33.決心
前話の後書きで今回の話は王女しか出ないと言いましたが、最初の方に王子がチラッと出ていました。
王子の言葉に返答しようとしたら噛んでしまってとても恥ずかしかった。王子の方を見ると顔を横に向け、口元を抑えて震えている。もしかして怒っているのだろうか。
「あのう…王子が大切な事を言ってくださったのに、噛んでしまいすみませんでした」
自分が恐る恐る王子を見ると目が合った。どうやら怒っているのではないようだ。
「いいのです。大丈夫ですよ」
王子は笑顔で許してくれた。やはり心優しい人である。全然愚か者ではない。
自分は漸く夕食を食べ終える事が出来たので、王子が帰って行った。長く部屋に留めてしまったのにも関わらず、部屋を出て行く時も笑顔だった。自分もあんな人になれるように励もうと決意した。
王子が出て行った後、部屋に侍女達が入って来て就寝の準備をしたてくれた。今日は予期せぬ事が沢山あって、とても疲れてしまった。長い長い一日だった。
寝台の上に横たわると一気に眠気がやって来た。目元が重たかった。寝る前に色々頭の中を整理したかったのだが、睡魔には勝てそうにない。だが、突然先ほどの出来事が頭に浮かぶと眠気が飛んでいった。
『愛情表現ですよ』
王子が言った愛情表現とはなんだったのだろうか。抱擁なら親子や親しい者達の間でも行うだろうから親愛の印の抱擁だったのだろうか。その前に愛おしく思ったと言っていた、これもやはり親しい者への言葉だろうか。
『それはとても嬉しいのですが、一国の王子が贈り物をしたら騒がれてしまいませんか?』
『別に私は騒がれても構いませんよ。…大切な人に贈るのですし』
『まあ!それを私以外の方に言ったら勘違いしてしまいますよ』
『勘違いしてくださらないのですか?これでも少しはモテていたんですよ。全て無視していましたけど』
嬉しいことに大切な人と言うのは自分だろう。勘違いしてくださらないのですか、とは勘違いしてほしいのだろう。それ以外に解釈しようがない。
(えっと、どういう事かしら…?)
『塔に十年間閉じ込められていた人を好きだなんていう人は、きっと世間知らずなのを良いことに騙そうとしている悪い人です。それにこんな痩せっぽちでみすぼらしい人を好きになるなんて変わり者です』
『じゃあ俺は変わり者で悪い人だ』
王子のこの返答もよく分からない。これでは、まるで王子が自分を好きみたいに聞こえる。
(いえ、そんなはずは…。そんなはずないわ…)
王子と出会ってから今までを思い出してみる。王子はいつも親切にしてくれた。気遣ってくれた。優しくしてくれた。しかしそれは…。
(私が王女だからだわ。王族だからよ)
自分は枕に顔を埋める。
何度も考えたが、自分が王族ではなかったらどうなっていたのだろう。そもそも塔で王子が信じてくれなかったらどうなっていたのだろう。王子は誰であっても助けた、いやそうでない、と頭の中で肯定と否定を繰り返すが答えは出てこない。
仮に助けたとしても大勢の中の一人としてだ。特別に親しくしてくれるなんてないだろう。
(これでは私は王子の特別になりたいみたいじゃない)
皆が自分の世話をしてくれるのは、親切にしてくれるのは期待しているからだ。自分に責任がかかっているからだ。この国のためだ。
(私なんかが王子の特別になりたいだなんておこがましいわ。こんな卑屈な考えしか出来ないのだもの)
なんて愚かな、と思った所でやめた。先ほど王子も愚か者と言っていなかっただろうか。
『貴女の前で格好つけているだけの愚か者だ』
自分は体勢を元に戻し仰向けになった。
何故自分の前で格好つけるのだろうか。自分だったら格好つけるのはどんな時だろうかと考えてみたがよく分からなかった。例えば褒めて貰いたい時とかだろうか。良い人と思われたい時だろうか。だとすれば王子はすでに良い人なのだから格好つける必要はない。
今度は今まで読んだ本の登場人物達の事を思い出してみる。彼ら彼女らが格好つけたのはどんな時だっただろうか。
(やっぱり相手に良く思われたい時よね…。後は気になる相手に振り向いて欲しい時とか、相手をしてほしい時とか…?)
