17.将軍と旧友
評価&ブクマ感謝いたします。
サブタイトルから分かる通り、将軍のターンです。
※2020/05/14加筆修正いたしました。
将軍はかつて友だった男に会いに行くために牢屋に向かっていた。彼は王弟の朝で将軍をしていた。気のいい奴だった。それなのにあの暴君に仕えたのが信じられなかった。
こちらの牢はほぼ抵抗しなかった兵士等が入れられている。旧友の左右の牢屋は空けてあった。
「久しぶりだな。ヴィットリオ」
旧友は当然ながら太い鎖に繋がれていた。重りもつけられている。
「その声はジョヴァンニか。そうか、お前が…」
「ああ、嘆願書を出した」
「……」
沈黙が続いた。旧友は肩を震わせ泣いていた。大きい体を小さくして泣いていた。
「殺してくれ。俺は罪のない人を沢山殺した。お願いだ殺してくれ…」
「そんな頼みは聞けないな。何故お前がそんな愚かな事をしたんだ?…家族を人質に取られたか?」
「…ああ」
旧友は将軍より三歳年上だが、出世は将軍の方が早かった。将軍は仕事が生きがいで、休む間もなく働いたからだ。対する旧友は早くに結婚し、子どもが沢山いて家族を大切にするよい夫であり父であった。そこをつけ込まれたのだ。
「どんな理由があっても許されるはずがない。家族と国民を天秤にかけられた時に俺は家族を選んだ。国が荒れるのに便乗し悪事を働く者を止めなかった」
将軍はもし自分が同じ目に遭っていたらどうしただろうかと考えた。もしかしたら、今頃牢に入っていたのは将軍の方だったかもしれない。
「…十年前のあの日、何をしていた?あの場にいなかっただろう?」
「娘が…娘がいなくなったと妻から連絡があったんだ。俺は早退して探しに行ってたんだ」
「もしかして王弟の手によってか?」
「……」
旧友は黙って頷いた。唇を噛みしめ泣くのを堪えようとしているが、すでに顔中涙まみれになっている。
(やはり進んで裏切ったのではなかったのか…)
「俺はどんな殺され方をしても良いから、妻や子ども達には何もしないでくれ!全て俺の責任だ!家族は何も知らないんだ!」
旧友は叫んだ。力の限り叫んだ。声が牢屋中に響き渡った。
「罰するために来たのではない。…私の部下として働いてくれないかと頼みに来た」
そんな旧友に将軍は静かに答えた。
「何を言っているんだ。お前は英雄、かたや俺は悪政の片棒を担いだ極悪人だ。それなのに部下に?しかも頼むだと?自分が何を言っているのか分かっているのか?」
旧友は自嘲気味に言った。
確かに他の人が聞いたら怒ったり馬鹿にしたりするかもしれない。だが将軍は本気だった。
「聞いてくれ。エレオノーラ王女様が見つかったんだ」
ずっと俯いていた旧友が顔を上げた。
「エレオノーラ王女様が?!俺も暇を見つけては探したんだが・・・どちらにいらしたんだ?国外か?」
旧友は目を見開き驚いている。驚きのあまり涙が止まったようだ。
「城の東側にある塔で発見されたそうだ。王子が…連合国軍の司令官が王女様を見つけてくださったんだ。そして王女様は王になることを決意してくださった。信頼出来る人物に警護を任せたいと思っている」
「司令官が?東側の塔だと?そんな近くに?…そういえば、そちらに行こうとするといつも邪魔が入って…。そうだ、邪魔してきたのは髭の手下じゃないか!クソッ!もっときちんと探していれば!」
旧友は声を荒らげ、握り拳を床に叩きつけた。
将軍は旧友ならば王女を探しただろうと思っていたがその通りだった。
「で、王女様の警護はしてくれるのか?」
「お前が信頼してくれても、王女様はお許しにならないだろう。あの男の悪行に手を貸したんだからな。家族を人質に取られていたからって、そんなのは言い訳にならない」
旧友は肩を落とし再び俯いた。
「まるで王女様に許して欲しくないように聞こえるが?」
「…っ、許されるべきではない!」
「ふぅ、では、家族を人質にするか。そうすればお前は王女様の警護を受けるのだろう?」
恐らく何を言っても無駄だろうからこの方法しか浮かばなかった。
「お前っ!!…変わったな。以前のお前だったら熱く語っていただろう」
「もう四十だ。そんなに熱く語るような歳じゃない」
「十年か…。長かったな。本当に長かった。なのに何も出来なかった。どんどん傾いていく国を見ている事しか出来なかった」
「…処刑場から何人か逃がしたと聞いたが?」
将軍は国内で潜伏している時に助けられたという人物から話を聞いていた。
「本当に僅かな人数だ。全員助けたかったのに…」
十年間で起きた全ての出来事が旧友を苦しめている。
旧友の目からはまた涙が落ちた。
(家族といても、家族の命と引き替えに他の人の命を奪ったと苛まれるのだろう)
