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10.笑顔

 書き始める前は十話ぐらいで終わると思っていましたが、まだ続きそうです。

 ※2020/05/13加筆修正いたしました。


 まだ頭がはっきりしないが大分熱が下がったようだ。日はかなり高くなっているので、昼前ぐらいだろうか。

 寝台から体を起こした状態で医者に診察してもらい、手の包帯も替えてもらった。


「熱はこのまま下がるでしょう。念のためもう数日安静になさってくださいませ。王女様、ご無理はいけませんよ」


 最初に手の怪我を治療してくれた時には自身の正体は知らなかったようだが、昨日侍女達から聞かされたらしい。十年前にはすでに城に勤めていたそうだ。


「ええ、ありがとう」


 侍女達の手を借りながら身なりを整える。その際ショールをかけてもらった。今日はリンダともう一人、クラリッサが世話をしてくれる。クラリッサは自分の存在に気付いていた人達のうちの一人だ。ダニエラとアンナは王子が用意してくれたドレス等のサイズ調整をしてくれているらしい。


「お食事はどのような物がいいでしょうか」


クラリッサが医者に尋ねた。


「うむ、消化しやすい野菜を煮込んだスープなどがよいでしょう」

「ではそのようにお願いしてまいります」


 医者から指示を受け、クラリッサは部屋の外に控えている人に頼みに行った。しかしすぐに戻ってくると思ったのだが少し時間がかかっている。どうしたのだろうと思っていると、王子が部下と共に入ってきた。いつもの部下二人ともう一人見知らぬ人物がいる。二人の部下と同じ服装なので、王子の部下なのは間違いなさそうだ。


「面会は五分だけにしてください。王女様はまだお加減がよろしくないのです」

「分かりました」


 王子がそう言うと医者と侍女達は部屋を出て行った。話を聞かない方がよいと判断したようだ。


「おはようございます。今日もお綺麗ですね。気分はいかがですか?」


 王子がいつもと変わらぬ笑顔で言った。

 王子の国では挨拶の時に褒める決まりがあるのだろうか。頭の中でだけ首を傾げる。


「おはようございます。だいぶ良くなりました。…そちらの方は?」


 自分も何か褒めた方がいいのだろうかと思いながらも、失礼な事を言ってしまわないように出来る限り普通の返事をした。


「ああ、彼は北の国境から入った私の部下です。今日王都に到着したのです。ドナートと言います。そう言えば他の部下の紹介もまだでしたね」


 そう言ってから他の部下の紹介もしてくれた。


「貴女と出会った日に貴女に食事を運んだのがアルトゥール、そしてこちらはミハイルです」


 アルトゥールは笑顔で、ミハイルは表情を変えずに会釈してくれた。


「ドナートさんとアルトゥールさんとミハイルさん…ですね」


 それぞれの顔を見て確認する。それぞれ、鋭い目つきと、柔和なそうな顔と、真面目そうな顔の持ち主だ。

 ドナートは王子よりも上背があり体格もよい。アルトゥールは王子を含めた四人の中では一番背が低いが自分よりも頭一つ分は大きかったはずだ。ミハイルは王子と同じぐらいだがほんの少しだけ王子の方が背が高かったと思う。


「彼らの事は呼び捨てで構いませんよ」


 王子はにっこりと微笑んだ。


「ええっと、…では殿をお付けしますね。あの、北の国境から入ったと言うのは……?」

「ああ、北領と南東領、南西領の砦を開けて貰い北側の国境から入国したのですが、ドナートには北側の指揮官を任せたのです。南東側は本隊なので私と私の護衛としてミハイルとアルトゥール、南西側の指揮官は元将軍殿にお願いしました」

「そうだったんですか。北と南東と南西の国境から……」


 確かその三カ所以外は高い山々で囲まれているため国境越えは困難だ。


「元将軍殿は右腕が満足に動かせないとの事でしたが、それを感じさせない剣術、この国の地勢を把握しているとの事で指揮官に推薦しました」

「そうでしたか。確か、元将軍はあの男を討つために有志を募ったと言っていましたが、彼らも参加したのでしょうか」

「嘆願書を提出すると決まった後もそのまま元将軍殿と共に行動したそうです。と言っても元将軍殿は潜伏しながら彼らに指示を出していたとの事です」

「皆さん協力してくれたのですね」

「はい。彼らは元々、城や各領に所属する兵士だったので軍に入れてもよいと判断されました。誅伐の日時が決定するまで各地に散り、盗賊と害獣等の退治をしていたそうです。それもあり先遣隊をお願いしました。彼らは元宰相殿や元将軍と違い指名手配されておらず、国内を移動出来ましたからね」

「指名手配…盗賊と害獣……。そうでしたか……。」


 うつむきながら手を握りしめた。

 自分は塔で幽閉されていたとは言え、何もせず日々過ごしていただけだ。なんて恥ずかしい。

 それに未だ知らない事が多すぎる。


「北から入ったとのことですが、どのように行ったのですか?」


 ドナートの方を見ながら言った。

 セマルグル王国は大陸の南側にあるのでケレース王国の北側の国境にまで行くのは大変だと思う。


「はい。距離だけでしたら東側の経路が短いですが、山脈が幾重にも連なっており危険ですので、割と平地が多いの西側の経路をとりました。あちら側の方が降雪量も少ないですので」


