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27.趣味

 ※2020/05/31加筆修正いたしました。


 将軍が西領領主を見送るために部屋を出て行った。西領領主には泊まって行くように勧めたのだが、すぐに戻って復興作業がしたいと言って出て行ってしまった。とんぼ返りとはこの事だろう。

 入れ違いにミハイルが戻ってきた。


「今の将軍殿と一緒にいらした方はどなたでしょうか?」

「新しく西領領主になられた方です」


 アルトゥールがミハイルに説明した。ミハイルは軽く頷いた。


「そうだ、前将軍に処刑された者の名前を聞かないといけないな。将軍殿なら聞き出しやすいだろうか」

「私達も少しなら分かりますのでご協力いたします。」


 王子の言葉にダニエラが反応すると他の侍女達が頷いた。侍女達の目には強い光が灯っており、強い決意をしたようだ。


「大丈夫?その…辛くはないの?」


 親しい人達を思い出すのは辛いだろう。自分だって今でも両親や侍女達の事を思い出すのは辛い。


「彼らを思ってくれる人が一人でも増えるのならば少しも辛い事などありませんよ」

「そうですか。では、お願いします。辛くなったら無理せず休んでください」


 侍女達は名前を書き始めた。侍女達は最初に自分もよく知っている三人の名前を書いた。とても遠い所に行ってしまったお姉さん達の笑顔が浮かんだ。いつも励ましてくれた優しい人達だった。


「…王女、ご気分はいかがですか?」


 王子に話しかけられ、我に返った。


「はい!この通りなんともないですよ!」


 自分は長椅子から立ち上がってみせた。どうやら自分は突拍子もない行動をしてしまったらしく、王子や部下達は目を見開き驚いていた。しかし王子はすぐに笑顔を向けてくれた。


「それは何よりです。アルトゥール、王女に食事を持って来てくれるか?」

「はい、かしこまりました」


 アルトゥールは部屋を出ていった。そう言えば城に戻って来た時に食事を運んでくれたのもアルトゥールだった。


「皆さんのお食事はよろしいのですか?」


 昼食の時間から大分過ぎている。自分以上に皆は動き回っているので空腹なのではないだろうか。


「我々は問題ないですが、宰相殿はお食事はよろしいのですか?」

「そうですね。少し休憩させて貰いますね。ではまた後ほど伺います」


 宰相はドナートに付き添われ、杖をつきながら部屋の外まで歩いて行った。部屋の外に宰相を補佐する人がいたようで、ドナートが挨拶しているのが聞こえた。宰相は彼らに付き添われながらゆっくりと歩いて行った。

 自分は宰相がいるであろう所に視線を送る。ドナートが部屋に戻って来た。


「王女は本当に耳がいいのですね」


 事情を知らない人から見たら壁を見ているだけだっただろう。


「はい。自分でも最近まで知りませんでした」

「先ほどの財務大臣達が来たのも誰よりも先に分かっていたようですね」

「ええ、いつも聞かないような足音が聞こえたので、ただ事ではないと思いました」


 足音から複数人がやって来ているのが分かった事、甲冑の音は聞こえなかったので兵士ではないと分かった事を王子に伝えた。後はなんとなくだが、足音の間隔から背丈が想像出来ると伝えた。

 将軍とドナートは大股と思っていたが二人の身長を考えたら本人達にとっては普通の歩幅なのかもしれない。


「すごいですね」


 王子は笑顔で言った。王子に褒められて嬉しかった。思いがけないところで褒められて照れてしまい頬が熱くなった。

 今まで他の人達の聴力も同じだと思っていたので、自分の聴力が特別いいとは思わなかった。何か活かせる事が出来たらいいと思ったが、今の所何も浮かんでいない。

 

「いえ、そんな…。そうだ、王子には何か特技はありますか?」

「特技ですか?どれも特技と言えるほど得意な物はないですね。強いて言うなら器用貧乏という奴でしょうか」

「いいえ、口を挟ませていただきますが、王子は一つの事に熱中なさらないからです」


 そう言ったミハイルを見てみると眉間に皺を寄せ、険しい顔になっている。器用貧乏は裏を返せば大体の事はそつなく熟してしまうという事だろうか。


「まぁ、どの分野にも自分より上の者がいるので、色んな事に手を出していると捉えてもいいでしょうね」


 ドナートも眉間に皺を寄せて厳しい顔つきになっている。ドナートの言い方だと、一番上を目指しているように捉えられる。ずっと塔に居たので比較対象がなかったのも関係するが、自分は何かするのに上だとか下だとか思わず、好きだからするのだと思っていた。