振り向くとはなんだろうか。物理的ではなく精神的な事であるのは分かる。相手に好意を持ってほしいのだろうか。それだと王子が自分に好意を持ってほしいと思っているとなる。
(大国の王子で、広い世界を知っている人が私を?まさかそんな…)
寝返りを打ち、窓に背を向ける。夜中なので外は暗い。
(もしそうだったらとても嬉しいのだけれど、王子の隣に立てるかしら。立っても笑われたりしないかしら…)
王子は身分だけでなく、人となりも立派だ。顔立ちもいいと思うし、体格もしっかりしているし、声も心地よいと思う。対する自分は…。
(卑屈になるなと言われても、これだけ貧相だと…まわりと比べてはいけないのは分かっているわ。だけど……)
自分の腕を触ってみるとすぐに骨の感触がする。他の部位もそうだ。背骨やあばら骨は出ているし、腰骨も存在感がある。顔だって頬は痩せこけていて見栄えがよいとは言えない。声だって鈴を転がすような声ではない。
(ミイラってこんな感じかしら。ああ、でもミイラは乾燥しているのよね。少しお肉がついたら王子の、アレクセイ様の隣に立っても大丈夫かしら?)
見た目なども含め、本当の意味で対等だと思われたい。同情されるのは嫌だ。
(後ろ向きに考えてしまうのも直していかないと…。皆さんが私に良くしてくれるのは皆さんが良い人だからよ。それにどんな理由があっても親切にしてくれた事実は変わらないじゃない。仮に見返りを求められてもそれは当然だわ。無償の愛だなんてとても素敵な言葉かもしれないけど、それが当たり前になっちゃいけないのよ。対価を貰ってもいいのよ)
むしろそれが人間らしいと思った。報われる報われないを考えずに行動出来る人はごく少数だと思う。やはり何かしたら褒められたり、感謝されたりしたい。ほんのちょっと声をかけて貰えるだけで嬉しくなる。単純かもしれないが、それでいいのではないだろうか。
(王女の私でも、ただのエレオノーラの私でも…それが私。そうでしかないわ。自分で壁を作ってしまっては駄目よね。後、体型はきちんとご飯を食べて、運動とかして、体力もつければ……)
「アレクセイ様!」
自分が呼ぶと王子が振り返った。
「王女、どうされました?」
王子は笑顔だ。
「あの、あのですね、アレクセイ様は私の事をどう思ってらっしゃいますか?」
昨日の疑問を思い切って聞いてみた。
「どうとは?」
王子は首を傾げる。
「端的の言いますと、好きか嫌いかです!」
自分ははっきりと言った。
「ああ、昨晩の愛情表見をそう捉えられましたか。困りましたね。勘違いさせて申し訳ないのですが、あれはその場の雰囲気で言っただけです」
「えっ?」
「ですので、そんなに気にしないでください。貴女を好きになるなんてあり得ませんから」
「!!!」
雷に打たれたかのような衝撃があり目が覚めた。とても現実味のある酷い夢だった。王子の声も表情もなにもかもが現実と同じだった。
心臓は速くなっており呼吸も荒くなっている。汗もひどい。
(夢、だったのね。よかった…)
上半身を起こし、一回深呼吸した。そして手の甲で汗を拭う。
よかったと思って見たものの、本当に夢だったのだろうか。まだ心臓は激しく動いている。
(あり得ないって……。もし本物のアレクセイ様がそう言ったら、私は……)
窓の方に顔を向けるとまだ夜中のようだ。眠りについてからすぐに夢を見たのだろうか。
再び横になり、心を落ち着かせようと数回深呼吸をした。
もし王子がそんな事を言ったら立ち直れないかもしれない。塔に連れて行かれた時の絶望感を再び味わうのだろうか。
(そんな思いはしたくないから、何も聞かないでおきましょう。そうすれば何も感じないし、何も思わない。誰も傷つかないわ。きっとそれが一番いい…)
本当にそうだろうか。
(いいのよ。それで)
もう会えなくなるのにいいのだろうか。
(分かっているけど、綺麗な思い出として残しておきたいの)
もっと綺麗な物が沢山見られるかもしれないのに本当にいいのだろうか。
(不確定な事に挑戦出来るほど強くないの。塔での十年は長すぎたのよ)
その塔から救い出してくれたのは誰だっただろうか。
(………)
夢の中の自分の方が立派だった。夢の中の自分だったら本物の王子の隣にいても笑われたりしないだろう。駄目で元々、聞いてみようか。あり得ないと言われたっていいじゃないか。どんな返事でもいい思い出になるだろう。きっと笑って話せる時が来るだろう。
次回は王子も…。
少しでも続きが気になる方は評価&ブクマお願いします!
※予告なく加筆修正する場合がございますので、予めご了承ください。