 ドナートの声はかなり低かった。体も大きいからそれに比例するのだろうか。

 降雪量を気にするということは、冬から動いていたということだろうか。現に今の季節は春である。


「行くまでに二ヶ月半ほど掛かりましたね。ですが帰りはこの国を通れるますので、馬だと七日もあればケレース王国とセマルグル王国の国境にいけるでしょう」


 ドナートは淡々と話した。


「そんなに違うんですか?」

「ええ、全く違いますよ。この国を通行出来るようになれば北側諸国との貿易もかなり楽になるでしょう。海路は一年の半分は海が荒れて危険ですから陸路を使えるようになるのはかなりの国益に繋がるのです」

「おい」


 王子が口をはさむ。他の二人の部下は少し顔をしかめた。


「国益に……」

「はい」

「そうでしたか…」


 そうか、そうなのかと思ったら胸の辺りが少しチクリと痛んだ。自分だって見知らぬ国が危機にされている時に助けてほしいと言われたら、自分の国との利害関係を考えるだろう。分かっていたのだが、考えないようにしていた。


「あー!ドナートさん、ちょ、ちょっとよろしいですか?」


 アルトゥールがドナートの腕をつかんで引っ張り、部屋を出て行った。何かあったのだろうか。


「…王女、我々は国益のためにこの国を助けようと思ったのではありません。我々はこの国の平穏を願って行ったのです」


 王子は少し焦っているように感じた。目が僅かに泳いでいる。


「どんな理由があろうとこの国を助けてくださった事には変わりありません。改めて感謝申し上げます」


 そう言い、頭を下げた。助けてくれただけでも本当にありがたいのだ。


「エレオノーラ王女……」

「私はやはり王には向いていないと思うのです。考えが甘すぎます。その甘い考えでは国民を路頭に迷わせてしまうと思うのです。やはり元宰相と元将軍に国を任せたいと思います。私は修道院に入ります。国民の近くで共に生きていきたいと考えています」


 世間知らずの自分にはそれが精一杯だろう。小さな力であっても国民の支えになれればと思う。


「王女、しかし……」

「すみません。ご期待にそえなくて」

「……ご両親の国をなくすおつもりか?」


 王子の声色が変わった。表情も険しくなって真っ直ぐ射貫くかのように見つめてくる。


「えっ、それは……」


 その視線と声色に、思わずたじろいでしまう。


「それをご両親は望んでいるとお思いかと聞いている」

「っ、私は何も知らなすぎます」


 王子の視線に耐えられず、思わず目を逸らした。


「知らないということを知っている。知らなければ知っていけばいい。違いますか?」

「それはそうですけど…」

「今からでも遅くはありません」

「早いほうがよかったに決まっています」

「ですので今からしましょう。何をそんなに悩んでいるのです?」

「それはっ、王族を憎む者も多いでしょうし…」

「そこはきちんと考えてありますから、ご安心ください」


 王子は微笑む。声色も優しくなった。


「…一体どうするのですか?」

「それは――」

「五分経ちました」


 医者と侍女達が部屋に入ってきた。


「いや、後もう少しだけお願いします」


 王子は焦っているようだ。自分も話の続きを聞きたかったので医者が許可を出してくれたらと思った。


「駄目です。今日はもうお引き取りください」

「夕方来てはいけませんか?」

「なりません。王女様のお体のことを考えてください」

「…分かりました。また明日お伺いします」


 王子は悔しげな顔をしたが、最後は笑顔でミハイルと共に部屋から出て行った。


「もう少ししたら食事が出来ますから少々お待ちください」


 リンダはベッドの脇に立ち、微笑みながら言った。


「ありがとう」


 こちらも笑顔で返したつもりだが、ちゃんと笑えていただろうか。


「もう少しご自分を労ってください。王女様はもう充分苦労なさっています。十年もあの塔に閉じ込められていたのですよ?それはどう考えても普通の事じゃないんです」

「でも…」

「でも、はもう禁止です。王女様、ご自分のことを許してあげてください」

「自分を許す?」


 リンダの方を見る。


「はい。自分を責めてばかりじゃ何も出来なくなってしまいますよ」


 そう言うとリンダはにっこりと笑った。この笑顔には見覚えがあった。


「貴女の言っていたお姉さんってリーザのことね」

「そうです。覚えていてくださったんですね」

「もちろんよ。泣いている私を笑顔で慰めてくれていたの。今の貴女みたいに」


 リンダと顔を見合わせて声を出して笑った。今度はちゃんと自然に笑うことが出来た。




 王子の部下の名前がやっと登場しました。

 他の人の名前も気になるって方は評価&ブクマおねがいします。…そのうち元将軍の名前も出て来ます。

 ※予告なく加筆修正する場合がございますので、予めご了承ください。

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