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9.口髭の男

 ※2020/05/13加筆修正いたしました。


 翌朝、一人で地下牢へ向かっていた。現宰相と話をするためだ。部下に黙って来たので今頃探されているだろう。

 地下なので燭台の明かりを頼りにしながら歩く。

 他の罪人とは離れた場所に投獄したので他の牢には誰もいない。恐らく大罪人用の牢だろう。かなり厳重な造りになっている。


「お、誰か来たのか?なんだ、司令官殿か。何のようだ?」


 鎖に繋がれ、口髭を生やした男がいた。投獄から数日経っているので髭は全体的に伸びているが元からあった部分は周りより長くなっているので口髭があったと分かる。


「随分と砕けた話し方だな」

「こっちが素だよ。もう演じなくていいんだ、好きにさせてくれよ」


 現宰相は胡座をかいて楽な体勢でいる。

 足には脱走しないように重りが付けられている。


「塔で王女を見つけた」

「おお、見つけたか。生きてたか?」

「………」

「まっ、いち、にぃ、さん、しぃ…これぐらい経ってりゃあ死んでるわな。仕方ねぇよ気にすんな。」


 わざとらしく指を折りながら数えた。

 彼女が生きている事は言わないでおく。


「何故王女を幽閉した?」

「何故ってそりゃ、みてくれが良いからだろう。何かに使えると思ったんだ。外交とかな。でもあいつ国境封鎖とかしやがって…。にしても見ただろ、あいつらの娘!普通と普通の悪いところを受け継いじまったんだ。んで、美形と美形の良いところを受け継いだのと見比べりゃぁどっちがいいのかなんて一目瞭然だろうよ。」


 現宰相は次々と表情を変えながら喋った。


「一応仕えていた者達だろう」

「そんなの死にたくねぇからだよ。はい、はい。って我慢して聞いてりゃいいんだ。ちょっと意見すると癇癪起こして処刑されんだぞ?ったら、はい。はい。そうですね。ええ、その通りです。ってやってねぇとよぉ」


 大げさな身振り手振りでこちらを苛立たせる。


「怖い顔すんなよ。で、王女の事を聞きに来ただけじゃないだろ?」

「王女の侍女を処刑したと聞いた」

「あー、見せしめのためになぁ」

「なんだと?!」

「俺たちに刃向かったら恐ろしいぞって見せしめだよ。実際その後、みんな大人しくなってな。王女を脱出させようとする奴らもいなくなったし、城内の反対派も大人しくなるなり辞めるなりしてな」


 ケラケラと小馬鹿にするように笑った。


「そんなことのために殺したのか?三人も!」

「司令官殿はお優しいねぇ。会ったこともない奴らのために。ああ、そうだよ殺したさ。そうしないとこっちも危ねぇからな。ご機嫌取りだよ。ご機嫌取りぃ」


 そう言いながら現宰相は足を組んで寝転がる。

 相手のペースになってきている。話を変えなければ。


「あの男に讒言(ざんげん)したのは…?」

「あの男の妻だな。てか知ってんだろ。ああ、理由か。簡単だよ。一番になりたかったんだ。この国で一番偉い女になりたかったんだと。年の離れた末っ子で可愛がられてたらしいからな。なんでも一番にしてもらえてたんだろ」

