12.月の話
そろそろ王女が本領発揮?します。
※2020/05/13加筆修正いたしました。
まさか夜に王子に会えるなんて思ってもみなかった。あまり話せなかったが、話せてよかった。本音を言うともう少し話をしたかったのだが、王子は急いでいたようだった。姿が見えなくなったと思ったら走って行く足音が聞こえた。引き止めてしまって悪かったと思う。明日謝ろうとも思ったが、時間外に会ったの知ったら王子が医者に注意されるかもしれない。黙っておいたほうがいいのだろうか。
(こっそり謝れればいいのだけれど…それともお手紙を書いて渡せばいいかしら?感謝の手紙として渡せば大丈夫かしら?)
もぞもぞと寝台に上がり寝直すことにした。目をつぶると先ほどのことが思い出された。
目が覚めるとまだ夜だというのに空が明るかったので、カーテンの隙間からこっそり覗いてみた。満月かそれに近い月が見られると思ったのだが、自分がいる部屋からでは月が見えなかった。何度か角度を変えてみたが駄目だった。塔にいた間は月を見られなかったので見てみたかったのだが…。
(今日は見られなくても、またいつか見られるわよね)
そう考えつつも名残惜しかったので月の光だけを覗いていた。
少しの間覗いていたら人影が見えた。隠れなければと思ったがその人影の人物に見覚えがあった。
(王子!)
どうしてここにいるのだろうかと思ったが、どうやら月を見ているようだった。邪魔をしては悪いと思ったが、話をしてみたくて少し窓を開けて声をかけてみることにした。
「王子、アレクセイ王子」
声が小さすぎて聞こえないのだろうか。いや、月を見るのを止めたから聞こえてはいるのだろう。
「アレクセイ様」
もう少し大きな声で呼んでみた。と言っても普段話す声より小さい声だったが王子には聞こえたようだ。王子がこちらを振り返った。
「エレオノーラ王女…」
気付いてくれた。王子はかなり驚いたようで目を丸くしている。帯剣こそしているが昼間見かける格好と違いかなりラフな格好をしている。
「こんばんは。王子も月を見てらしたんですか?」
「ええ、王女もですか?」
「はい。目が覚めたら外が明るかったので。ですがこの位置からじゃ見えませんね。久しぶりに月が見られると思ったのですけど、残念です」
王子も同じ事をしていたのだと思うととても嬉しかった。
「誰かいるのか!」
男の声が聞こえた。おそらくは見回りの兵士だろう。自分が呼び止めたせいだと思い焦っていたら、王子は思いがけない行動をとった。
「窓を全開にして窓から離れてください」
「はいっ」
王子の言う通り窓を開け、窓の脇によけた。王子はと言うと城から少し距離をとったと思ったらこちらに駆けてきた。そして壁を蹴り、窓枠に手をかけると窓から部屋に飛び込んできたのだ。助走の勢いと腕力で二階に上がったのだろうか。
王子はカーテンの隙間から見回りの兵士が立ち去ったのを確認する。
「危ないところでした」
「す、すごいです。どうやったんですか?」
自分には到底出来ないことだ。一瞬の判断であんなことが出来るなんてとても凄いと思った。
「え、あ……」
変な質問をしてしまっただろうか。王子は困っているようだった。
「私も練習したら出来るようになるでしょうか?」
「それは…やめた方がよろしいかと思います。体格的にも腕力的にも」
「ソウデスカ……」
自分でも無理だろうとは思ったが王子に言われるとがっかり感が増した。
少しの沈黙の後、王子の方を見てみた。いつもと違った髪型、服装なので別人のような気がしてしまって恥ずかしいような気持ちになった。
あまりに恥ずかしかったので、この後何を話したのかほとんど覚えていない。でも王子はとても嬉しい事を言ってくれたと思う。とても頼りになる人だ。とても優しい人だ。
(でも甘えちゃいけない…。自分で、自分で何でも出来るようにならなくちゃ。皆さんに心配ばかりかけちゃ駄目。皆さんに頼られるような、そんな人に…)
『貴女なら大丈夫ですよ。私が保証します。後、貴女を傷つける者がいたら私がさせません』
『どうしてそこまで言ってくださるのでしょうか』
『司令官だからです。最後まで見届ける義務があります』
(この言葉を聞いたときとても嬉しかったけど少し悲しくなったのよね…何故かしら……)
天井を見てみる。ずっとレンガで出来ている天井しか見てこなかったので不思議な感覚になる。本当に塔から出られたのだと実感が沸いてくる。
(全部王子の…アレクセイ様のおかげね。何かお礼が出来たらいいのだけれど。好きな物をお手紙で聞いてみようかしら?)
