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24.三領主

 ちまちまと加筆修正を行っているので、お時間がある時に読んでくださると嬉しいです。

 ※2020/05/31加筆修正いたしました。


 言ってしまった。全て終わったらちゃんと言うと彼女に言ってしまった。だがこれで俄然やる気が出てきた。早く終わらせて、彼女に思いを伝えるのだ。多分、きっと、もしかしたら彼女も自分の事を思っていてくれているだろうから、大丈夫だろう。


(もしかしたらじゃない。絶対だ。王女はご自分の気持ちにまだ気付いていないだけだ。でなければ婚約者の有無など聞かないはずだ。うん!)


「王女様との食事が楽しかったようで何よりです」


 部屋の外で待っていたミハイルが言った。少々嫌味に聞こえる。

 陣営に戻るために二人で歩き出した。


「ん、ああ、まぁな。有意義な時間だった。食事も美味かった。…腹の足しにはならなかったがな」


 彼女と一緒に食事が出来ただけで嬉しい。例えるならばいつもは白黒だが、さっきのは色鮮やかな一時(ひととき)だった。食事の量は少なくまだ腹二、三分目であるが、喜びで胸はいっぱいになっている。


「よろしゅうございましたねぇ」


 また嫌味だ。ミハイルは横に目をやり、息を吐きながら言った。


「ああ、よろしゅうございましたよ。それで、将軍殿から貰った資料はどうだった?」

「よくまとめられています。全て書き方が同じなのでこちらも将軍殿が指示なさったのでしょう」


 ミハイルから各領の被害状況書類を渡された。


「おおっ!見やすいな」


 比較しやすいように同じ順番で書かれている。これはありがたい。文字はやや癖字の者もいるが読めなくはない。十年前の人口と現在の人口、市町村の減少数、耕作地の放棄率などが書かれていた。


「やはり国境の領地の被害は他の領に比べて少ないみたいだな。一番酷いのは…西か?」


 資料を見比べる。国境の三領、北、南東、南西はその他の領より死者数が少なかった。北は徴収される税が低かったのと、南東と南西は接する国に支援を受けていたからだろう。


「ええ、そのようです。将軍殿によると前領主の息子に領主を引き継ぐよう打診をしているそうです」

「他は王都のすぐ隣の中央領もなかなか酷いな。昔は首都だった所か。ふぅん…。ここも領主をすげ替えたのか」


 ミハイルが頷いた。


「他は北東領もまずいか?」

「元々林業中心で農作物の収穫量は少なかったようですね。なので他の領から食糧を買えなくなり死者が増えたようです。それでも西領と中央領の方が死亡率が高いようですね」




 翌朝、王女に将軍から貰った資料を渡した。連合国軍側で調査した内容も添えた。彼女はじっくりと真剣な顔で読んでいる。今日は深みのある赤色のドレスを着ている。やはり何を着ても似合う。髪も綺麗に結い上げられている。


(真剣な顔もいいなぁ)


 にやつくと部下達から変な顔で見られるので真顔のまま彼女の顔を見た。


「税が低かった北が一番死亡率が低いのですね。国境が近いのも関係していますか?」

「それもあると思います。オーケアノス王国で輸入された宝石をあの男のために仲介していたようですが、同時に食糧も国内に入れていたようです。あちらの国に確認しました。」

