13.年齢
評価&ブクマしてくださった方ありがとうございます。もちろん読んでくださる方にも感謝です。感想もありがとうございます。
今回も会話多めです。会話を書いてから地の文を埋めていくので、読みづらいかもしれません。すみませんがお付き合いください。
※2020/09/02加筆修正いたしました。
「お大事にだそうですよ、殿下」
アルトゥールが茶化すように言った。部屋を出る際に彼女に言われたのだ。そんなに変だっただろうか。いや、変だっただろう。
「肝心の事を言えませんでしたね。この国では女性は王になれないと。王位継承法を変えさせるには地下牢にいる男の力がいるのだと」
彼女の部屋に赴いたのは本来このことを伝えるためだったのだが、彼女の気持ちに水を差したくなかったので黙っていた。しかし早いうちに伝えないといけない。午後に面会時間を設けられるだろうか。
「あの髭宰相に頼らなくても何か方法があるといいのですが、現状何も浮かびませんね。となるとあの者を説得するしかないのでしょうか」
ドナートが髭宰相などとあだ名をつけるとは思わなかった。
「そうだな。あの元口髭野郎をどうにかしないとな。うん。策を練らねばな。よし、早速策を練ろうじゃないか」
「殿下、月の話以外は何を話されたんですか?」
「んー、この国の法が分からないからなぁ。元宰相殿に聞くしかないな」
「殿下、誤魔化さないでください」
「…、色々だ。色々」
ミハイルは淡々と追求してくるので怖い。これ以上はぐらかしたら更に傷を深めかねない。
「夜中に走り出したくなるような話をされたんですよね?」
「違う!断じて違う!」
アルトゥールは楽しんでいるようだが、ドナートとミハイルは怖い顔をしてこちら見ている。
「…うーん、それにしても王女様は恋愛について少々鈍いような気がいたします。塔の中にいて人と接する機会が少なかったからでしょうか?」
茶化してくる割には話を逸らしてくれるので助かる。おかげで昨晩何があったのか言わずにすんだ。
「それは俺も思った」
「無自覚だった殿下がですか」
「お前が言うな。エレーナ嬢とまともに話せないくせに」
手が触れた、いや、かすっただけでも顔を真っ赤にするのだ。周りの人間は何も言わないが、にやつきながら見ている者も多い。
「なっ!今は関係ないでしょう!!」
思い出したのか赤面している。今後またからかってみよう。
「あのくらいの年頃の女性だったら恋愛小説を読みそうですがね」
そんな中、最年長のドナートは冷静だ。さすが既婚者は違う、と自分に言い聞かせる。
午後になり彼女の部屋向かう途中で、侍女のダニエラに会った。
「え?王女様が読まれた本ですか?」
「そうです。…恋愛小説とかは読みますか?」
ダニエラはにやりと笑った。何かを察したようだ。だがすぐにいつもの顔に戻った。
「最初は絵本や童話でしたが、すぐに読まれてしまったのです。恋愛小説もお渡ししたのですがまだ早かったようでしたので、恋愛ものでない小説と最近は旅行記などをお渡ししておりました」
「ほう、旅行記ですか。」
「ええ、そうでございます。外の世界も知って欲しかったものですから」
「そうでしたか。教えていただきありがとうございます」
ダニエラに礼を言い、彼女の部屋に向かう。
(旅行記…塔にも本が一冊あったがそれも旅行記だったのだろうか。そのうち取りに行かせようか)
医者から許可を取り、彼女の部屋に入ると先客がいた。元宰相だ。何か話していたようだが、二人ともあまりいい表情をしていない。
「王子、こんにちは。先ほどは気を遣わせてしまったようで、すみませんでした。今、元宰相からこの国では女性は王になれないと聞きました」
彼女は眉を下げ、困ったような申し訳ないような顔をしている。
「後、王位継承法を変えるには現職の宰相でないと出来ないとお伝えいたしました」
元宰相も白く長い眉を下げて話をしている。
「他にこの国の王族の血を引く男性はいませんか?いるのであれば現宰相に命じて王位継承法を変えられますし、女性に参政権も与えられます」
ミハイルが淡々と尋ねる。切り替えが早いようなので、先ほどの事を引きずらないようだ。
「私もそう思い、国内外の王家や貴族との婚姻記録を遡って見たのですが、国内にはいませんでした。この国では古くから一夫一妻制ですので王族の血を引く人が多くないのです。ですので結婚しても王家に残る場合が多いのです。ご存じの通り、現在この国の王族はエレオノーラ様ただ一人です」