そう考えを巡らせていると、いつの間にか眠りについていた。
朝食を済ませた後、侍女から紙とペンを用意して貰い王子に手紙を書こうとしていたら、王子本人が訪ねてきた。部下の三人も一緒のようだ。護衛も兼ねているだろうから当たり前なのだが。
いつものように医者と侍女は部屋を出て行った。
「おはようございます。体調はいかがですか?顔色は大分良くなったようですが」
「はい。おかげ様で熱も下がりましたし、気分もよいです」
やはり、昨日の夜に会った事は内緒のようだ。王子はいつもと変わらない様子で・・・、と思ったがどうやら目の下にクマが出来ているようだ。
「あの、王子どうされましたか?目の下にクマがありますが…」
「…ああ、これはご心配にはおよびません」
「本当ですか?何かあったのでしたら隠さず教えてください」
何か問題でも起きたのだろうか。
「…個人的な事ですので、大丈夫です。本当に」
王子はやや困った顔をしている。
「すみません。余計なことを聞いてしまって…」
「いえ、そんな…」
自身の無力感に押しつぶされそうだ。王子の役に立てたらと思ったのだが、それは叶わなかった。
「何か書こうとされていたのですか?」
王子は机の上に置かれた紙とペンを見ながら言った。王子宛ての手紙ですと言っていいものだろうか。
「ええ、ちょっと…、忘れないように書き留めておこうかとと思いまして。色々ありすぎたので、忘れぬようにと」
「ああ、そうでしたか」
上手くごまかせたか不安だったが、王子は頷いてくれた。どうやら納得してくれたようだ。
ふとある事を思い出した。
「王子には何か好きな物はありますか?」
手紙でなくても今聞けばいいではないか。この話だったら昨晩会った事は分からないだろう。
「んぐふぅっ!!」
王子が突然むせり出した。
「ど、どうされたんですかっ?!」
「だ、大丈夫です。大丈夫ですからっ」
そう言いながら背を向けて少し離れて行ってしまった。咳き込んでいるようだ。アルトゥールが王子を追って行った。
もしかして具合が悪いのではないだろうか?それならば目の下のクマも説明がつく。
「医者を呼びますか?」
「王女様、大丈夫でございますよ」
ミハイルは笑顔で言った。いつも側にいる彼がそう言うのなら大丈夫なのだろうか。咳き込んでいる王子を見ていると、咳が治まったのか戻って来た。笑顔だか、少し引きつっているように見える。本当にどこも悪くないといいのだが。
「すみません。ご心配かけて。もうなんともありませんよ」
「ご無理をせず、休んでください」
「貴女の顔を見ていれば良くなりますから」
「?それならばよいのですけど…」
自身の顔にそんな効果はないと思うのだが。王子は面白い事を言うのだなと思った。
「ああ、後、事後承諾になってしまったのですが、現在、専門家をつけて城内の金や銀の装飾を取り外させております。売却して他国から食糧等必要な物資を買うためです。王女を塔から救助する前からやっておりましたので続けさせております。途中で止めさせると怪しまれる可能性がありますからね」
「それでずっと音がしているのですね」
「え、音が聞こえるんですか?」
王子達は顔を見合わせている。どうやら変な事を言ってしまったらしい。
「はい。聞こえます……。え、皆さんには聞こえないのですか?」
王子達の顔を見てみると、戸惑った顔をしている。
「この部屋から遠い場所で作業させているのですが…聞こえていたのですね」
王子は眉を下げ、申し訳なさそうに言った。
「ええ、王子が走って行く音も聞こえましたよ」
「!!!」
王子が驚愕している。どうしたのだろうか。
「待ってください。殿下が走ったと思われるのは昨日の夜ぐらいです。王女様、何故ご存じなのでしょうか」
「あっ…」
ミハイルに言われて漸く気が付いた。黙っておこうと思ったのだが言ってしまったようだ。思わず口を手で押さえる。
「俺から言う。王女は何も悪くないんだ」
「そりゃあ、部屋から出られませんからねぇ」
「はぁ…」
アルトゥールが言い、ミハイルがため息を吐き、眉間に皺を寄せて頭を抱えている。ドナートは無表情のまま、ちらりと王子を見た。
「昨晩、城の周りを散歩していたら、月が綺麗だったから見ていたんだ。立ち止まった場所がちょうどこの部屋の前だったんだ。そうしたら王女も月を見ようとなさっていたから出会ってな。だから少し話をしたんだ」
王子は部屋の中に入ったことは言わなかった。やはり言わない方がいいようだ。
部下の三人の顔は怒っている者、笑顔の者、眉間に皺を寄せている者と様々だった。
「まぁ、いいでしょう」
ドナートが短く言った。ほんの少しだけ険しい顔になっている。
「はい、月の話をしただけなんです」
「…」
「…?」
変な空気が流れる。手助けをしようと発言してみたが、また余計なことを言ってしまったらしい。
「あっ!昨日、王族を憎む者も多いと言った時に何やら案があるとの事でしたね!どんな案があるのでしょうか?」
自分でもなかなか良い感じに誤魔化せたと思う。
「ぅうんっ、はい。あります。元宰相殿と元将軍殿と話し合ったのですが、塔に捕らえられた王女は国民の現状を嘆き、元宰相殿と元将軍殿に使いを出して嘆願書を出すように命じたという筋書きにしました。単純な話の方がいいでしょうからね」
王子は咳き込んだ。やはりどこか悪いのだ。大事ないといいのだけれど。
「私が命じた、と。私は何もしていないのに…」
ただ塔で生活していただけ。王が代わっても、皆今まで通り暮らせていると思っていた。
「これからすればいいのです。嘘をついてしまったなら本当になるように努力すればいいのです。この場合は少し違いますが、結果が同じになればよいのではないでしょうか」
「結果…豊かな国ですね」
ゴクリと唾液を飲み込んだ。出来る出来ないではない。やらなければいけないんだ。
「そうです。その質問があったと言うことは王になる決意が出来たと解釈してもよろしいでしょうか」
「はい。この数日、本当に色々な出来事があったので混乱していました。何度も考えを変えてしまって申し訳ないのですが、私は父と母の国を残したいのです」
「その言葉を聞けてよかったです。我々も協力いたします」
「ありがとうございます」
結局、王子の好きな物は分からず終いだった。また今度聞いてみようと思った。
王女の耳が良いのは塔にいる時、早く侍女達が来ないかなぁと待ち遠しくしていたから、単純に外で何が起きているのか知りたかったからです。本編に盛り込めなさそうな小ネタなのでこちらに書かせていただきました。
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