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19.大公代理

 王女と大公代理が遭遇しました。

 ※2020/05/14加筆修正いたしました。


 今日は水色のドレスを着た。ダニエラとアンナがサイズ調整をしてくれているので着やすかった。だんだん華美になっているようだが、気のせいだろうか。いや、明らかにフリルやレースの量が増えているのだから気のせいではない。


(ちょっと子どもっぽくないかしら?)


 そう気にしながらも、塔に幽閉される前はこんなドレスを着ていたなと思い出す。


(懐かしいけど、五歳か六歳の頃だもの。…もう少し飾りが少ないドレスをお願いしてみようかしら?)


 ドレスの袖や裾の装飾を確認しながらそう思った。

 クラリッサが髪を整えてくれている。彼女は髪を結うのが得意なようだ。いつも見たことのない髪の編み方をされる。


「クラリッサは器用なのね。いつも素敵な髪型にしてくれてありがとう」

「うふふ、ありがとうございます。王女様の髪を見ていると創作意欲がわいてくるのです」


 クラリッサの目は輝き、頬は赤くなっている。今にも歌い出しそうなほどご機嫌だ。


「そう…なの??」


 予想外の反応をされ驚いていると、リンダが食事を運んで来てくれた。今日の朝食は野菜が沢山入ったスープだった。ここ数日は考え込む事が多くて食事が進まない。大公代理についてもだが、貴族達にも何か言われるのではないかと不安になってきたのだ。


(自分の性格が嫌になるわ。どうして、こう、考え過ぎちゃうのかしら。自分に負けないって決めたじゃない)


 スープを口に運ぶ。火傷しないように息で冷ましながら食べた。




 朝食後お腹が落ち着いて来た頃、ノックする音が聞こえた。足音が複数だったから王子と部下達だろう。宰相と付き添いの兵士達だったらもっとゆっくりだし、将軍だったら大股なので大体分かるようになってきた。

 王子とは二日ほど顔を見せる程度でしか会っていなかったので期待してしまう。

 リーザが応対した。


「王女様、失礼いたします」


 ミハイルの声がし、ミハイルが先頭で続いて王子と見覚えのない人物が入ってきた。髪の色は王子と似ているが王子より明るい色で、目も髪と同じような色をしている。顔は自信に満ちあふれており、背筋は伸び、いかにも仕事が出来そうな人だ。身なりもよいので身分が高そうだ。そう思っていたら、その人物と目が合った。


「はじめまして!ああ、なんと可愛らしく美しい人なんだ!」


 その人物はそう言いながら近づき、いつの間にか目の前にいた。そして左手を取られ手の甲にキスされた。呆然としていると、さらに驚きの事を言ったのだ。


「私はモコシュ大公国より参りました。大公代理のキリルでございます」

「えっ!アレクセイ王子のはとこの?あの、手紙が届くのはもう少し先だと伺ったので驚いてしまいました」


 一週間から十日はかかると言われたので、まさかこんなに早く到着するとは思っていなかった。もちろん何も準備していない。


「ええ、この国と我が国の関係を調べましたら私から数えて五代前に婚姻関係がございましてね。この国の王族には王以外に男子がおらず、誅伐された後、なにかと王族の血を引く男子の署名が必要なのではないかと思い、国境付近に待機していたのです。連合国軍が入る際に砦が解放されたのでそれに乗じて入国しました。主要な道の近くにいればそのうち私宛の手紙を持った者が通ると思っていましたら、案の定やって来たので――」

「あ!申し遅れましたフェルディナンド五世の娘で第一王女のエレオノーラです。遠いところからお越しくださって感謝いたします」


 あちらのペースになりそうだったので自己紹介をしてみた。話を遮ったが大公代理は笑顔のままこちらを見ている。だが、笑顔には違和感がある。何がとは言えないのだが。


「書類はこちらにあるのですが、宰相も同席したいそうなので、到着するまでそちらに掛けてお待ち頂けますか?」

「いいえ、血の繋がったもの同士で話をしましょう。他の者は部屋の外へ、すまないが出て行ってくれないか?」


 大公代理は口元は笑っているが目は笑っていない。とても不気味に思えた。作り笑顔というやつなのだろうか。

 侍女達は戸惑いながら、リーザとミハイルは無表情で退室していった。王子はその場から動かなかった。


「俺…私ははとこだから残ってもいいだろう?」


 王子は残ってくれるようで安心した。よく考えたら王子も遠い親戚ということだ。


「ああ、構わないぞ」

「ありがとうございます。…王女、本当にすみません」


 王子の顔色はよくない。大丈夫だろうか。心配ではあるが、自分自身の顔色はどうなっているのか気になる。


「そんな…大丈夫ですよ。早速ですが大公代理――」

「キリルと、キリルとお呼びください」


 大公代理は胸元に手をあて、微笑みながら言った。


「ではキリル殿、王位継承法改正と女性参政権復活の書類に署名していただけますか?」

「それは構いませんが、本当に署名してもいいんですか?この国は長いこと男性のみで政治をしてきた。貴族から反感を買うでしょう。耐えられますか?ずっと塔の中にいて何も知らない貴女が」