「王女様なら何とおっしゃるかな?罪滅ぼしをしたいのなら私を守りなさい。とおっしゃるかもな」
もちろん演技をしている時の王女である。
もしかしたらもっと厳しく言うかもしれない。
「王女様がそんな事を?あの、お小さかった王女様がか?最初は怖がられたが、しばらくすると笑いかけてくださるようになったんだ。そうか、大きくなられたのだな」
旧友は涙を流した。肩を震わせ、顔をしわくちゃにして泣いている。この涙は先ほどまでの涙とは違うようだ。
「ああ、立派になられた」
将軍は再会した時を思い出した。僅かながら面影はあったが、前もって教えられていなければ王女だと分からなかったかもしれない。
「すみません、盗み聞きしていた訳ではないのですが聞こえてしまったのでお許しください。王女様がご無事だったというのは本当なのですか?」
近くの監房から声が聞こえた。言った者の他にも何人か興味を持っているようだで、こちらを覗こうと鉄格子に近寄っている者がいる。将軍はそちらの方に振り返る。
「本当だ」
まわりの監房からも歓声があがった。何人かが涙を流しだした。
「皆、俺と同じような境遇だ。…これだけいるのに刃向かえなかったのかと思うと情けないな」
「王と言うだけで妄信してしまう者もいたのだろう?そいつらにやられていたかもしれない」
実際、王弟を守ろうとした兵士が沢山いたそうだ。あれだけ非道な行いをしていながら庇う者がいるのだ。
遺体から身元を調べたら、低い身分の者達や家長になれない次男や三男ばかりだった。甘い言葉を吐いて洗脳に近い事をしたのだろうか。
「戦いもしなかった…」
旧友は肩を落とし視線を床に向けた。
「自身の無力さを嘆くのなら、一人でも多くの人を助けろ。お前にはそれしか出来ないだろ。年老いてもだ。必死でやれ。」
「それで許されるだろうか…」
「許す許されないで考えるな。それをやるしかないんだよ。やる前から諦めるな。…やってもやらなくても文句は言われるだろう。それならやって文句を言われた方がましなんじゃないのか?」
「ははっ、なんだ熱いことは言わないんじゃなかったのか?」
「そんなこと言ったか?」
将軍と旧友は声を出して笑った。
「本当に俺なんかでいいのだろうか?」
「ああ、お前が適任だ。私は右腕が以前のようには動かせない。頼まれてくれるか?」
「俺に償いの機会をくれると言ってくれるのなら、全力でそれに報いたい。王女様をお守りする」
旧友は決心してくれた。将軍は胸をなで下ろした。
「あ、あの!我らにも何か出来ることはないでしょうか!どんな雑務でも重労働でも厭いません!」
「もう一度この国のために働きたいのです!」
「虫のいい話だと言うのは分かります。ですが!ですがっ!!」
次々に申し出る者がいた。元々良い奴らなのだ。だが、それを利用されてしまった。
「わかった。考えておこう。」
「うっ…感謝いたします」
皆泣いていた。
「西領の領主はどうなりましたか?捕らえましたか?」
一人の兵士が言った。将軍はそちらの方を向いた。
「捕らえようとしたときに自害したそうだ。八年前に前領主が王弟に諫言した後にすげ替えられたのだったな。たしか前領主には息子がいたな」
数回顔を合わせただけだが、とても優秀で人のいい領主だった。よく息子を自慢していたのを思い出した。
ここにいる者達は罰が下されてるのを待っている者達だ。何人か自害したそうだが、そいつらは処罰される事から逃げたのだ。ある意味逃げ得だと将軍は思った。
「はい。監視付きで西領内で暮らしています。実は彼に頼まれ城に入ったのです。なんとかやつらの寝首をかけないかと思ったのですが、逆にやられてしまいました」
「西領出身者か。…自害した領主は王弟に同調した輩だとか」
「そうです。同じような惨状になっている領は他にもあるでしょう」
「城内の人事だけではなく、領主も変えないといけないのか。これは大変だな……」
将軍は思わずため息をついた。分かっていたが口に出されると現実味を帯びる。これからの事を考えたら気が重くなった。王女が王になると言ってくれた時はとても明るい気分になったが、現実に目を向けると楽観視出来ない事の方が多い。
(いや、まずは出来る事からだ。西領の前領主の息子がどうなったかの確認と、無事だったら息子に西領の領主の打診してみようか…)
将軍の名前と年齢が分かった話でした。
暴君か暗君かで悩みましたが暴君にしました。処刑しまくってますので…。
少しでも気に入ってくださったら評価&ブクマお願いいたします。元気が出ます!
※予告なく加筆修正する場合がございますので、予めご了承ください。