「それは国のお金を使った可能性もあるということでしょうか?」

「確証はありませんが、その可能性は十分あります。」


 彼女からため息が漏れた。眉間に皺が出来、険しい表情になっている。


「資料を持って来てくださってありがとうございました。三領主達に先に会うことにします。嘆願書に署名してくれた礼をすると言っておいてくださいますか?」

「北の領主を追求なさるおつもりで?」


 彼女は困り笑顔で言った。


「ちょっと聞くだけですよ」




 昼前に三領主が揃ったので、彼女の部屋に連れて行く事になった。この三人には彼女の生存は伝えてある。

 北領は遠いので他の領主よりも遅れて来るかと思ったが、予想していたより早く到着した。

 南東領の領主は白髪で背が高く痩身、南西領の領主は黒髪で中肉中背であった。

 北領の領主がやって来たとき、アルトゥールが首を傾げた。


「どうした?」

「いや…なんか違和感が…。気のせいかもしれません」

「そうか」


 北領の領主はもっと太って…恰幅がよかった気がするが、痩せたのだろうか。やつれて見える。顔色も悪いようだ。

 三領主の従者も連れて彼女の部屋に入った。部屋には彼女と侍女達、護衛のリーザがいた。


「皆さん、嘆願書に署名してくれて感謝いたします。おかげであの男達の悪行を止めることが出来ました」


 彼女は三領主に礼を述べた。表情はにこやかだ。また演技が始まったりするのだろうか。ドキドキする。ドナートとミハイルの顔を見てみたら、ドナートは普段通りの顔だがミハイルは少し緊張しているようだった。アルトゥールはまだ違和感を覚えた謎に囚われているようで、眉間に皺が寄るほどではないが、眉間に力が入っている。


「エレオノーラ王女様、ご無事で嬉しゅうございます。お美しくなられましたね」

「エレオノーラ王女様のご無事を聞いたとき、改めてこの国に尽くすと心に決めました」

「お、王女様が生きておられて大変嬉しく思います」


 南東、南西、北と順番に言った。話からすると南東領領主は彼女に会ったことがあるようだ。


「こちらは宝石類を購入した際の請求書と領収書の控えでございます」


 三領主が挨拶をした後で、北領領主の従者が彼女に紙の束を見せた。


「ありがとう」


 彼女は優しく微笑んだ。

 まだ演技は始まっていない。今回はそのままでいくのだろうか。


「私が預かろう」


 彼女の代わりに自分が受け取った。後でニコライに渡そうと思う。


「そうだ、布を濡らして持って来てくれないかしら?」


 彼女は微笑みながら言った。何人かが首を傾げた。

 彼女は何を言い出したのだろうと思っていたら、アンナが手際よく濡れた布を持って来てくれた。


「ありがとう。どなたか北の領主殿の顔を拭いてあげてください。お顔が汚れているようなのです」


 彼女はにっこりと笑いながらアンナから布を受け取った後、心配そうな顔をみせた。

 北領領主は汗はかいているようだが、顔が汚れているという表現は何故だろうか。

 ドナートが彼女から濡れた布を両手で受け取り、北領領主の前に行った。


「ひっ!な、何を……」


 北領領主は小さな悲鳴をあげた。ドナートの迫力になのか、顔を拭かれる事になのかは不明だ。だが、すぐに分かるだろう。


「王女様のご指示なので失礼いたします」

「や、やめ………!!」


 ドナートが北領領主の顔を拭くと布には汚れが付いた。いや、正確には化粧である。


「わざわざ顔色が悪く見えるようにお化粧していたようね。襟元が汚れているからすぐに分かったわ」


 彼女の指摘を受け、北領領主の襟元を見てみると僅かに化粧が付着していた。ドナートは顔の左半分だけ化粧を拭き取ったので比較しやすい。目の下にはクマを描き、唇には赤みを消すために化粧を塗っていたようだ。頬も痩けたように見せるために色の濃い物を塗っていたようだ。

 女性陣の様子を見ると皆気付いていたらしく、全員呆れた顔をしている。男性陣は北領の主従以外はただ驚きの表情をしている。いや、アルトゥールは謎が解けたらしく喜びの表情をしていた。


