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31.星空

 王女の視点です。

 ※2020/06/01加筆修正いたしました。


 舞台の上からは何百もの人が見える。ほとんどの人が痩せ形で、明らかに満足な食事が出来ていなかったと分かる。


「最後に…皆さん知足(ちそく)という言葉を知っていますか?遠い国の言葉です。吾唯(われただ)足るを知る、足るを知る者は富む、などと使われるのだそうです。この言葉の意味は満足を知る者は不平不満がなく、心豊かに生きる事が出来る。自身の欲望を制御出来、私利私欲に走ったりしない人の心は豊かである。そういった意味を持つのだそうです」


 この言葉を見つけたのは自分の運命を悲観していた時だった。考え方を変えただけで少し楽になった気がした。


「自らの欲望を抑えきれずに贅の限りを尽くした者の末路は明らかです。何人もの人が犠牲になりました。贅沢をするなとは言いません。身の丈にあった贅沢ならば良いのです。ただ身の丈を超えた贅沢は際限なく続き、その身を滅ぼす事もあるのだと頭の隅に入れておいてください」


 なんだか偉そうで説教臭くなってしまった。小娘の癖に生意気だとか思われていないだろうか。少し血の気が引いてきた。

 大広間に集まった人達の顔を見る。皆が自分を見つめている。しばらく静かにしていた心音がうるさくなってきた。全身の毛穴が開き汗が出て来た気がした。


「…以上です」


 これでよかったのだろうかと不安に思っていたら、まばらに拍手が聞こえてきた。その拍手はどんどん大きくなり、大広間中に響き渡った。


「あ、ありがとうございます!」


 お辞儀をして顔を上げたら、王子と目が合った。王子はいつものように優しく微笑んだ。


「皆さん、王位継承法は改正され、女性参政権も復活しました。よってエレオノーラ様は王となり、この国を治められます」


 王子はよく通る低い声で言った。

 自分は王になる。復興を成し遂げて改めてこの国を取り戻したといえるだろう。


「皆さん、共に頑張りましょう。お力添えの程、よろしくお願いしますっ!」


 もう一度お辞儀する。顔を上げると皆がきょとんとしている。また、おかしな発言をしてしまったのだろうか。


「王様なんだから、命令してくれりゃ俺たちゃ何でもやるぜぇ!」

「どんどん言ってちょうだいね!こんなに可愛い王様のためだったら頑張るわよ!」


 先ほどまできょとんとしていた人達の顔が笑顔になっている。皆は自分を受け入れてくれているようだった。


(よかった…本当によかった……)


 大臣達も書類がない事を悪用したのではなく裏をかいて利用したのだ。国の被害を出来る限り抑えようとしていたのだ。この国は大丈夫なんだ。こんなにも心強い人達がいるのだ。

 拍手は自分が舞台からいなくなっても鳴り止まなかった。




「お疲れ様でした。見事でしたね」


 王子は落ち着いた声で言った。もちろん表情はいつも通りの笑顔だ。

 大広間からは人が退場しており、大臣達や王子の部下、侍女達しか残っていない。他は警備のための兵士が残っている。


「ありがとうございます。あの、私はおかしな事を言ってませんでしたか?無我夢中になってしまって何を言ったのか覚えてないのです」


 自分は大分落ち着いてきたが、まだ少しドキドキしている。


「いえ、何もおかしな事は言ってませんでしたよ」

「ええ、そうですとも。こんなにご立派になられて…、ううっ、残り短い人生ですが、全て王女様のために尽くします」


 宰相の目はすでに赤くなっており、ついさっきまで泣いていたのだろうに、また泣き出したのだった。それを見た侍女達もつられて泣き出した。


「えっ!それはとてもありがたいのだけど、お、大袈裟じゃない…?」


 今まで十分すぎるほどに尽くしてきてくれたのだから、趣味など好きな物に時間を使って欲しい。今はまだ宰相の力を借りなければならないが、安心して隠居出来るように頑張らねばと思う。


「いえいえ、そんな事はございません。ああ、色々と手続きをしませんと。明日、国中に即位の報を出しませんと。その前に書類に署名していただいて、正式に王になって貰わねばなりませんね」