「困ったな…」
「国外はまだ調べておりませんので、それに望みをかけましょう」
不可侵条約が結ばれる前は政略結婚が多かったそうだから充分望みがある。
「あの…よろしいでしょうか。」
彼女は緊張しているようだった。両手を握りしめている。
そういえば手の怪我はよくなったのだろうか。
「王女いかがなさいましたか?」
「私が直接お願いするのはいけないのでしょうか。命令出来ないのならばお願いするしかありません」
眉は下がったままだが、こちらをじっと見ている。
「どんな要求をしてくるのか分かりませんよ。実際に我々は一度法外な要求をされています。それに…それに嫌な思いをされるやもしれません」
「案外私が生きていたのに驚いて承諾するかもしれません。ああ、それとも幽霊のフリをして脅かすとか?それで宰相の座を渡して貰うとか?どうでしょう」
「賛成出来ません。特に後半、仮にであっても貴女を死んだことにするなんて嫌です」
もし他の誰かが提案したのなら殴っていたかもしれない。
「やってみるだけやってみましょうよ。駄目だったら別の案を考えましょう」
「王女様がそうおっしゃるならいいのではないでしょうか」
「ドナート!」
ドナート、おのれ許さん!と言いたかったがやめた。やめられた。
「そもそも髭宰相が抵抗もなく投降するとは思わなかったのでしょう」
「どういう意味でしょうか?」
「簡単に言ってしまうのなら、どさくさに紛れて殺してしまうはずだったのです。聞いたところによると、無抵抗で投降したので捕らえるしかなかったそうです。王族と宰相がいなければ国として機能しなくなりますから、その場合、嘆願書を提出した人物が国を仕切ることが出来たのですよ」
「…そ、うだったんですね。ほ、本当に知らない事ばかりで驚いています」
(ドナートよ、何故そうペラペラと喋ってしまうんだ。こんな人物じゃなかったはずだ。もしかして妻子に会えない苛つきからか?)
ドナートを睨み付けるが無視された。ミハイルとアルトゥールを見てみると二人とも諦めたような顔になっている。二人もドナートの意図に気が付いたようだ。
「分かりました。やってみましょう」
「ありがとうございます」
彼女が笑顔になったのでよかった。
というかあのままドナートが暴走しても困るので承諾した。
「元宰相殿は引き続き王族の血を引く男性がいないか調べてください」
「分かりました。申し訳ないのですが、どなたかお一人、手を貸してはくださいませんか?文字通り手がありませんので」
まさか元宰相から自虐めいた冗談が飛び出すとは思わなかったので少し驚いた。
「では、私がご一緒します」
「そうだな。アルトゥールの顔は迫力がないから、あの者に笑われるかもしれない」
「穏やかな顔立ちとか優しい顔立ちとおっしゃってくださいよ」
「うふふっ、仲がよろしいのですね」
彼女が声を出して笑った。
「ええ、まぁ赤ん坊の頃から一緒ですからね。十八年も一緒にいるのか…」
「え…王子は十八歳なんですか?もう少し上なのかと思っておりました」
それは老けていると言っているのだろうか。それとも大人びていると言っているのだろうか。しっかりしていると言っているのだろうか。
「私とアレクセイ王子は同い年で十八歳、ミハイルさんは十九歳、ドナートさんは少し上の二十三歳なんですよ。ドナートさんは子どもの頃から強面で――」
「あー、その話は今度でいいだろう。王女、もう一つだけよろしいですか?王女生存の公表の時期です」
「はい」
彼女は一段と厳しい顔つきになる。
「私の要請で元宰相と元将軍が動き嘆願書を提出した、ですね」
「そうです」
「私の方から、城内の者には根回ししております。と言っても私が直接頼めたのは十年前からいる者達に限られおりますが。彼らに、それとなく噂するように言ってあります。実は先王の王女が生きているらしいと」
元宰相の言葉に彼女は頷く。
「…私は何をすればいいのでしょうか?」
「塔で我々に啖呵を切ったようにやってくだされば大丈夫ですよ」
「!!」
「エレオノーラ様が?」
「ほう…」
その場にいなかった元宰相とドナートが関心深げに反応した。
当の彼女は思い出したのかあたあふたしている。
「あの時のようにですか?必死だったのであまり覚えていないのです…」