「ばれてしまったのだから、上着を脱いでもいいのよ?苦しいんじゃない?」


 苦しいとはどういう意味だろう。もしや痩せて見えるように腹に布を巻いてきたのだろうか。


「うう…王女様の前で脱ぐなど出来ません」


 北領領主は両膝をついた。目は虚ろになっている。


「そう。じゃあそのまま聞いててください。この小細工を考えたのはあなたの従者かしら?」


 彼女は顔色を変えず淡々と続けた。


「そ、それは…」

「領主様は悪くありません。全て私が考えた事でございます。罰するなら私を罰してください」


 北領の従者が飛び出してきて、王女の目の前で額を床に擦りつけるように土下座をした。

 念のため、すぐに抜剣出来るように柄に手をかける。


「それくらいの忠誠を国にもして欲しかったわ。残念ね」

「王女様!」


 北領の従者は顔を上げた。冷や汗をかいている。先ほどまではすました顔をしていたのに、もの凄い変わりようである。


「ところで、あなたの領が国の資金を使った可能性があるそうなのだけれど、本当なのかしら?」

「そのような事実は一切ございません!」


 北領の従者は再び床に額をつけた。


「本当に?もう次はないのだけど、誓うかしら?」

「誓います!」

「誰に誓うの?神に?国民に?私に?あなたの主人に?」

「全てに誓います!」

「あらそう。では財産を半分没収で許します」

「な、何をおっしゃっているのです?」

「ああ、三分の二没収にしましょうか」


 彼女は冷たく言い放った。表情もとても冷たく、部屋が凍り付くかと思った。


「お止めください!北領の領民が死んでしまいます!今は領主家の財産からも領民の食糧を買っているのです!どうかご慈悲を!」


 北領の従者は額を床に擦りつけるようにしている。それを見た北領領主も額を床につけた。


「自分達が食べる量を減らしたらどうかしらね。そもそも私を馬鹿に…いいえ、ここにいる人達を全員馬鹿にしておいてそんな事を言えるのかしら?」

「私は如何なる罰も受けます。お願いですから財産没収はお止めください!」

「素晴らしい忠誠心ね。北領領主、あなたはどうなの?悪ふざけを許可したのよね。それともあなたには考えがない?」

「うぅ…。そ、そんな事は…」


 図星のようだった。目が泳いでいる。汗も先ほどより酷くなっている。

 北領領主は自分で考えるのが苦手らしく、全て従者に任せていたらしい。従者は先代の領主に恩があり、現領主の世話を任されたのだそうだ。現領主は四男で跡を継ぐ予定はなかったのだが、上の三人が相次いで死去したため担ぎ出されたのだった。


「顔を上げて。こちらを見て」


 北領の主従は彼女を見た。彼女はドレスの袖を捲り、骨張った腕があらわになった。


「見なさい。今の国民は私のように痩せ細った者ばかりよ。来る途中で見なかった?」

「見ました…」

「甘い物食べながら何を思ったのかしら?聞かせて?」


 彼女は耳の他に鼻もいいのだろうか。匂ってみると北領領主から砂糖かなにかの甘い臭いがした。直前まで菓子類を食べていたのだろう。

 北領の主従は黙りこんでしまった。彼女相手ならやり過ごせると思っていたのだろうか。愚弄していると言われても仕方ない。


「私のご機嫌取りをするのではなく、真に領民のためになることをしなさい。…財産没収は十分の一にしますが、税は他の領と同一にします。今まで徴収しなかった分は…誠意を見せて貰うと言うことで許してあげます」

「あ……」


 北領の主従は目を見開き愕然としている。顔色も一段と悪くなっている。北領の税が低いのは他の領には漏らさない事になっていたからだ。他の領主二人が顔付きが変わった。二人の後ろにいた従者達も表情が変わった。


「王女様、少々よろしいでしょうか。北領は他領より税が低かったのですか?」


 南東領領主が半歩前に出て言った。先ほどの挨拶の時より語気が強かった。


「はぁ、あの男と癒着のある北領をどうやって抱き込んだのかと思えば、そういう事でしたか…」


 南西領領主が呆れたように言った。


「お二方に知らせずにすみませんでした。北領領主には他領より税が低い事を黙っていると言って署名して貰いました」


 南東領、南西領の領主の方を向いて謝罪した。


「ああ、ごめんなさい。うっかりしていました」


 うっかりではなく故意だろう。相手が先に仕掛けてきたのだから文句は言えないだろう。実際に北領の主従はうなだれており、王女に対して反論する気はないようだ。それを見て、剣の柄から手を離した。