「では王女の部屋に戻りましょう。皆さんはもうお休みになりますか?」


 王子は大臣達に言った。部屋に着いてくると言われても、これだけの人数が中に入れるほど広くない。


「そうですね。調べ物をしたく思いますので、こちらで失礼させていただきます」

「私も書類整理などが残っておりますので、失礼いたします」


 財務大臣と司法大臣が言うと他の大臣達も同意しここで別れる事になった。自分は大臣達に礼を言うと皆笑顔で帰って行った。


「私は王女様の部屋まで同行させていただきます」


 将軍がにこやかに言った。




 部屋へ戻る道中、何人かとすれ違った。皆が立ち止まって挨拶をしてくれた。今までは誰にも見つからないように隠れて行動していたので不思議な感覚だ。


「王子がご自分のお城にいる時もあのように挨拶されるのでしょうか?」

「いえ、身分の低い方が道の脇に避けて軽く頭を下げる程度ですね。いちいち挨拶していたら、時間がかかってしまいますからね。移動だけで日が暮れてしまいます」


 セマルグル王国は大国なので城にいる人達も大勢いるのだろう。城自体も大きいだろうから移動が大変なのだろう。


「きっと王女様とお会い出来て嬉しいのでしょう」


 将軍が嬉しそうに言った。


「私も皆さんに会えて嬉しいです…。皆さんは私の話を聞いてくださいました。そして受け入れてくださいました。とても嬉しいです。ありがたいです」


 自分は噛みしめるように言った。


「しかし、期待をかけられる度に肩が重くなり、息苦しくなっていった…。なんて事にならないようにしてくださいね。貴女は考え込む癖があるようですので」

「はい…」


 王子に言われて気付いた。一人で考え込みすぎないようにならなければならない。今まで大して力がないのに、何でも一人で出来るようにしよう思っていた。最初から出来るわけないのに焦っていたからか、とても恐ろしい考えをしていたようだ。はじめから上手くいくなんてほぼない。子どもが成長するように段階があるのだ。もっと様々な人の力を借りて成長していければと思った。


「司令官様も王女様と一緒に食事を摂られますか?」

「いいのですか?」


 クラリッサが尋ねてきた。そう言えば夕食はまだだった。

 王子は嬉しそうに答えた。余程空腹だったのだろうか。それともこの国の料理を気に入ってくれたのだろうか。いずれにしろ嬉しく思った。


「それでは書類の署名は明日の朝にしましょう」

「ええ、そうですね。我々はここで失礼いたします」


 宰相と将軍がここで別れて各々の自室に戻ってしまった。


「…外はもう真っ暗ですね。もしかしたら月が見えるかもしれませんね。」

「見えるのですか?」


 自分は王子の方へ勢いよく振り向いた。何日か前に月が見られなかったので、月を見てみたかった。

 あの部屋だとあまり空が見えないのだ。


「食事の用意をしてもらっている間に見に行ってみますか?」

「はい!」


 王子と自分は月を見に以前、外の風景を見た時に使った城の最上部へ向かった。




 最上部に続く階段を王子の手を借りながら上った。以前よりも上るのが楽になっていた。部屋でリーザから筋肉の鍛え方を教わったおかげだ。

 扉が開くと少し冷たい風が顔に当たった。すかさず王子が自分の前に出て、風避けになってくれた。

 王子はドナートからランプを受け取り、扉を閉められ王子と二人きりになった。


「ありがとうございます」

「いえ、それより寒くはないですか?大丈夫ですか?」

「少し肌寒いぐらいですので大丈夫です」

「そうですか。寒くなったらすぐに言ってくださいね」

「はい」


 話し終わった後、二人で月を探した。頭上には星空が広がっているが、いくら探しても月は見つからなかった。


「満月を過ぎたら月出は遅くなりますからね。まだ見られないようですね」

「また見られませんでした…」

「いつでも見られますよ」

「っ…」


 言おうとして止めた。言ったらとても悲しくなる。鼻の奥が痛くなった。


「?」


 王子が首を傾げた。表情はあまり見えないが、不思議そうな顔をしているのだろう。


「…何でもないです」


 言わない方が良いだろう。引き止めてしまうのは嫌だ。王子の帰りを待っている人は沢山いるのだ。


「是非とも貴女と一緒に月が見たかったですね」

「え、本当ですか?!」


 慌てて王子の方を向いた。今さっき言おうと思って止めた事を王子が言ったので驚いてしまったのだ。王子と同じ風に考えていたのが嬉しかった。


「もちろんです。帰っても月を見る度に貴女を思い出すでしょう。貴女の髪の色と同じ色をしていますからね」

「…では私は夜空を見たら王子を思い出しますね。王子の髪の色と同じ色をしていますもの」

「それは夜にしか思い出してくださらないと言う事ですか?」

「それを言ったら新月の時には思い出してくださらないのですか?それに昼間の月は金の色には見えないじゃないですか。それに月は青や赤に見える時があるそうじゃないですか」


