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23.食事

 ※2020/05/16加筆修正いたしました。


 王子が戻るまで、夕食を待ってもらおうと思ったのだが、そうすると料理担当が片付けをする時間も遅くなるので、休むのが遅くなってしまう。それは悪いので夕食を持って来てもらう事にしたのだが…。


「どうしたの…?いつもより豪華じゃない?」

「ええっと、その…」


 リンダの話によると、料理担当に自分の存在を気付かれたらしく、今まで彼らと同じ物を食べさせてしまったとのことで、お詫びのしるしで豪華になったらしい。食後のドルチェも付いて来た。豪華にしてくれたのはとてもありがたいが、残念ながら自分一人では食べきれる量じゃない。


「みんな夕食はまだよね。残すのは悪いから手伝ってくれないかしら?」


 行儀は悪いのかもしれないが、残す方が悪いと思ったので思い切って提案してみた。


「いえ、そんな!ご相伴にあずかる身分ではございません!」


 ダニエラが言うと他の侍女達も首を横に振った。リーザの方も見たが、彼女も首を横に振った。


「じゃあ朝ご飯に頂こうかしら?」


 朝から食べるには少々こってりしているが仕方ないだろう。捨てる訳にはいかない。ナイフとフォークで半分に分け、口を付けない様にした。

 さあ食べようかと思ったところで王子と将軍とミハイルがやって来た。大広間での騒動は収まったのだろうか。


「お食事中でしたか。…何やらいつもより量が多いですね」


 王子が自分の食事を覗き込む。


「ええ、料理担当が私の事に気付いたのだそうです。あの、大広間での騒動はどうなりましたか?」

「はい、宰相殿のおかげでその場は収まったのですが、まだ納得いかない者達もいるようです。ドナートとアルトゥールに対応させています」

「どうやらドナート殿に文句を言ってきたのは宮廷貴族のようです」


 なんとなくだがそんな気がしていた。ある程度立場が上の者だろうと思っていた。

 宮廷貴族とは領地を持たない貴族である。役職についている者にはそれに応じて爵位が与えられている。


「王女、食事を摂りながらでも構いませんよ?」


 フォークを置いて話を聞いていると、王子が笑顔で言った。だが流石に報告を受けているのに一人で食べているのは気まずい。


「私だけでは食べきれないので、もしよければ食べるのを手伝って頂けませんか?」


 王子達の方に目をやると、将軍とミハイルは王子の方を見た。王子は驚いたようだったが、すぐに笑顔になった。


「ええ、私でよければお手伝いさせてください。…では食べさせて頂けますか?」


(食べさせる?どうしてかしら?…もしかして大広間で手を怪我をされたとか?!)


「どうされたのですか?手を見せてください!」


 王子の手を取り、どこを痛めたのか調べてみる。王子の手は大きいので両手で持った。王子の手はゴツゴツとしていて厚みがある。恐らく手のたこは剣によるものだろう。見ただけでは怪我はないようだ。


