚そうな手袋がはめられており、左腕を窓から出し右手で持っていた笛を吹いた。ピーと音が鳴った。

 どこかから羽音が聞こえて来たと思ったら、大きな鳥がイワンの左腕に乗って来た。大きな鳥は数回羽をはためかせ羽を畳んだ。


「よし、いい子だな。陛下、紹介します。犬鷲のタチアナです」


 イワンはセルゲイから渡された物をタチアナに食べさせている。


「こんにちはタチアナさん。綺麗な羽並みですね」


 タチアナの羽は全体は暗い茶色だが、後頭部だけ色が薄く金色っぽく見えた。目つきは鋭く、色は橙色ぽい。嘴と足は黄色く、嘴の先端は黒を帯びている。嘴と足の爪は尖っておりとても鋭そうだ。これが猛禽類なのか、と思った。


「タチアナ、陛下にご挨拶を」


 タチアナは自分をじっと見た。そして人間がやるように首を傾げた。


「鷲は雌の方が大きくなるのですよね?」

「ええ、そうです。よくご存じで。今までの友人も全員雌ですね」

「ずっと一緒ではないのですか?」

「ええ、数年経ったら繁殖のため自然に帰します。タチアナは五代目だったかな?」


 言葉が通じないので調教するのも大変だと思う。それを数年ごとに行うのは労力がいるだろう。向き不向きもあるだろうから鷲の選定も大変そうだ。


「そうなんですね。知りませんでした。タチアナさんはどんな仕事をするのでしょう?」

「情報を得るために伝書鳩を襲わせます。もちろん相手も暗号化していたり、わざと偽の情報を流したりもしていますけどね」


 伝書鳩が襲われるのを前提にして行動しているのか。


「たまには動物や鳥と触れあうのもいいでしょう?」


 イワンは笑った。タチアナは笑い声に反応して首を傾げた。何があったのか確認しているのだろうか。


「はい、いい気分転換になりました。ありがとうございます」

「息抜きも必要ですからね」

「イワン殿下は息抜きをしすぎでございますが」


 セルゲイが真顔で言った。


「今回のは視察と激励をしてきたんだ。他国の隊長にも挨拶せねばならないしな。決して息抜きではない」

「次の息抜きはいつですか?」

「陛下までおっしゃるとは…」


 しばらくは王都内を見て回るそうだ。次は北西領と西領と南領に行くつもりらしい。北西領は司法大臣の出身地で、西領は新しい領主がおり南西領から支援を受けている。


「南領…」


 自分は南領領主の母親からの手紙を思い出してしまった。


「どうされました?」


 イワンに南領領主の母親について話したら、目の色を変えて自分に任せて欲しいと言ってきた。セルゲイの顔が一瞬だけ引きつったがすぐに元に戻った。セルゲイの反応が気になったので、もし南領に行くのならばセルゲイを連れて行くようにと言った。


「な、何故…」


 イワンの顔は青ざめている。

 多分セルゲイはイワンの子守りなのだろう。危険な事をしそうになったら止める役目なのだと思う。現にセルゲイはほっとした表情になっている。

 今回セルゲイを残して他の部下と物見遊山したのは邪魔されたくなかったからだろうと推察する。


「そうですよね。私はただの王ですものね。連合国軍の司令官殿に指図出来ませんよね。失礼いたしました。どうぞ好き勝手に国中どこにでも行ってください」

「上司が無礼極まりなくて誠に申し訳ございません。陛下のお言葉をに背くなど、まさかそんな愚かな事をしでかすとは…」


 セルゲイが泣き真似をしている。


「…分かりました。南領に行く時はセルゲイと行きます」




 今日も無事に終わった。イワンから友人のタチアナを紹介してもらった。アレクセイへの手紙に書こうと思う。セルゲイが面白い人だというのも書こうか。彼を見ていたら冗談を学べるかもしれない。

 寝台に横になる。いつものようにちょうどいい硬さである。

 アレクセイはまだ自分の夢に出て来ていない。今日こそは会えるだろうか。




 セルゲイは基本笑顔です。

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