「心配してくださってありがとうございます。その件は大丈夫です」

「本当に?塔から出た後も部屋に匿われ、守られている貴女に耐えられるでしょうか?」

「大丈夫です。…一体何がおっしゃりたいのですか?」


 睨むとまではいかないが、大公代理に視線をやった。

 大公代理は表情を変えずに言った。


「わかりました。単刀直入にいいましょう。私がこの国、ケレース王国の王になりましょう」


 予想していたが実際に言われるとなると、とても心臓に悪い。


「はぁ……。ふざけるのも大概にしてくれないか?」


 王子はため息をつき、呆れたように言った。王子は大公代理を睨み付けるように見た。


「駄目です。国は誰にも渡しません!」

「どうしてです?私は十五の時から大公代理をしてきた実績があります。それにこの国の王族の血を引く男です。何も問題ありません。皆、納得してくれるでしょう。なに、悪いようようにはしませんからご安心ください」


 大公代理は満面の笑みを浮かべて言った。


「大公国はどうなさるのですか?捨てるのですか?」

「捨てるだなんて人聞きの悪い事をおっしゃらないでください。うちの国は女性でも大公になれるので、妹に譲りますよ。ほら、何も問題ないでしょう?」


 大公代理はにっこりと笑った。


「あります。キリル殿はこの国のことを何もご存じではないじゃないですか!」


 大公代理はふぅと息を吐いた。


「逆に聞きたいのですが、貴女はこの国のことを知っているのですか?」

「もちろんです!主要産業は農業などの第一次産業で――」

「はぁ、丸暗記した内容じゃないですか。では、あなたのひいおじい様がなさった事は?」

「えっ……!」


 予想していなかった質問をされ体が固まってしまった。自分の曾祖父がしたことなど何も浮かばなかった。


「この流れなんですから農業改革と言ってくれないと…」

「うっ…」


 大公代理は声は呆れた風だったが、表情は微笑んだままだ。

 この国に関して、この国に生まれた自分より、大公代理の方が知識を持っていた。なんて恥ずかしいのだろう。


「もういいだろう。」


 王子が低い声で静かに言った。


「ああ、そうだ。国を渡したくないのなら、私が王に、エレオノーラ王女が王妃になればいいのでは?それならあなたのご両親も貴族も国民も全員が納得するでしょう。なに、五代も前だから血が近すぎるということもない。うん、我ながらいい解決案だ!」


 相変わらず大公代理は笑顔のままだった。


「おい、誰がそんな事許すと思うのか!」

「アレクセイ…、私とエレオノーラ王女二人の問題なのだから、口を挟まないでもらえるかな?」

「…お断りします!私が王になります。宰相の署名はされているので後は貴族を説得するだけです。説得してみせます。なんでしたら反対する者の爵位を取り上げます。何人か私の味方になってくれる人がおりますので、彼らに爵位を与え貴族の承諾を得たことにします」

「お、絶対王政ですか?顔に似合わずなかなか剛気なことを言いますね」


 大公代理は驚いた風に目を開いた。これも作った表情だろう。


「良い案ですね。ちなみに南東領主、南西領主、北領主は反対しないでしょう。この三人は国境を任されている事から他の領主より権力があります。彼らが味方になってくれるのなら法改正も参政権復活もかなり近づきますよ」

「ほうほう、なかなかよさげな案ですね。ですが、現実的でないのは分かっているでしょう?内戦になりかねない。ただでさえ人口が減っているのにさらに減らすおつもりですか?目先の事に囚われすぎです。王はもっと先を見ないといけないのですよ?」

「……」


 全くもってその通りだ。自分は両手を握りしめた。考えなしに思いついた事を口に出してしまった。


「お前なぁ…。そもそもこの国の王になる気なんてないのだろう?さっさと署名しろ」


 王子はかなり苛立っているようで、語気が強くなっている。


「いや、あるさ。うちの国は小さくてね。この大陸で一番小さい。もっと大きな国の方がいいに決まってるだろう」

「国土の面積で国の良さが決まるものじゃないだろ」

「そうだがね、大は小を兼ねるというだろう?大きいに越したことはない」


 大公代理は茶化すように言った。


「…キリル殿は明日の食事の心配をしたことがありますか?」

「ないですね」


 大公代理は目を細め口角を上げ、こちらを興味深げに見ている。


「髪や肌の状態もいいですし、爪も整ってらっしゃって、とても健康的でいらっしゃいます。お召し物もとても良い物を着ておられるようですね」

「お褒めいただき大変嬉しく思いますよ」


 大公代理はにっこりと満面の笑みだ。白い歯がキラリと光る。


「今、この国でそんな人が王になったら反感を買います。この王は自分達の苦しみを知らないのだと」

「知っていたら偉いのですか?」

「いいえ。ですが、今、この国の国民には寄り添ってくれる王が必要なのです」

「ほう……?」

「私くらいみすぼらしい方が王として受け入れられやすいと思うのですっ!」


 しばしの沈黙の後、大公代理の笑い声が響いた。


「……あははははっ!そう来ましたか!面白い!面白い方だ!いや、十年も外界と隔絶された場所にいたから、どんな人なのか心配していたんです。でも、これだけ面白い方なら大丈夫でしょう」


