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16.肖像画

 今まで投稿した話を加筆修正いたしました。お暇な時にもう一度読んでくださると嬉しいです。

 ※2020/05/14加筆修正いたしました。


「ところでずっと気になっていたのですけど、壁に立てかけてあるのは一体なんなのでしょうか?」


 意味深に置いてある物が気になった。紫色の布が掛けられた四角形の物だ。


「はい。こちらは蔵書保管庫に隠されていたのですよ」


 宰相が微笑みながら言うと、兵士達が慎重に机の上に運んできた。兵士達の顔もなんだか嬉しそうに見える。


「本には興味がなかったようで、保管庫まで探すよう指示しなかったのでございましょう」


 宰相が掛かっていた紫色の布を外すと、とても懐かしく見覚えのある男女二人の肖像画が出て来た。


「こ、これは!」

「はい。王女様のご両親、フェルディナンド五世とマルゲリータ様でございます」


 もう両親の顔は見られないと思っていたのに、まさかまた見られるなんて思ってもみなかった。

 自身の記憶よりも少しだけ若いので、結婚して間もない頃かもしれない。

 両親は微笑んでいた。優しげな眼差しだ。今はっきりと思い出した。


「見つけてくれてありがとうございます……」


 懐かしい二人の顔をじっと見つめていると視界がぼやけた。もっと見ていたいのにどうしてだろう。


「王女、こちらを」


 王子にハンカチを渡されて自分が泣いているのに気が付いた。もう枯れ果てたと思っていた。

 ハンカチはすぐにぐしょ濡れになった。拭いても拭いても涙があふれ出てくる。


「うっ…あ、りがとう、ござ、います……」


(お父様、お母様もう少しで国を取り戻せそうですから、もう少し待っていてください)




 ふと気が付くと寝台の上に寝かされていた。どうやら泣いているうちに寝てしまったらしい。外はもう暗くなっている。寝台脇の机の上には冷めても食べられるパニーノが置いてあった。


(こ、子どもじゃないのに恥ずかしい…。明日なんとお詫びすればいいのでしょう……)


 ドレスは着替えさせられ、髪もほどかれていたので、寝てしまった後に侍女達がやってくれたのだろう。

 王子が貸してくれたハンカチはどうなったのだろう。侍女達が洗ってくれたのだろうか。何から何までやってもらってしまい申し訳なさでいっぱいになった。


(大公代理の方はどのような人なのかしら?王子達がおっしゃる通りの人物だったら…。王になりたいと言われた場合はどのように諦めていただこう…。また演技をして署名だけ貰うとか可能でしょうか……)


 そう思いながら、寝台の上でパニーノを食べる。パンに野菜とチーズとハムが挟まっていた。冷めていても美味しく食べられる物が用意されていた。昼食と夕食を食べていなかったのであっという間に食べて終えてしまった。

 食べ終わった後、口と手を拭き再び寝台に横たわった。ふぅと息を吐き、天井を見つめる。この天井にも見慣れてきた。


(いっそのこと、先に公表してしまうとか…?私の存在を周知させておけば、大公代理も王になるとは言いにくいのでは…?)


 窓側に顔を向けと今日は月は出ていないらしく外は真っ暗だった。


(窓から外を覗いたらまたアレクセイ王子がいらしたりしないかしら?)


 それはないだろうと思いつつ、期待してしまう自分がいた。寝台から抜け出し、カーテンをそっと少しだけ開けてみる。


(………)


 当然だが王子はいなかった。諦めきれずしばらく隙間から覗いていたが王子は来なかった。がっかりしてカーテンを閉め寝台に戻る。


(いつも助けてくださるから、つい頼ってしまう…。本当はいけないのに、自分で解決しないといけないのに頼ってしまう。ずっと一緒にいてくださるのではないと分かっているのに、いつか国に戻られるのに…)