「王女様に免じて他の領主には黙っておきましょう」


 南東領領主はため息を吐きながら言った。


「そうですね。誠意を見せていただけるのならば黙っておきます」


 南西領領主もため息を吐いた。

 二人とも呆れきった顔をしていた。もちろん彼女にではなく北領の主従に対してである。


「えー、この話はここまででよろしいでしょうか。この後宮廷貴族に王女の生存を伝えます。その時お三方は王女はフェルディナンド五世の娘本人であると証言してください」

「この三人の中で以前王女様にお会いした事があるのは私だけだと思いますよ。証言する人数を増やしても、実際に会った事がないのが発覚したら厄介でしょう。王女様を排除しようとする者達につけ込まれます。」


 南東領領主が言った。


「それもそうですね。ちなみにその勢力に心当たりはありますか?」


 南東領領主と南西領領主は顔を見合わせた。南東領領主が口を開いた。


「そうですね…。女性の扱いが良くないのは東領ですね。十数年前に女学校が閉鎖されました。なので隣接している我が領に女子が勉強しに来ていました」

「女学校?この国だと女性は基礎学校にしか行けないと聞きましたよ」


 東領とは王都と接している領である。東領の被害は西や中央、北東ほどではなかった。無能、あるいはあの男の手下というわけではないのだろう。


「はい。なので女学校は塾扱いなのです。侍女になるには女学校に行っていた方が採用率が高くなるので、侍女になりたいのなら通塾するのです」


 侍女達を見ると皆頷いている。学がある方が採用されやすいのに女学校が塾扱いとは変な話である。


「逆に王女様の味方になってくれそうな領なら南領でしょう。領主は男ですが、まだ若いので母親と姉が補佐しているのです」


 南西領領主が言った。南領は南東領と南西領に挟まれている。

 確か王女より若い領主だったはずだ。十年前から代わっていないはずだから、物心つく前から領主だったのだろう。


「宮廷貴族で注意すべき人物はいますか?東領出身者は女性蔑視が酷いのでしょうか?」


 彼女が真剣な顔つきで聞いた。


「宮廷貴族は北領のお二方が詳しいでしょう。よく城に出入りを許されていたそうですから」


 北領の二人の方を見てみると領主の顔の化粧は拭き取ったらしく綺麗になっている。領主ではなく従者が話しだした。

 僅かに一瞬だけ彼女がピクリと動いた。どうしたのだろうか。聞こうにも彼女は平然を装っているので聞けない。


「宮廷貴族全員に会った訳ではないのですが、注意すべき人物といいますと、やはり妃の縁者達でしょうか。何かと威張りちらしておりました。しかしもういない人物の威を借りられませんから、どう出るのか分かりません」

「すでに罰せられるのを恐れて、うちの部下に食ってかかった者がいるな」

「女性蔑視は…分からないです。お役に立てず申し訳ないです」


 何やら外が騒がしい。皆が身構えた。彼女は先に気付いていたようで、他の皆より落ち着いている。

 侍女達は王女を囲み、リーザはその前で剣を構えた。各領主も部屋の戸から離れる。

 ドナートが最前で剣を構える。ミハイルとアルトゥールは自分の前で剣を構えた。

 外で兵士達が必死で制止しようと大声を出している。


「この部屋の中で何をしているんだ!司令官と領主達は何を話している!いいからここを開けろ!」


 噂をしたらやって来たようだ。昨日ドナートに食ってかかったきた財務大臣の声だ。他にも何人かいるのか声が聞こえた。


「構いません!マッテオ!ルカ!戸を開けなさい!」


 彼女がとんでもない事を言い出した。部屋の中にいた全員が彼女を見た。

 マッテオとルカと言うのは多分兵士達の名前だろう。彼らは彼女の命令を拒み、戸を守っている。兵の増援が来たのか更に言い合いになっているようだ。


「皆さんすみません。私のせいで危険な目に遭わせてしまいました」

「王女そんな事は……」


 彼女を見ると少し震えていた。だが目には強い光が宿っていた。


「命令です!兵士達よ、戸を開けなさい!」


 戸が開かれ、人がなだれ込んできた。




 王女は観察力があるようです。塔の中にいて人と接する機会がなかったので、必死に顔を覚えようとしているからでもあります。

 オーケアノスはギリシャ神話の神様の名前です。

 少しでも話の続きが気になる方は評価&ブクマをよろしくお願いします。喜びます。

 ※予告なく加筆修正をする場合がございますので、予めご了承ください。

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