「えっ、どうされました?」


 王子は困惑しているようだ。将軍とミハイルも戸惑っているようだ。


「怪我をされたのではないですか?」


 視線を王子の手から顔に移して尋ねた。王子は興味深げにこちらを見ていた。


「していませんよ」


 王子は目を細めにっこりと微笑んだ。


「…ま、また勘違いをしてしまったようです。すみません」


 手を離そうとしたが、王子に手を握り返される。大きくて温かな手だ。


「王女の手の怪我はどうですか?…ほう、良くなったようですね」

「は、はい!」


 王子は自分の手の傷痕をなぞっている。なんだかくすぐったい。むずむずする。


「お、王子、手を離して頂けませんか?」

「貴女から握ってきたのでしょう」


 なんだか顔が熱くなってきた。対する王子の顔色は変わらない。


「か、勘違いでしたので、すみません。お許しください」

「別に怒っていませんよ?」


 王子はにっこりと笑顔のままだ。


「王子、王女様が困ってらっしゃいます。お止めください。話を先に進めましょう」


 ミハイルの言葉に王子は傷痕をなぞるのを止めたが、依然として手は握ったままだ。


「将軍、あの貴族の名は分かりますか。」

「ん?いや、すみません。十年前は貴族でなかった人物のようなので分からないです」

「そうですか。分かる者はいますか?」

「先ほどいた兵士達なら分かると思いますよ。」


 王子は自分と手を繋いだまま将軍と話し出した。二人が話している間に何度か手を離そうと試みたがそれは叶わなかった。痛くはないがしっかりと握られてしまっている。


「王子、王女様から手を離してください」


 ミハイルは眉間に皺を寄せ怖い顔をしている。

 ミハイルに言われ、漸く王子は手を離してくれた。自分の顔はまだ熱い。


「ふぅ、では、食事を食べさせてください」

「えっ!」


 再び食事を食べさせるように言われた。王子は子どもではないし、怪我をしているわけでもないのに何故だろうか。


「司令官様、こちらをどうぞお使いください」


 疑問に思っていたらダニエラが王子にフォークを差し出した。


「…ありがとうございます」


 王子はダニエラからフォークを受け取った。

 王子は笑顔だがあまり嬉しそうではない。


「王子、部屋の外にいる兵士達に先ほどの貴族は誰なのか聞いてきますね」

「お願いします」


 将軍は部屋の外に出て行った。わざわざ出て行かなくても一緒に大広間に行ったマッテオを呼んで聞けばいいと思うのだが。

 将軍が戻るまで夕食を食べることにした。王子も向かいの席に座った。


「王子はこちら側をどうぞ召し上がってください」

「はい…」


 王子の渋い表情からすると、もしかすると嫌いな食べ物があるのかもしれない。


「何かお嫌いな物でもございましたか?」

「いえ、まさか。どれも美味しそうですね。いただきます」


 嫌いな物がないのなら異国の料理に抵抗があるのか心配したが、王子は笑顔で食べ始めた。それを見て自分も食べ始めた。


「こうやって誰かと食事を一緒にするなんて久しぶりです」


 塔ではもちろん、この部屋に来てからも一人で食べていた。やはり誰かと一緒に食べた方が美味しいと思う。


「…記念すべき日に一緒に食事が出来て光栄ですよ」


 王子は先ほど見た笑顔とはまた違った笑顔をしている。色んな笑い方をするのだなと思った。


「一緒に食事をしてくださってありがとうございます」

「ええ、こちらこそ。これはまるでふ――」

「分かりましたよ。彼は財務大臣のようです」


 王子が何か言おうとした途中で将軍が入ってきた。

 宮廷貴族は財務大臣だったらしい。


「財務大臣と言うことは、あの男に近い人物なのではないかしら?だって贅沢し放題だったのでしょう?」


 税を高くし、城内の装飾も派手にした。


「どうやら妃の親戚のようです」

「それで自分も罪に問われるのではないかという不安からドナート殿に?」

「かもしれませんね」


 将軍は困った表情で言った。


「…王子どうされました?」


 王子が固まっている。どうしたのだろうか。食事する手も会話も止まってしまった。


「いえ、失礼しました。他にも十年前には宮廷貴族でなかった者が反発するかもしれませんね。あの男に爵位を授与された者達を調べましょう。連合国軍では悪政に関与したのが明確になっている者以外、例えば直接ではなく間接的に関与した者等は捕らえられていないのです。国境封鎖であまり間諜出来ませんでしたので把握していない者もいるのです」


 王子は言い終わった後、フォークで料理を口の中に運んだ。自分の一口よりも大分多い。


「ええ、十年も経っていたら宮廷貴族の顔ぶれもかなり変わっているでしょう。将軍は顔なじみの人はいたかしら?」

「大分変わっているようですね。知っている者には貴族平民関わらずなるべく話しかけました。彼らは宰相殿や私の顔を見て安堵しているようでした。侵略ではなく誅伐だと理解してくれたようです」

「一応誅伐であると言ってあるのだがな。連合国軍側には侵略する意味はないからな」


 王子はやや独り言の様に言った。


「やはり、明日にでも私の事を知らせた方がいいのではないでしょうか。貴族達だけにでも伝えるとか…駄目でしょうか」


 自分の存在に気付いていた者達は侍女達の側にいた者達なので皆平民で要職に就いていない。


「三領主が到着するのは明日頃ですか?だったら三領主を味方に宮廷貴族だけに先に報告しましょうか」

「そういたしますか?」

「あの、今更なのですが、宰相がいないのに決めていいのでしょうか?」


 王子と将軍とミハイルの三人が互いに目を合わせた後、王子が口を開いた。


「実は宰相殿は疲れが溜まっているとの事で先にお休みになりました」

「…そうでしたか」


 違和感を覚えた。もしそうであったら来たときに言うだろう。また気を遣われているのだろうか。


「宰相にはゆっくり休むように伝えてください」


 自分がそう言うと、王子達も察したようだった。


「後ほど私から伝えさせますね」


 将軍が少し口角を上げて穏やかな声で言った。皆に気を遣わせしまって申し訳なく思う。もし自分が同じ立場だったらこんなに優しく出来るだろうかと思案してしまう。


「おそらく宰相殿も賛成してくださるでしょう。では明日、三領主を交えて宮廷貴族に王女の生存公表でよろしいですね。宰相殿の出席は体調を見てから決めましょう」

「はい。その後、他の者達の前で公表し、その時に地下牢の人物に証言してもらうのですよね」

「ええ、そうです。三領主の到着時刻が分かりませんので別の日になるかもしれませんがね」


(大丈夫。やる前から怖じ気づいちゃいけないわ)