 そう思ったら胸が苦しくなった。




 翌朝、侍女達の反応から自分がとても酷い顔をしているのだと気が付いた。濡れた布を渡され目を冷やす。ひんやりとしていて、とても気持ちがよかった。


「王女様、ご気分はいかがでしょうか。」


 アンナが声をかけてきたので布を目元から外してアンナの顔を見てみると、とても心配そうな顔をしていた。


「ええ、心配かけてしまってごめんなさい。私はあの後、眠ってしまったのね。寝ている私を着替えさせるの大変だったでしょう。それに食事をありがとう。とても美味しかったわ。そうだわ、王子が貸してくださったハンカチはどうしたの?」

「はい。洗ってお返しすると申し出たのですが、こちらの手間になるからと気遣ってくださり、そのまま持って帰られました」


 王子は侍女達にも気遣いをしてくれるのだ。

 王子の優しさにふれ、また泣きそうになったので持っていた布で目元を隠した。


「お疲れだったのでしょう。連日様々な出来事がありますからね」


 クラリッサが髪を丁寧に整えてくれている。塔にいた時の髪型はお下げかお団子にするくらいだったが、クラリッサがついてからは凝った髪型にしてくれている。


「本来ならまだまだ静養していて欲しいと医者が言っておりましたよ」

「ごめんなさい…。どうしても今やらないといけない事だから……」

「どうか、ご無理はなさいませぬように」

「ありがとう。肝に銘じておくわね」


 目元を冷やしながらも、侍女達は髪や衣類を整え終わった。手際のよさにいつも驚かされる。

 今日は淡い紫色のドレスだ。そう言えば毎日違うドレスを着ている。王子は何着用意してくれたのだろうか。


(私もいつかお返ししないと…)


 朝食を済ませた後、体力をつけるために運動しようとしたが止められてしまった。医者や侍女達はまだ休んでいて欲しいらしい。仕方なく椅子に座り足だけ動かす事にした。少しも動かないよりましだろう。手も動かそうと思ったが、傷が開くかもしれないからと医者に止められてしまった。そんなに酷い怪我ではないのだが、仕方なく椅子に座ったままの足踏みを続ける。


「………」

「…王女様、何かありましたか?」


 無言で足踏みをしていたところにクラリッサから声をかけられた。


「えっ?なに?どうして?」

「いえ、何か悩んでおられるようでしたので。大公代理の方が気なるのでしょうか?」

「…ええ。王になると言われたらどうしようかと思ったの。どのように説得したら納得してくれるのかとか…」


 その事も考えていたが、この先について漠然と思いを巡らせていた。不安は次々に押し寄せてくる。


「そうでございましたか」

「やはり男性の王が良いという人もいるんじゃないかしら?」


 六代目の時からずっと男性のみで政治をしてきたそうだから、もう何百年も女性は政治に関わっていない。それでいきなり女である自分が国王になったらどんな反応をされるのだろう。

