14.地下牢
王女VS髭 です。ほぼ会話です。
※2020/05/13加筆修正いたしました。
翌朝の朝食後、王子に用意して貰った中から緑系のドレスを身に纏い、現宰相のいる地下牢に行く準備をしていると、部屋に元将軍が来た。あまり見かけないと思っていたら、どうやら国内をまわっていたらしい。
「王女様、国中に食糧が行き渡りました。連合国軍より譲り受けた種で作付けを始めた地域もあります」
とりあえず飢餓が原因で死んでしまう民はほぼいなくなるということだ。
作付け時期は少し遅いが収穫には間に合うだろう。
「本当?よかった…。良い知らせをありがとう」
思わず笑顔になった。なんだか上手くいく気がしてきた。
「引き続き支援を表明してくれている国もありますので食糧に関してはもう大丈夫でしょう」
「早く国を落ち着かせてお礼をしないといけないわね」
「ええ、そうですね。…ところでどちらかへ行かれるおつもりですか?」
「現宰相のところへお願いに行くのよ」
「ええっ?!」
事情を話すと元将軍も付いてきてくれる事になった。とても心強い。
王子達と合流し地下牢へ続く階段の前に着くと、いつものように王子が運んでくれようとしてくれた。
「大丈夫ですよ。部屋で練習しましたから。ゆっくりとでしたら階段を下りられると思います」
「し、しかし…」
「強い気持ちならなければならないので甘えたくないのです」
「そっそうでしたか。失礼いたしました……」
王子は下を向きとても残念そうにしている。出来る事が増えたのを喜んでくれると思ったのだが。
「ドナートとミハイルは王女の前を下り、俺は横で支える。元将軍殿は後ろをお願いします」
「御意」
「…御意」
「お任せください」
ゆっくりとゆっくりと、階段を下りていく。王子に支えてもらいながら何とか下りきった。
現宰相がいる牢は一番奥なのでまだ見えない。しかし、鼻歌が聞こえてきた。何の曲かは分からない。自作の曲だろうか。
歩を進めると、鼻歌がどんどん大きくなってきた。
自身の心臓の音も大きくなってゆく。
(深呼吸して…大丈夫、大丈夫……)
心の中で大丈夫と唱える。王子がこちらを見て声には出さず、口の動きだけで大丈夫か聞いてきた。それに答えるように頷いた。
心を落ち着かせ、手の汗をドレスで拭い、そして力いっぱい拍手をした。地下牢に拍手の音が響いた。
「宰相!見事な鼻歌だわ!その曲は自分への哀れみの歌かしら?それともこんな状況でも生きていられる喜びの歌?それとも虐げた民への懺悔の歌?」
現宰相は一瞬驚きの表情を見せたが、すぐに睨み付けてきた。
「あ?嬢ちゃん、誰だあんた?」
「あら、私の事忘れたの?こう言った方がよかったかしら?元侍従次長補佐官さん?」
現宰相は目を見開き固まった。
「あ…ああ…。王女様、い、生きておられましたか」
「ええ、こちらの連合国軍司令官様が助けてくださったの」
「この間、死んだって…」
「言っていない」
王子は低い声で短く答えた。
「くっ、一体何しに来たんだ!」
現宰相はすぐにそれまでの態度に戻った。
「お願いとお礼に来たの」
「は?お願いとお礼?」
現宰相は首を傾げた。
「ええ、そうよ。宰相を譲って欲しいの。一昨日ここに来たでしょう?」
「あの老いぼれじじいにか。はっ!俺はあんたの命令にゃ従わなくていいんだよ」
「ええ、だからお願いと言っているのよ。ちゃんと聞いてなかったのかしら?」
「はいはいと聞くわけねぇだろ。ったく…」
そう言いながら背を向け、そのまま寝転がった。
「聞いてくれたらそれなりのお礼もするわ」
「はっ!地下じゃなくて塔に閉じ込めるとかか?」
「それもいいわね。でもあそこは城から離れているから食事を運ぶの忘れちゃうかもしれないわね」
「そんなんで脅しているつもりかぁ?」