 月は満ち欠けによって昼間に見えたりするのだそうだ。塔に入った後で知ったので昼間の月は見たことがない。もう隠れている必要はないので今度見に行ってみようか。

 月が青や赤み見えるのは大気の影響らしい。これも機会があれば見てみたい。


「…確かにそうですね。では常に金色の月の絵を持ち歩くとしましょう」

「えっ!」

「そこは夜空の絵を部屋に飾りますとか言ってくださらないのですか?」


 王子は少し意地悪な感じに言った。表情は見えないがきっと顔もにやりと笑っているに違いない。


「か、飾ります…」


 そう言って二人で星空を見上げた。王子の国でも同じように見えるのだろうか。

 視線を王子の顔の方に向ける。暗さと身長差で表情は見えないが、星空を見ているのは分かる。


「星空ではなく俺の顔を見ているのか?」

「!!」


 王子はいつもより低い声で、違う口調で言ってきた。王子は自身の顔の近くにランプを持ってきて、顔を照らした。いつもと違った表情をしている。少し悪い笑顔をしている。


「これでよく見えるか?なんならその台の上に乗れば顔の距離が近くなってよく見えるだろう」

「けっ…結構です!」

「ん?そうですか?残念です」


 王子の口調が通常通りになった。

 残念というのは見てほしかったのだろうか。いや違う。


「からかわないでください」

「そんなつもりはなかったのです。貴女の反応はいつも可愛らしいのでつい出来心でやってしまいました。すみません」

「私は…私が世間知らずなのは分かっています。分かっていますけど…」


 王子には言ってほしくなかったと言うのは我が儘だろうか。


「…愛おしく思ったのは本当です」


 今度は子ども扱いされているのだろうか。


「どういう意味でしょうか」

「どういう…?そのままの意味ですが?え?」


 王子は困った喋り方をしている。ランプはもう王子の顔を照らしていないので表情は分からない。


「そのままの意味……」

「そのままの意味です。もしかしてこの国では違う意味もあるのですか?…そうだ!」


 王子が言い終わるとランプを足下に置いた。その後急に自分の視線が高くなった。持ち上げられたらしい。まるで親が子をあやすようだった。


「やはり子ども扱いしていたのですね!」

「え?子ども扱い?違います。愛情表現ですよ。と言っても親が子にするやつではないですよ?」

「アイジョウヒョウゲン?…愛情、表現……」


 思いがけない言葉に驚いて、反芻するように繰り返した。

 そうしていたら王子に持ち上げられたまま抱き寄せられた。自分の顔が王子の肩の近くに寄せられた。何時もよりかなり近くに顔がある。暗くてよかったと心底思った。


「そうです」


 自分の耳元で王子が優しい声で言った。なにやら少し耳がむずむずする。


「気遣われていたのも、子ども扱いしていたからなのではないのですね?」

「もちろんです。ずっと対等だと思っていました。気遣ったりしたのは貴女の体調を心配していただけです。子ども扱いしたのではありません」

「そうだったんですね。私に劣等感があったせいで勘違いを…」


 とても恥ずかしい。自分の頬はとても熱くなってしまった。


「綺麗ですね」

「はい、綺麗な星空です」


 自分は空を見上げた。数えきれない星が見える。絶景とはこの星空のためにある言葉ではないだろうか。


「…貴女の事を言ったのですよ?」

「はぁ…ありがとうございます」


 こんな時でもお世辞を言うのか。自分も何か返した方がいいのだろうか。どんな風に返せばいいのか分からなかったので、同じ言葉を言ってみることにした。


「えと…貴方もお綺麗ですよ」

「ん?」

「違いましたか?相手を褒める決まりがあるのではないのですか?」

「そうですか。ずっとそう思ってらしたと…。まぁ、いいでしょう。そろそろ食事の用意が出来ているでしょうから部屋に戻りましょう」


 どうやら違ったようだ。

 王子は自分を降ろしてくれた。久しぶりに地面に足がついたが、なんだかふわふわしたままだった。




 吾唯足知、知足者富、知足安分にルビを振ると必殺技みたいになるのでやめました。技術や学問などは貪欲さが必要だと思います。飽くなき探究心とか…。

 次回は二人で食事…しながら会話します。いつもと同じといえば同じです。

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