「大丈夫です。また出来ますよ。なんでしたら城内の者達なら司令官の私が隣にいれば信じる者も多いでしょうし」
彼女は小さく、はいと言い頷いた。
「現宰相の元に行くのと、公表の順番はどちらを先にいたしますか?」
「何でしたら髭宰相に王女本人だと証言させるのもいいのではないでしょうか」
ミハイルの質問にドナートが案を提示する。
二人の言葉を聞きいた彼女は少し下を向き、ふぅと息を吐いた。そして顔を上げ真っ直ぐとこちらを見た。
「どちらが先でもきちんとやってみせます」
彼女は小さな両手を握りしめてはっきりと言い切った。
「その意気です。どちらの事も多少強気で行かないと舐められますからね」
「頑張ります」
彼女は握った両拳を胸元ぐらいの高さに持ち上げた。気合いを入れているのだろうか。
「では、私とアルトゥール殿は調べ物をしてまいりますので失礼いたします」
「お願いいたします」
「分かり次第お伝えにあがりますので」
王族の血を引く男性が見つかっても、交渉しにくい相手でないことを祈ろう。出来れば交流のある国だと嬉しい。
二人が行った後、側に控えていた侍女達も交えて作戦会議をした。彼女達の方がこの国や元口髭野郎について詳しいからだ。
「確かに、国民の中には王族に良い感情を抱いていない人も少なくありません。しかし、先王様を懐かしく思う人達がいるのも事実です。王女様がご存命と知ったなら喜ぶのではないでしょうか」
「城内では王や王妃が囲っていた者達、現宰相の手下以外は大きな反発はしないと思います。彼らは牢の中ですよね。ならば大丈夫ではないでしょうか」
ダニエラとアンナは彼女に対し少々過保護な所があるから、そうであってほしいという気持ちがあるのかもしれない。
「奴らに虐げられていた者達はどうだ?横暴な態度を取っていたんだろ?奴らを寵愛した王族のせいだと思わないだろうか」
「すみません。そこまではわからないですね」
アンナは肩をすくめた。少しきつい言い方になってしまったかもしれない。
「それとなく聞いてみるのはどうでしょうか?」
「いいですね。私やってみます」
クラリッサの提案にリンダが乗った。
「危なくないの?」
「大丈夫だと思いますよ。十年前からいる人とそれ以外では毛色が違います。なんと言ったらいいのか分かりませんが、誇りを持って仕事をしている人と、仕方なく仕事している人・・・いえ、すみません。上手く言えないのですが、大体そんな感じなんです。私でしたら城に入ったのはここ数年ですから仲間に入って聞いて来られると思います」
彼女は心配したが、リンダははっきりと言った。
周りを見てみたが異論のある者はいないようだった。
「お願いするしかなさそうだな」
「遠くから見張りますから何かあったらすぐに合図してください」
ミハイルが言い、それを聞いたドナートが頷いた。何時になく真剣な目つきだ。
「分かりました」
「気を付けてね」
合図を出す出さないの心配はなく、リンダはあっさりと色々と聞き出してきてくれた。皆疲れているのもあり、質問の裏を考えなかったのかもしれない。
「良いと悪い半々でした。しかし本音を言っているのかどうか…王族はもういないと思っているでしょうし」
「そうね。私が突然現れたらどうなるのか…」
彼女は不安になったのか下を向いた。
「噂はどのくらい浸透していたか分かるか?」
自分の声に彼女が顔を上げ、話に耳を傾ける。
「広まりかけているようです。話をふると、まさか…といった感じでした。もしそうだったらいいなと言う方もいました」
「…先に現宰相の方がいいですかね。ドナートさんが言った、王女本人だと証言させる案がいいのではないでしょうか」
ミハイルが口元に手を当てながら言った。
「認めなかったら?」
「認めさせますよ」
彼女に自分を含めた皆の視線が集中する。
あまりにきっぱりと言うので驚いた。何か良い策があるのだろうか。
「沢山の本を読んだのでそれなりに知識はあるのです。それらを何とか応用してやってみます」
「現宰相には強気ですね」
「大勢よりは一人相手ならという浅い考えなんですけどね」
彼女は困った笑顔で答えた。彼女も不安なのだろう。だが、今は彼女の策に賭けるしかない。
王子や部下達の年齢が判明する回でした。
他の人の年齢も気になるかもって方は評価&ブクマお願いいたします。単純に喜びます。
※予告なく加筆修正する場合がございますので、予めご了承ください。