「それは大人になっても変わらなかったと…」

「おう。王妃様は美人で人望も厚く誰からも慕われていた。嫉妬いや、憎まないわけないわな。適当に恐ろしい言葉を並べてやる気を出させたんだろ」

「なんと愚かな…」


 そんな馬鹿げた理由で一体何人殺したんだろうか。


「実家が没落して途方に暮れそうになった時、あの男と出会ったんだ。あの男は何をするにも鈍臭くてモテない。そこにつけ込んだらしい」

「随分と詳しいのだな」

「そりゃあ、気に入られるために色々と調べたからな」

簒奪(さんだつ)するのにも気付いていたのか?」

「そうだ……と言ったらどうする?」


 現宰相はにぃと歯を出して笑った。目もギラつている。


「………」

「怖いなぁ、睨まないでくれよ。様子がおかしいぐらいにしか思ってなかったよ。なぁんかコソコソ金ばら撒いてるなぁと」


 現宰相はわざとらしく肩をすくめ、怖がっている風に装った。いちいち腹立たしい男だ。


「金で従わせたのか」

「人望ねぇからなぁ。んで、王になって実権を握った後は金と処刑をちらつかせて言うことを聞かせてたんだ」

「………」

「だから怖い顔するなって!鏡で見てみろ!本当に怖いぞ?」


 口髭の男に背を向けこの場から立ち去る。


「おい!これだけ喋ったんだからもう少し良いもん食わせてくれよ!俺の部屋に置いてあるもんでいいから持ってきてくれって!おーい!」


 地下牢には現宰相の大声と自分の足音が鳴り響いた。




 行かなきゃよかったと反省している。腹が立っただけだった。

 地下から地上に出たところで慎重な部下が待ち構えていた。


「殿下、何しに行かれてたんですか。尋問は我らでやります」


 怒っているようだ。無理もない。護衛も付けずに単独行動をしたからだ。だが、どうやら別のことに対しても苛立っているようだ。


「で、何を聞いてきたんですか?聞くまでもなく王女様についてなんでしょうけど」


 部下は呆れたように言った。そんな言い方をしなくてもいいだろうに。


「ああ。よく分かったな」

「入れ込みすぎではありませんか?確かに王女様の境遇には同情いたしますが」


 眉間に皺が寄っている。最近、よく見る表情だ。


「そうか?この国のためにと思ってやっている」

「この国の事はこの国の人間に任せるべきです。我らが口出ししてはなりません」

「王を誅伐してそこで終わりか」

「ええ、そうです。その後の復興作業まで全てこちらがやっていたら、彼らは何が起きても誰かが助けてくれると思い何もしなくなるかも知れません」

「手助けぐらいはしたい」

「その度合いが過ぎてはならないと申しております」


 部下は一段と厳しい表情になった。語気もいつもより強かった。


「見捨てたと思われたくない」


 彼女の悲しむ顔は見たくない。

 部下はため息を吐きながら言った。


「失礼ながら言わせていただきますが――」

「失礼と思うなら言うな」

「……」


 目を細めて軽蔑するかの様な顔で見られた。


「…すまない。続けてくれ」

「はぁ…、では、失礼して。殿下は王女様に好意を寄せてらっしゃるのですか?」


 部下が予想もつかぬ事を聞いてきた。好意と言っただろうか。


「…何故そう思う?」

「まさか無自覚であの態度をとってらっしゃるんですか?」


 部下が呆れ返ったような顔つきになった。


「そんなにか?そうか…」


 口元に手をあて記憶を辿ってみる。確かに彼女に会ってから今まで感じたことのない感覚を覚えているが、それは庇護欲だろうと思っていた。


「そうだったのか」


 薄ぼんやりとあった疑問が解決して気分が良くなった気がする。霧が晴れたような、そんな気さえした。


「それにしても、自分の好きな相手には何も出来ないほど奥手なのによく気が付いたな」

「んなっ!今は関係ないでしょう!」


 部下は顔を赤くして慌てている。


「エレーナ嬢は狙っている男が多いから早くしないと誰かにとられてしまうぞ」

「そう思うのでしたら、さっさと帰国させてください!」


 慎重な部下の訴えを聞いていたら、少し離れた所から長身で強面の人物が近づいてきた。


「こちらにおられましたか。お久しぶりです」

「嫌味か?」


 近づいてきたのは北領からこの国に入った部下だった。このケレース王国は南北に長いので北側から入ると王都まで来るのに時間が掛かるのだ。途中で盗賊と野生の獣退治などもしていただろうから余計に時間がかかったのだろう。


「帰国がどうのと聞こえましたが。妻子に会いたいので早く帰らせていただけると助かります。三ヶ月も会えておりませんので。娘に顔を忘れられそうで怖いのです」

「すまない。もう少しかかりそうだ」

「いいえ、報告のためにも帰国しましょう。後は元宰相殿や元将軍殿に任せましょう。南東領、南西領の領主にもお願いしましょう」


 慎重な部下が必死そうに話す。


「何故もう少しかかるんですか?王族は誅伐し、悪事に加担していた罪人は捕らえたのでしょう?」

「ああ、そうだが――」

「殿下っ!王女様が目を覚ましたそうですよ!……って一人増えてる!」


 お宝部下が離れたところで呼んでいる。彼女の存在は秘匿にしているのに、誰か聞かれたらどうするんだ。


「王女?まさか生かしておいたんですか?」


 強面が眉間にしわを寄せると迫力満点である。


「わかった。今行く。…先王の第一王女だ。塔に囚われてたんだ」

「ほう、…その王女様が気になるから帰らないと考えてもよろしいですか?」

「……さっさと行くぞ」


 そう言い、大股で彼女の部屋へと向かった。

 物わかりがよくて助かると言いたいところだが、言い当てられて少々恥ずかしかった。




 いつもサブタイトルで悩んでしまいます。

 少しでも先が気になったよって方は評価&ブクマよろしくお願いいたします。とてもとても喜びます。

 ※予告なしに加筆修正する場合がございますので、予めご了承ください。

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