現宰相は完全にこちらを馬鹿にするかのように寝転がったままおどけてみせた。
「じゃあ、財産を取り上げるだけであなたの妻や子どもの罪は不問にしましょう。周囲の注目の中どう生きるのか面白そうね。」
「ははは、それこそなんの脅しになってねぇよ。あいつは俺の子じゃねぇ」
現宰相は起き上がってこちらに向き直り、にやけながら言った。
「まぁ!妻に裏切られて自暴自棄になってあの男の悪事に加担したのね。可哀想にねぇ。ちょうど子どもの年齢が一致するもの。十年前に子どもが生まれたって言っていたわよね」
「よく、覚えておいでで…」
現宰相は顔をしかめ、少々気まずそうな顔を見せた。
「ええ、覚えているわよ。十年前の事は特にね」
「ははっ、そうですか」
顔を背け、馬鹿にしたかのように笑った。
「もう一度言うわ。宰相を譲ってちょうだい」
「断る」
今度はこちらを睨み付けながら言ってきた。意見を変える気はないようだ。
「そう、残念ね。仕方ないわね…では、あなたを釈放します」
「は?何言ってんだ?」
「お礼よ。私を殺さずに生かしておいてくれたお礼。さっきのとは別のね」
「そうかよ。有り難く釈放されまーす。ありがとよぉ」
そう言うと後ろに倒れ、手足を伸ばしながら仰向けになった。
「ええ、王都の広場でね」
「は?」
動きが止まった。
「宰相を釈放しますって言うの。そうしたら民はどうするのかしらねぇ」
「待て!そんな事したら!……いや、そうはいかねぇぞ」
飛び起きて抗議をしようとしたようだが、何かを思いついたのかそれを止め、にやりと笑った。
「私刑は禁じられているけど、取り締まる兵の数も足りないからどうなるかしら?」
「投石や暴行とかだろうか」
王子は今まで黙って自分に任せてくれていたが、手助けしてくれた。これで思考を整理する時間が出来た。現宰相はこちらの話を聞く気がない。興味を持たせるにはどうしたらいいだろうか。
「それで済めばいいけど、鋸挽き刑とか八つ裂き刑とか、皮剥ぎの刑とか……ね?」
「はン!そんなん起るはずがねぇ。ありえねぇ」
「何故そう言えるのかしら?」
「誰かしらが止めるだろうよ」
随分と楽観的な考えである。
「そうね。とーっても優しい誰かが助けてくれるかも。あなたの息のかかった人達はみんな捕らえられていて、あなたに恨みがある人は沢山いる。その中で何人が助けてくれるかしらね」
「ふんっ、俺を処刑出来ないからって……愚策にもほどがある」
「そっ、残念ね。明日あなたを王都の広場で釈放しますので」
帰ろうとして体の向きを変える。もちろん帰るふりだ。
「…本気なのか?」
「本気も何もお礼だもの。あなたでも死ぬのは怖いのかしら?散々人を殺したくせに、自分は嫌と…。面白いわね。我が儘をいう子どもみたいだわ」
現宰相の方に向き直った。
現宰相は最初、恐怖を感じた顔だったが、すぐに表情が変わった。
「はははははっ!」
現宰相は高らかに笑い出した。地下牢に笑い声が地下牢に響く。
「何がおかしいのかしら?」
「殺せよ、殺したいんだろ?でも自分ではしない。民にやらせるんだろ。自分の手は汚したくないんだ」
現宰相はニヤニヤと笑っている。やや苛立ちを覚えたが、相手に飲まれてはいけない。
「私はお礼とその後に起こり得る事を言っただけなんだけど…。そうね。あなたが望むのなら、今ここで殺してあげましょう。なるべく血は流したくなかったのだけど、私が国を治めるために必要だったとして諦めるわ。司令官様、剣を貸していただけますか?」
「王女、こちらをどうぞ」
王子は自身の剣を腰から外し、手渡してくれた。剣はかなり重たい。こんなに重い物を振り回すなど自分には無理だろう。
「ありがとうございます。…重いのねぇ。慣れてないから変な所を斬って苦しめてしまうかもしれないわね」