「好きだからするのではないのですね。出来るからする、いえ、出来てしまうからなんとなくしている…ということでしょうか…」

「え……」


 王子の顔色が悪くなった。表情も強ばっている。


「痛いところ突かれましたね」


 ドナートがニヤリと笑った。


「あっ…すみません。失礼な事を言ってしまいました」

「そうなのかもしれない。今やっている趣味も他人がやっているのを見て、自分でも出来そうだから始めたやつばかりだ。そうだな、好きか嫌いかじゃなく、出来るか出来ないかで考えていた」


 王子は口元を手で覆いながら言った。顔色も悪いままだ。


「全然悪くはないと思います。上手く出来ないとイライラしてしまいますし、まずは出来ることから挑戦するのでもいいと思います。その中から好きな事が見つかるかもしれませんし。熱中出来る事が見つかるといいですね」


 自分が言い終わると王子の顔は笑顔になっていた。

 王子は何かを喋ろうと息を吸ったが遮られた。


「王女様、王子はもう熱中出来る事を見つけたのですよ」


 ミハイルもニヤリと笑った。ドナートも嬉しそうに頷いている。二人がこんな表情になるのだから、とても良いものに出会えたのだろう。


「まぁ!そうなんですか?よかったですね。」


 王子に熱中出来る事を聞こうと視線を向けたが、王子は笑顔のまま固まっていた。

 何かあったのかと王子の様子に心配しているとアルトゥールが将軍と共に部屋に入ってきた。


「王女様失礼いたします」

「王女様、お食事持って参りました」

「ありがとうございます」


 アルトゥールが自分の目の前に食事を運んで来てくれた。侍女に量を減らすように伝えて貰ったはずだが、自分にとってはまだ多いし、食後のドルチェが付いて来ている。塔にいた頃は甘い物は滅多に食べられなかったのでとても嬉しいのだが、毎食に付けられる胃がもたれてしまう。食べ続けていたらそのうち慣れるのだろうか。


「アルトゥール殿、私達の代わりにありがとございます」


 ダニエラが言った。侍女達も食事はまだのはずだが、まだ名前を書いている。本当に沢山の人が犠牲になったのだ。


「いえいえ、皆さん…名前はどのくらい書けました?」

「まだ十数人ほどです。所属しか分からない者は所属を書いてあります」

「…処刑された人達の名前ですか?牢にいる前職に聞いて来ましょうか?」


 将軍が紙を覗き込みながら言った。


「お願い出来るかしら?国が落ち着いたら慰霊祭を行おうと思うの」

「ええ、分かりました。すぐに行ってきます」

「食事をしてからにしてね。ここにいる皆さんはまだ食べていないのよ」


 この部屋にいる皆がまだ昼食を食べていないので、おそらく将軍もまだだろう。


「ふふっ、わかりました」


 将軍は微笑みながら出て行った。

 将軍のこの笑顔は以前も見た記憶があった。確か十年前に将軍は婚約したと言っていなかっただろうか。同じように柔らかに微笑んでいた。将軍から報告を受けたとき両親と共に祝福した事を覚えている。将軍の婚約者はどうなったのだろうか。十年待つには長すぎるし、この十年で多くの人が亡くなった。将軍に聞いていいものだろうか。


「王女様、どうされましたか?冷めてしまいますよ?」


 アルトゥールに言われハッとした。慌ててフォークを手に取る。


「ええ、すみません。いただきます」

「何か不安材料でもあるのですか?ああ、すみません。どうぞ召し上がってください」

「あの…将軍の事なのですが、本人に聞いていいものか分からなくて…。将軍には婚約者がいたはずなんです。その後どうなったのか気になってしまいまして…」

「確か将軍殿は独身だとおっしゃっていましたね」


 ミハイルが言うと、王子と他の部下達が頷いた。やはり将軍は婚約者と一緒になっていないのだ。婚約者に危険が及ばないように避けていたのかもしれない。指名手配させていたそうだから尚更だろう。