 それだったらこの国の出身でなくても男性の方がよいと思われてしまうのではないだろうか。


「どんなに有能な方でも突然やって来た人に王を任せるなんて嫌です。ってこれは完全に精神論なんですけどね」


 クラリッサがそう言うとみんなで一緒に笑った。

 笑っていたらノックの音がし戸が開いた。見てみるとドナートとその隣に女性が立っていた。ドナートが着ている服とよく似た格好をしているので恐らく軍人だろう。


「エレオノーラ王女様おはようございます。早速で申し訳ないのですが、ご紹介したい者がおります。こちらはエリザベータ――」

「待って!ドナート殿の…妹さんかしら?」

「そうです。よくお分かりになりましたね」


 二人とも目を丸くして驚いている。


「ええ、眉と耳の形と、顔の部位のバランスが似ていたので分かりました」


 髪は兄弟そろって濃い茶色をしている。ドナートは坊主に近い短髪で、エリザベータは少し癖がある長髪で、耳より下の位置で一つに結わえていた。


「はじめまして、エリザベータと申します。どうぞリーザとお呼びください」


 エリザベータ…リーザは右手を胸に当てながら言った。


「リーザ…。ええ、リーザよろしくお願いします」

「いかがなされましたか?」


 ドナートは以前いた侍女のリーザの話の時にいなかったので、不思議に思ったようだ。


「ええ、昔とてもよくしてくれた侍女と同じ名前だったから、驚いてしまったの」


 侍女達も一緒に頷いた。皆同じ気持ちだったようだ。


「そうでしたか。女性の兵士もいた方がよいと思いましたので、ちょうど妹も今回派遣されていたのを思い出し、こちらに呼びました」

「気遣ってくださりありがとうございます」

「では、私は別の業務がありますで失礼いたします。リーザ失礼のないように」

「はい!」


 リーザが元気よく返事をした。

 ドナートが退室した後、皆でリーザをじっと見てしまった。同じ名前と言うのもあるが、女性兵士が珍しかったからだ。リーザはドナートと同じく長身だ。といっても女性なので王子の部下の中で一番背の低いアルトゥールよりも背が低い。


「セマルグル王国では女性兵士は多いのかしら?」


 この国では女性は兵士になれない。というか女性の仕事は侍女だけだ。


「部署にもよりますがだいたい二、三割ですね。女性や小さいお子さんだと屈強な男性兵士を怖がる事がありますので、女性兵士の採用が始まりました」

「屈強な男性兵士ってお兄さんもどなたかに怖がられて…?」


 ドナートはこの国の兵士を含めてもなかなか厳つい顔をしていると思う。まだ若いのにすでに貫禄がある。リーザはそうではなく凜々しいような爽やかなようなそんな印象を受ける。


「はい。以前たまたま城に来ていた侯爵家のお嬢様に怖がられてしまい、落ち込んでおりましたよ。まだお小さい方でしたからね。もうすぐ姪…兄に子どもが産れる時期だったので余計に落ち込んだようです」

「まぁ……」


 強面のドナートが落ち込んだ姿とはどんなだったのだろうかと少し気になった。


「ああ、そうだわ。リーザはモコシュ大公国の大公代理の方について何か知ってるかしら?」


 直接知らなくても兄妹つながりで何か聞いているかもしれないと思い聞いてみた。


「ええ、もちろんです。殿下はあまりよく言っていないと思いますが、大公代理は殿下をからかっているだけだと思います。代理は妹君しかいないため、血のつながりがある殿下を弟だと思っているようです。…まぁ、それを除いても目に余る言動をなさる事もあるそうですが」


 リーザは遠い目をした。それに歯切れが悪い。何を思いだしたのだろうか。


「アレクセイ王子相手以外には何も問題は起こしていないということかしら?」

「と、言うわけでもないのです。聞いた話なので詳しくはないのですが、問題を起こした場合は相手が犯罪まがいの行いをしている事が多いそうです」

「…な、なんだか気難しそうな方なのね」


 頭が混乱してしまっているので上手く返答出来なかった。


「はい…」


 皆は沈黙した。

 どう対策したらよいか余計に悩んでしまいそうだ。


(とにかく話し合えば分かってくださるはずだわ。そもそも王になるだなんで言い出さないかもしれないのだし、考えすぎも体に毒だわ。もっと気楽に…気楽に……)


 気楽にと考えたが、どうしても悪い方へ考えてしまう。悪い癖だ。


(駄目よ!こうなったら開き直って…。そう、この国は渡さない!ってガツンと言えばいいのよ。そうよ。それだけじゃない!)


「よしっ!」


 思わず声を出してしまった。一斉に視線がこちらに向く。皆ポカンとしている。


「ど、どうなされましたか?」

「きっ、気合いよ、気合い!」

「そうでございましたか」


 侍女達やリーザが笑ってくれたのであまり恥ずかしくなかったが、もしそうでなく頭がおかしくなったのかと心配されたらどうしようかと思った。


(まず、自分に負けちゃ駄目よ。しっかりしなくちゃ!)




 パニーノは単数形でパニーニは複数形らしいです。王女は小食なので一つしか食べられないだろうと思い単数形にしました。

 身長はドナート>王子≧ミハイル>アルトゥール>エリザベータ≫王女の順です。

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 ※予告なく加筆修正する場合がございますので、予めご了承ください。

 

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