剣を鞘から少し抜いて刀身を見てみた。刀身には自分が覗き込んでいる姿が映っていた。
「おい、ふざけるのも大概にしろ!許されるわけないだろ!」
現宰相は焦りだしたようで、身を前のめりにし、こちらに話しかけてくる。
「許すって誰が何を?私って死んだことになってるんでしょ?死人だったら罰せられることもないんじゃない?」
「そんなわけあるかっ!」
「ごめんなさい。私ずっと塔にいたから、そこらへん疎くて…」
わざとらしく困った顔をしてみた。
「おい!お前らも黙って見てないで何とか言え!」
「何とか。」
王子はとても短く言った。面白い返事の仕方だと思った。
「っ!どいつもこいつも馬鹿にしやがって!」
王子の返事は効果覿面だったようだ。現宰相は慌てている。
「それはあなたも同じでしょ?宰相を譲るのに法外な要求をしたと聞いたわ。こちらが手を出せないのにいい気になって、こちらを舐めきった態度をして…。何ををしたってあなたが犯した罪は消えないのに償おうともせず、最後ぐらい筋を通したらどうなのかしら?」
最後なのか最期になるのか。
「くそっ!俺は生きていたかっただけだ!何が悪い!あの状況で生きて行くにはああするしかなかったんだよ!」
「あら?それで同情を買ったつもり?あの男を殺せばよかったじゃない。それをしなかったのなら、あなただって自分の手を汚したくなかったんでしょう?…ああ、処刑も自分でしたんじゃなくて誰かにさせたんでしょ?なんたって宰相様ですものね。お前やっとけっ、て言ったのかしら?」
「う、うるさい!くそっ!ぅぅうっ……」
現宰相は頭を抱えながらうずくまった。
「リーザとマリーナとスザンナの話を聞いたわ」
「だったらなんだ!うっうう…っいやだ!死にたくない!」
「みんなもそう思っていたはずよ」
「俺は…俺は……!!」
数回ほど両拳を床に叩きつけた。
「どうした?宰相を譲ればいいだけだ。さっさと署名しろ。いつまで宰相の座にしがみついていたいんだ。」
王子が再び手助けをしてくれた。とてもありがたい。
「…あなたにしか出来ない事よ?私は一人でも多くの国民を助けたいの。なんだったら王位継承法を改正して女性も王になれるようにしてくれればいいのよ。後、女性参政権の復活もね」
「王になったら俺を罷免するんだろ?」
「あら、ばれちゃった?だけど、罷免されるのと、自ら譲るのどちらが聞こえがいいかしらね?」
「ははは……そりゃもちろん譲った方だろうな…」
現宰相は背中を丸め力なく笑った。
「どうするの?署名するの?今ここで私に殺されるの?それとも国民に私刑にされるの?あなたに選ばせてあげるわ。さぁ、選んでちょうだい!」
「…ううっ、くそっ!署名するよ。すればいいんだろ。王女様…俺はあなたに勝てそうにねぇ…」
「そう、ありがとう。ついでにこちらにも署名してちょうだい」
そう言い、必要な書類の他に宣誓書を手渡した。
「ん?宰相じゃなくなるのにか?…宣誓書?ああ、エレオノーラ王女様本人だと言えばいいのか。わかった」
「ありがとう。助かったわ」
「俺が違うと言うかもしれねぇぞ」
「その時は俺が斬るから安心しろ」
王子の顔は見えないが、声はいつもより低く、脅しているようだ。
「…だから怖えぇって」
「お礼は何がいいかしら?」
「…王女様が立派に国を治めてくれりゃあそれでいいさ」
「急に殊勝になってどうしたの?あなたらしくもない」
「故郷がボロボロになっていくのを見るのは俺だって…いや、何でもねぇ。とにかく頑張ってくれ」
「あなたに言われなくても分かってるわよ」
王女がなんとか勝利しました。
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