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砕球!!  作者: 河越横町
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セカンドバイタル


 生身の肉体よりも無理がきく戦用複体とはいえ、頭部や心臓部を破壊されると活動限界を迎え、変身が解除されてしまう。

 複体を両断されれば間違いなく戦死だ。

 

 そこに例外はないと、誠人は今の今まで信じていた。

 だからこそ。


「驚いているねえ、達花君……いい顔だ」


 誠人はゆるゆると首を振って後ずさる。

 冗談抜きで、真昼に幽霊でも見たかのような気分だ。


「でもそんなに驚くことないんじゃないかな? 《心力》なんて超常があるんだ。二つにされても元通りになるくらい――戦死しないくらい普通だろう?」


 普通なわけあるか! と叫び返したくなったが、そんな精神的余裕はない。

 九十九義経という男の個人戦は《IKUSA》で何度も観たことがあるが、こんな能力があるとは気付かなかった。

 少なくとも、これだけはっきりとその個心技が分かるような場面はなかったはずだ。


 今思えば、個人戦のときに何度かあった危ないシーンを九十九が切り抜けられたのは、その個心技におかげだったのかもしれない。もっとも該当シーンは物体の影や嵐などに遮られてぼかされている感じであったが。


(戦死しない相手に、どうやって勝てばいいんだ……!?)


 剛羽の個心技《速度合成》が可愛く思えてくる。


「さあ、続きといこうか!」


 九十九は心底楽しそうに笑い、砂漠に放置されていた大蛇のような鞭を操作した。


(そうだった、九十九こいつのポジションは球操手だった!)

 

 生き物のようにじたばたと暴れ出した鞭は耀たちを再び絡め取る。


「たくさん練習したんだろうね。少しはマシになったんじゃないかい? でも――それでもチーム練習に顔を出してないボクに負けるということは、つまりそういうことさ。

 絶望した君の顔が見られてよかったよ……絞め殺せ、おろちま――」


「待って、九十九くん!」


 とそこで、《闘技場》内に響いた声に、試合が一時中断される。


「お久しