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30.生存公表

 王子視点です。

 ※2020/06/01加筆修正いたしました。


 彼女がピクリと動いた。まさかまた外で騒動が起きているのではないだろうか。ドナートに目線で確認するように指示を出した。ドナートは扉まで行き、開けずに外の状況を聞いている。

 それを見た将軍が彼女のもとにやって来た。


「外に人が集まっているようですね」


 どうやら将軍も気付いていたようだ。

 将軍は小さな声で言ったが、他の者にも聞こえていたようで、大臣達がざわめき出した。


「な、何事ですか?」

「一体何が起るのですか?」


 大臣達は口々に言った。焦っていたり不安な表情になったりしている。

 ドナートが戻って来るといつにも増して険しい顔つきで言った。


「王女様がこちらにいると聞きつけた人達が集まっているようです」


 彼女はすでに聞こえていたのか表情は変えなかった。


「扉を開けたらなだれ込むかもしれない。外の人達を大広間まで移動させられないか?」

「次々集まって来ているようなので難しいと思います」


 ドナートは依然として険しい顔つきのままだ。


「お城って隠し通路とかありませんか?」


 確かに彼女が言う通り、城には王族や重臣しか知らない隠し通路があったりする。現に自分が生まれ育った城には複数の隠し通路があった。


「それを使って大広間までですか?宰相殿はご存じですか?」


 彼女の言い方からすると何処にあるのかは知らないようだったので宰相に聞いてみた。


「うーん、大分改装されているので使えるかどうか……」


 宰相が杖をついて歩き出した。兵士達が慌てて体を支える。

 隠し通路があったらしい場所を手で触って確かめていたが、宰相は首は横に振った。


「駄目ですね。ふさがれています。壊すのも短時間では無理そうです」


 宰相は残念そうに言った。それを聞いた周囲の者は肩を落としている。


「ではやはり外の人達を移動させるしかないのでしょうか」


 ミハイルは眉間に皺を寄せながら言った。ミハイルだけでなくこの場にいるほとんどの人間が眉間に皺を寄せている。


「……」


 王女は下を向いて考え込んでいる。何か突拍子もない事を言いそうだ。


「王女、まさか部屋の外に出るだなんて言い出しませんよね」

「言おうと思いましたが、反対させるだろうと思って黙っていました」


 彼女は苦笑いをしながら言った。


「私が出て宥めて参りましょうか」


 宰相はそう言ったが誰も賛同しなかった。宰相の年齢や体調を考えれば誰も賛同するはずがなかった。


「そんなの駄目よ、危険すぎるわ。カゲムシャ…いえ、替え玉がいれば攪乱出来るのではないでしょうか」


 カゲムシャが何なのかは分からないが恐らく替え玉と同じ意味なのだろう。


「替え玉ですか…しかしここには王女に似た背格好の人はいませんからね。どうでしょう」


 大会議場内を見渡しても彼女ほど華奢な人物はいない。替え玉と言うならば似ている人物でないと務まらない。


「…アルトゥールなら王女様と髪色が似ているから騙せるのではないでしょうか」


 ミハイルの言う通り、アルトゥールは金髪で彼女の髪色と似ている。


「えっ、無理でしょう。体格が違いすぎますよ」


 アルトゥールは両手の平を振り、必死に否定している。確かにアルトゥールは彼女より頭一つ分以上身長が高いし、軍人なので体格もそこそこしっかりしている。


「屈んで布か何かを被れば誤魔化せるでしょう」


 ドナートが鋭い目つきになって言った。確かに身をかがめて顔を隠し、体型が分からぬように覆ってしまえば上手くいくかもしれない。


「こちらをお使いください。寒がりなので膝に掛けておりました」


 内務大臣から膝掛けを預かった。かなり大きな布のようだ。


「こちらの幕を剥がしましょう。皆さん手伝ってください」


 将軍は壁に下がっている幕を引っ張っている。大臣達も将軍に指示されるまま幕を引き剥がすのを手伝った。彼女も手伝おうとしたが全然身長が足りず届かなかった。


「アルトゥール殿どうかご無事で……」


 手伝えなかった彼女は手を合わせアルトゥールの無事を祈った。


「拒否権がない……」


 アルトゥールは顔を青くして呟いた。




「だ、誰か出て来たぞ!」

「将軍が隣におられると言うことは王女様では?」

「王女様!お待ちください!」

「王女様!」


 大会議場前に集まっていた群衆は将軍とアルトゥールを追いかけて行った。

 扉が開いた時に中を覗かれるかもしれないので彼女には大臣達の陰に隠れて貰った。

 アルトゥールの頭には内務大臣から借りた膝掛けを被せ、少し髪が見えるようにした。大会議場の壁から剥がした幕を体に巻き付けドレスに見えるようにした。将軍はドナートよりも体格が良いので比較したらアルトゥールも小さく見えると思う。

 将軍とアルトゥール達を見送ると外で待機していた侍女達とリーザが駆けよってきた。常に彼女の側にいる侍女達は騙される訳がなかった。


「王女様、大丈夫でございましたか?」

「ええ、皆さんに助けて頂いたから大丈夫よ。皆さんありがとうございました」


 彼女が侍女達と話した後、こちらを向いて頭を下げた。それを見た大臣達は驚いたり、涙目になったりしていた。まさか王族である彼女が頭を下げて礼を言うなんて思わなかったのだろう。


「これから大広間に行って公表しますか?それとも後日にしますか?」


 聞かなくても彼女の答えは分かっている。


「もちろん今から大広間に行きます」


 やはりそうだった。彼女は真っ直ぐとこちらを見て答えた。


「我々もお供します。させてください」


 財務大臣が言うと内務大臣も頷いた。


「ありがとうございます」


 彼女は目を細め口角を上げた。

 このやり取りを見て他の大臣達も頷き、結局全員がついていくと言ったのだった。別に強制ではないのでここで解散しようと思っていたが、全員がついていく事を選んだのだ。先ほどの彼女の言動を見て決めたのだろうか。何にせよ大臣達が味方になってくれるのは心強く思う。


「それでは急ぎましょう。王女ではないと気付いて戻って来るかもしれません」

「ええ」


 彼女は頷いた。

 ミハイルに先に行き、大広間を空けておくように指示した。自分達の先導をドナートにさせた。三領主と大臣達はぞろぞろとついて来ている。宰相は兵士達に支えられながら歩いていたら、宰相の部下達がやって来て兵士達の役割を替わっていた。口髭野郎…前宰相は連合国軍の兵士に連れられている。軍医は宰相に付き添うことにしたようだ。

 途中で昼間に財務大臣と共に彼女の部屋に来た財務省の役人達も加わった。


「大事になってしまいました」


 彼女は真っ直ぐ前を見ながら言った。言葉だけ聞くと不安なのかと思ったが、彼女の目から不安は感じられなかった。


「この国の王女の事なのですから当然ですよ」


 自分も視線を彼女から前方に移動させて言った。これだけの大人数で城内をぞろぞろと移動するのは初めてだ。自分の故郷の城でもなかった。


「また心臓が口から出そうになっています」

「私もですよ」


 彼女と二人で少し笑った。




 大広間に到着するといつも作業している人達はいなくなっていた。


「あちらの舞台の上で公表するのですね」


 彼女は胸元で両手を握りしめ、舞台を見上げて言った。緊張で呼吸が浅く短くなっているからか声もやや震えている。


「はい。基本的に王族しか上がれませんので王女と私だけ上ります。…いや、司令官という立場なので上がらない方がいいですかね。領主や大臣達には舞台のすぐ下に立っていて貰いましょう。皆さんお願いできますか?」

「はい」


 大臣達は返事をしたり、頷いたりした。どうやら皆は従ってくれるようである。彼らは舞台の下に並びだした。


「王子、見張りの兵士は壁際だけにしますか?王族をよく思わない輩も混ざるでしょうから他にも配置した方がよろしいかと思います」

「そうだな。舞台の前にも配置するか。舞台の裏はどうなっている?大体裏から入るから通路があるだろう」

「ありました!」


 ミハイルの声が聞こえた。


「姿が見えなければ兵を配置してもいいだろう。そこから侵入されても不味いからな」


 部下達と話していると走ってくる足音が聞こえてきた。こちらに向かってきている。


「司令官殿!気付かれました!」


 この国の兵士だ。宰相が倒れた時にいた兵士達ではない。あの兵士達より若く、彼らの後輩だそうだ。


「そうか、わかった。総員配置についてくれ」

「はっ!」


 兵士達は全員指定の位置についた。彼女には舞台の裏にいて貰っている。リーザに大広間にエレオノーラ王女がいると伝えるように指示を出した。どのくらいで人が集まるだろうかと思っていたら、耳聡い者達が早くも到着した。


「あの、こちらに王女様がいると言うのは本当でしょうか」

「その事について報告があります。ここで待っていてください」


 やはり王女様は生きておられたんだ、噂は本当だったんだ、そう言っているのが聞こえた。

 続々と人が集まった。ちょうど夕食を終えた者が多かったようで集団で来たようだ。先ほど将軍とアルトゥールを追いかけていた者達もやって来たようだ。

 この辺りで財務省の役人達には集団に混ざってもらい、それとなく話を良い方向へ誘導するように頼んだ。王不在の中で不安から苛立ちを感じている者がいるからだ。


「殿下ぁ、何てことさせるんですか。大変だったんですからね。何処までも追いかけて来て怖かったですよ…」


 アルトゥールは顔面が真っ白になっている。対する将軍の顔色は通常通りだ。


「将軍殿はいつもと変わりませんね」

「ふふっ、指名手配されていた身ですからね。あんなのはたいした事ありませんよ」


 将軍は不敵に笑った。…やはり経験が違う。場数も違う。


「かなり集まって来たようですね。そろそろ始めてもいいでしょうか」


 大広間の中はざわめいている。これから何が起るのかと期待する者、怖がる者様々だ。

 自分は舞台の前まで移動すると、大勢の視線が一斉にこちらを向いた。これは慣れていても緊張してしまう。


「皆さん私は連合国軍司令官のアレクセイです。これから皆さんに報告があります。ではまず、こちらの方から話があるので、静かにお聞きください」


 そう言うと彼女が舞台の袖から姿を現した。自分の目の前から次々に歓声があがっていった。彼女は舞台中央に立ち、声を出した。最初に彼女が名乗ると、周囲から嗚咽が聞こえてきた。自分の後ろからも聞こえると言うことは大臣達も泣いているらしい。次に彼女はこの場にいる全員に感謝と労いの言葉を述べた。彼女は緊張で声が震えていたがきちんと喋れているようで安堵した。

 そんな中、突然大声がした。恐れていた王族を憎悪している者からだった。


「騙されるな!そいつは王族だ!どうせ前の王達と同じだろう!」


 大広間中がどよめいた。


「いいえ、違います!エレオノーラ王女様は我々に頭下げて礼を言ってくださった!あの人達はそんな事をしましたか?私は一度さえも礼を言っているのを聞いた記憶はありません!」

「そうです!王女様はあの人達とは違うのです!」


 制しようとしたら、後ろにいた大臣達から声が上がった。


「じゃあ何故、今更出て来たんだ!何故国民が苦しんでいる時に出てこなかった!何故助けてくれなかった!」

「そうだ!あいつらが死んだ後に出て来て一体何だっていうんだ!」

「何人死んだと思っている!」


 彼らの悲痛な叫びも分かるので咎める事が出来ない。だが怒りをぶつける対象が彼女になってしまうのはよくない。


「王女様は十年間もの長い間、塔に幽閉されていたのです。しかし、世話をしていた侍女から国の現状を聞き、私と将軍に使いを出して、嘆願書を出すように指示されたのです!」


 宰相は椅子に腰掛けながら話した。初めは皆と同様に立っていると言っていたが、軍医の勧めに従って椅子に座ってくれた。


「ええ、宰相と私とここにいる北、南東、南西の三領主が署名し嘆願書をセマルグル王国に提出したのです!」


 宰相と将軍は誅伐嘆願書についての話をした。納得したした者もいたようで大分静かになった。しかし、まだ不満を持っている者がいるようだ。


「皆さん、今は反感があるかもしれませんが信頼を取り戻せるように努力していこうと思っています!」


 彼女は一際大きな声で言った。あの小さく細い体からあんな大声が出せるものなのかと驚いた。


「し、しかし!王女様の名を騙る不届き者かもしれません!」


 別の者が叫んだ。再び大広間はざわつき始めた。


「今この場に出て来たって事は、もしや王になるつもりか?女に王が務まるとは思えん!」


 ずっと懸念していた事を立て続けに言われた。だが予想していたので大して問題ではない。


「王女様かご本人かは私から説明させていただきます」


 口髭の前宰相が姿を現した。前宰相の姿が見える前の方からどよめきが起き全体に伝染していった。大体が生きていたのかと言う声だった。


「結論から言うとエレオノーラ王女様ご本人です。十年前王女様を塔に幽閉するよう指示したのは私です。当時いた侍女達により王女様を逃がそうとした事がありましたが、私の配下に見張らせていたのでそれを阻止しました。それ以来王女様を脱出させる動きはなくなったので、王女様が別人と入れ替わった可能性はありません」


 逃がそうとした侍女達を処刑した事は言わないのかと思っていた矢先に、大きな声でそれを言う者が現れた。


「わたしゃ覚えてるよ!国家転覆罪だとか言って若い侍女が三人処刑されたのをね!王女様を脱出させよとしたのはその子達の事かい?!」


 全体から悲鳴に近い声が上がった。覚えていた者もいたようで俯く人が何人かいた。


「…そうです」


 前宰相に非難の言葉が浴びせられる。もはや前宰相の糾弾の場になりそうだ。


「静粛に!」


 宰相は杖の先を床に打ち付けて大声で言った。大広間は少しずつ静かになっていった。


「この者の用は済みましたから下がらせなさい」


 連合国軍の兵士達が前宰相を連れて大広間から出て行った。


「宰相、ありがとうございます。何故あの者を生かしているのかですが、彼はこの国に起きたことを把握しており、現在は情報を聞き出している状況なのです。他の捉えられた者もそうです。皆さんが彼らを憎む気持ちはよく分かります。私自身も大切な人達を失いました。憎くて憎くて仕方ありませんでした。しかし、今は国の復興に向けて前に進んで行くのがその人達の弔いになるのではないかと思っています。正直、自分でも綺麗事だというのは分かっています。ですが、前に進まないと父と母に、犠牲になった国民に皆さんに顔向け出来ないのです。皆さんどうか後ろを向くより前を、未来を見てくださいませんか?後ろを向くのを否定する訳ではありません。どうか、後ろを向くのはたまににして欲しいのです」


 彼女は言った。言い切った。彼女の言葉で言い切ったのだった。


「女に王が務まるのかですが、あの男が作った十年間はどうでしたか?よい王に男か女だなんて関係あるのでしょうか?もちろん王だけでなく全ての人を年齢性別関係なく、その人個人の能力を見て判断して欲しいと願っています」


 現在この大陸に女王はいないが過去にはいた。別の大陸や島国には女王がいるらしい。


「私はこの国に生まれてよかったと言われるように、またこの国に生まれてきたいと思って貰える国にしたいと思っています。いえ、してみせます。何十年かかってでも誰も飢える事もなく、皆が平穏に暮らせる豊かな国を作ってみせます」




 次回は王女と王子が少しいちゃつく(?)かもしれません。

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