「分かりました」




 将軍が帰った後、何故か侍女達やリーザとミハイルも退席した。疑問に思いながらも王子と二人で食事の残りと食後のドルチェを食べた。


「美味しいですね。軍の食事は少し飽きてきていたのでありがたいです」

「普段はどんな食事なんですか?」

「保存が効く物ものなのであまり美味しいものではありませんよ。もう少し美味しければ士気も高まるでしょうけど。ああ、この国の国民に配給しているのはそこまで簡素な物ではないのでご安心ください」

「そうでしたか。食べる物は大事ですよね」


 侍女達以外の兵士達を見ても皆痩せているように見える。王子をはじめ、連合国軍の皆はもっと体格が良い。この国の兵士より、女性であるリーザの方が体格がよい場合がある。


「医療団が各国境から入国したそうですから、南東の国境から入った団と一緒に軍の食糧もそろそろ王都まで届けられるでしょう。後はドナートと共に北領側から入った隊と交代する隊も来ますね」

「ドナート殿も帰国されるのですか?」

「んー、ドナートとミハイルとアルトゥールは俺の護衛というか、付き人というか、友といえばそうなんですが、従者ではない、補佐…うーん。なのでドナートは隊と別行動ですね。すでに役目を引き継いでいますし」


 王子は背もたれに寄りかかり、楽な姿勢で言った。


「お三人とはお小さい時からの付き合いなんですよね」

「ええ、そうです。ドナートは元々兄の友だったんですが、あ、いや今もですけど、俺達三人がドナートに懐いたので、そのまま世話をしてくれているのです」

「な、懐いた?」


 リーザからドナートが侯爵家の娘を泣かせてしまったと聞いていたので驚いてしまった。確か子どもの頃から強面だったとも言っていなかっただろうか。


「ええ、そうです。意外ですか?子どもの中でも一際体が大きかったので、三人とも憧れたんですよ。」

「男の子と女の子では感性が違いますものね」


 人それぞれではあるのだろうが、やはり男児は強そうなものに憧れるのだろうか。


「アルトゥールの妹達も初めてドナートを見た時はアルトゥールの陰に隠れたそうですよ」

「うふふっ!見てみたかったですね。いいですね。同じ年頃の子達と遊んだ記憶はないのでとても羨ましいです」


 想像するだけでとても楽しそうだ。自分にもそんな時代があったらよかった。子どもの頃の話で盛り上がってみたかった。きっときっと楽しい事だろう。友と呼べる人達と笑顔で語りあうのは幸せな時間なのだろう。


(キラキラとした物ばかりではないのでしょうが、いい思い出も、苦い思い出も様々な経験が出来たらよかったでしょうね)


「…すみません。軽率でした」

「えっ、いえ、聞いたのは私ですのでどうか気になさらないでください。皆さんの子ども時代の話を聞けてとても楽しかったです。本当なんですよ?子どもの頃にはもう戻れませんが、今からでも沢山楽しい思い出を作っていけますしね。未来は作れるのですよね?」

「ええ、そうですよ。共に未来を作っていきましょう」


 王子は今日一番の笑顔を見せた。


「……?共にですか?」

「あ…そうです。と、共に、です」


 王子はしどろもどろになっている。汗もかいているようだ。大丈夫だろうか。体に合わない物を食べさせてしまったのだろうか。


「支援を続けてくださるということでしょうか。とても嬉しいです。ありがとうございます」


 王子にお辞儀をする。


「そうではあるけど、あるのですが…そうではなく…」


 王子の様子がおかしい。違ったようだ。


「はっ!いつまでも甘えてはいけませんものね。きちんとお返しします。何年かかっても必ず!」

「そ、そうですけど、そうでなくてですね…」


 また違ったらしい。どうして自分はいつも勘違いをしてしまうのだろうか。情けなくなった。


「すみません…」


 自分は下を向いた。情けなくて不甲斐なくて、悲しくなってきた。


「全て終わったらちゃんと言いますので、それまで待っていてくださいますか?」


 王子は困ったような微笑みを浮かべ、静かで低い声で言った。


「ええ、分かりました」


 全て終わったら王子達は帰ってしまう。一瞬終わらなければいいのにと思ってしまった。しかし、そう思うのはとても愚かな事だと分かっている。

 そもそも皆が自分によくしてくれるのは自分が王女だからだ。それがなければどうだっただろうか。


(怖い…。自分が無価値だなんて思っただけで、とてつもない絶望感に苛まされるわ…)


「どうされましたか?」


 王子が心配そうな顔をしている。


「えっ、ああ、食事を食べるのを手伝ってくださりありがとうございました。助かりました」

「こちらこそ、美味しい物をありがとうございました」


 そう言い王子は爽やかな笑顔で部屋を出て行った。


(もうすぐあの笑顔も見られなくなってしまうのね。お話することも出来なくなってしまう…。だけれど、そうでなくちゃいけないわ。いつまでも他の国に、他の人に頼っていては…自分達のためにならないもの)


 そう思っても、何度も思っても、この時がずっと続けばいいと思ってしまった。




 将軍が「ん?」と言ったのは二人の行動を見守っていたからです。

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