 作り笑顔ではなく本当の笑顔だった。


「えっ、あの…」

「署名しますよ。試すような事をしてしまいすみませんでした。箱入りならぬ、塔入り王女がそのまま王になったら傀儡(かいらい)にされかねないですからね。様子を見させて貰いました」

「てめぇ…最初からそのつもりだったのか」


 王子は大公代理を睨み付ける。


「怖い顔をするな。私が愛する国から離れるわけないだろう。大体この国には海がないからな。いいぞ海は。王女、国が落ち着いたら是非遊びにいらしてください」

「えっ、あ、ありがとうございます」


 話している間にさらさらと署名してくれた。

 署名後、大公代理はひとしきり大公国の良いところを喋った。自分がたまに相槌を打っていたが、王子は終始無言であった。




「先ほどは色々失礼な事を言ってしまってすみませんでした。」


 大公代理がしゃべり続ける一瞬の合間を縫って謝罪した。話が一つ終わった所だからちょうどよいだろう。


「貴女の決意が見られたのですから、謝る必要はありません」

「そうですよ。悪いのはすべてこの男です」


 王子は大公代理を睨み付ける。それに対し大公代理はやはり笑顔のままだが、これは自然な表情だった。


「酷いこというなぁ。遠い親戚を心配しただけだ。ああ、王女、貴女はみすぼらしくなんかありませんよ。確かに痩せぎすですが、そのうち脂肪もついて、より一層そのドレスが似合うようになるでしょう」

「ありがとうございます」


 自分が頼りないばかりに心配をかけてしまった。もしかしたら、大公代理の家族にも心配されているのかもしれない。


「そうだ、王位継承権放棄の書類も書きますか?」

「いや、それは止めた方がいい。万が一もあるからな。もし反対派の貴族がいたら、王族の血を引くという男をでっち上げるかもしれない。庶子だなんだと言ってな。女王を嫌うなら無理にでも王にしようとするかもしれない」

「あり得るな。よく気付いたな。流石私の弟だ!」


 大公代理は本当に王子を実の弟のように思っているようだ。

 兄弟がいたらどんな感じだったのだろうか。一緒に遊んだり、ケンカをしたり、本を読んであげたり楽しかっただろう。無い物ねだりをするわけではないが、時々考えてしまうのだ。もしかしたら、あったかもしれない日常を。


「俺の兄はアレクサンドル兄さんだけだ」

「つれない奴め。おおっと、もうこんな時間か。そろそろ帰るとしよう。アレクセイ見送ってくれるか?」

「…わかりました」


 王子は渋々と返事をした。王子は見たことないくらい、口がへの字になっている。


「キリル殿、本当にありがとうございました」

「いえいえ、貴女がよい国をつくるのを楽しみにしていますよ」


 王子と大公代理は部屋を出て行った。二人の入れ替わりで宰相と将軍、侍女達とリーザが入ってきた。王子の部下は王子について行ったようだ。


「王女様、大公代理殿の署名はいただけましたか?」

「ええ、もちろんよ」


 部屋中に歓声が響いた。


「心配してくださっていたみたい」

「大公代理がですか?」


 宰相が不思議そうに尋ねてきた。


「ええ、そう。私が王になっても傀儡にされるんじゃないかと思ったそうなの。そうよね。王になれても私の意見を聞かないで自分達で政治をしてしまうかもしれないのよね」

「はい。実際お父上の時でさえ、法で定められているより税を多くとっている領もございました」

「そう、お父様の時も…」


 父の時でさえそうなのだから、今はどうなのだろう。自分の時はどうなるのだろう。


「それに加え、領独自の法もございますからね」

「難しいのね…。もっと勉強しないと」

「大丈夫ですよ。そのために我々がおります。どうぞ頼ってください」

「ありがとう…」


 笑ってみたが、不安な気持ちが勝ってしまいきちんと笑顔になっていたか分からない。

 本は沢山読んだがほとんどが小説だった。様々な登場人物が出て来たので、演技をする時の参考にはなるがそれくらいだろう。いや、生きる勇気をくれたのだからそれは失礼だ。塔では侍女がこっそり持ってきてくれた本を読むぐらいしか娯楽がなかった。唯一の楽しみだった。


(私も物語の主人公のように屹然と困難に立ち向かえられたらどんなによかったでしょう。皆さんも悩みがあるのでしょうにそれを表に出さないでいるなんて凄いわ。私はいつも、うじうじとしてしまう。どうしたら強くなれるのかしら…)


「王女様昼食は食べられそうですか?」

「え、ええ。大丈夫よ」

「ではご用意してまいりますね」

「お願いするわね。ありがとう」


 腹が減ってはなんとやらだ。きちんと食事を摂って力をつけなければ。




 大公代理は海が好きなだけで内陸を馬鹿にしている訳ではありません。

 大公代理が思ったより悪い人じゃなかったと思ってくださったら評価&ブクマお願いします。

 ※予告なく加筆修正する場合がございますので、予めご了承ください。

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