「大切な人と離ればなれになるのは辛いですね。見つかるといいのですけど…。ドナート殿も奥様と娘さんに会いたいでしょう?」


 ドナートの方を見てみると少し表情が穏やかになっている。横目でミハイルとアルトゥールが見ている。


「ええ、兄は愛妻家ですし、姪を溺愛していますからね。こんなしかめっ面の大男と結婚してくれた義姉には感謝しかありません。私にもよくしてくれますしね。兄には本当に勿体ない女性です」


 ドナートの妹のリーザが言った。ドナートは少し照れているようだ。


「何ヶ月も離ればなれにしてすまない。なんなら、元いた北側から入国した隊と共に帰国するか?」

「いえ、この国が一段落するまで見届けますよ。王子達の面倒も見ないといけませんし」

「子守させてすまんな」


 王子が人ごとのように言うのが面白かったので、思わず笑ってしまった。

 ドナートにとって王子とミハイルとアルトゥールは弟のような感覚なのだろうか。

 聞きながら食事を食べ進める。


「不躾で申し訳ないのですが、王女様は将来ご結婚はどうなさるおつもりですか?」


 たった今リーザに言われるまで考えた事がなかった。自分が結婚して誰かが隣にいてくれるのが想像出来なかった。


「えっ…私ですか?…私は結婚するつもりはありません。勝手な考えなのですがモコシュ大公国からどなたか養子に来てくれたらと思います」

「ないのですかっ?!」


 聞いて来たリーザではなく王子が大声で言ってきた。ひどく動揺しているようだった。


「なっないです…」


 王子の動揺ぶりに驚いてしまった。驚きのあまり声が小さくなってしまった。


「何故です?!」

「何故って…」


 両親の顔が浮かんだ。先ほど紙に名前を書かれた侍女達の顔も浮かんだ。


「大切な人はみんな遠くに行ってしまうのではないかと…」


 皿にフォークを置き、視線を下に向けた。自分の膝が見える。

 ダニエラとアンナ、リンダだって危なかったかもしれない。クラリッサだってそうだ。皆何が起きてもおかしくなかったのだ。


「だ、大丈夫です。もうそんな恐ろしい事は起きませんから。ご安心ください!」


 王子はいつも励ましてくれる。だがその王子もいつかは国に帰ってしまうのだ。王子の部下達やリーザも皆帰ってしまう。


「そうですね。すみません。おかしな事を言ってしまいました」


 笑顔を作り、顔を上げると皆が心配そうにこちらを見ていた。侍女達も手を止めて自分を見ていた。


「ごめんなさいっ。もう大丈夫ですから私なんかに構わず、皆さんも昼食を食べてください」


 変な汗が出てきた。またおかしな事を言ってしまったようだ。世間ズレしていると思われているのだろうか。


「…ええ、見られている中で一人で食べるのも気恥ずかしさがあるでしょう。我々は陣営に戻って食事をしてきます」


 王子が言った。気まずさから顔を見ることが出来なかった。


「その前に、王女様、夕方頃に各部署の長と副長の前で公表と言う形にしますか?それとも財務大臣達の報告を待ちますか?」


 ミハイルがふぅと一息吐いた後に言った。

 家族が帰りを待っている人達ばかりなのだから、なるべく早く終わらせた方がいいだろう。王子だって家族や国民が待っているのだ。


「報告は待たずに夕方に各部署の長と副長の前で公表します」


 出来る限りきっぱりと言った。本当はもっと一緒にいたいが、大切な人と離れる辛さはよく知っている。


「分かりました。そのように手配いたします」

「お願いします」


 王子と部下達が部屋から出て行った。


(もっと長く一緒にいたら、離れられなくなってしまうもの)


 そう思ったが誰と離れたくないのだろうか。自分で自分の考えが分からなかった。


(そうだ、皆さんとだわ。きっと皆さんと離れたくないのだわ。ああ、でも……)


 両手を握り締めて奥歯を噛みしめる。


(皆さんが側にいてくださるのは私が王女だから、じきに王になるからだわ。私のためではなく、この国のため…)


 何度も考えた事が頭をよぎった。側いてくれるだけでありがたいのに、特別になろうだなんておこがましい。

 料理はすっかり冷めてしまった。




 王子の趣味は体を動かす物が多いです。

 少しでも先が気になったら評価&ブクマお願いします。

 ※予告なく加筆修正を行う場合がございますので、予めご了承ください。

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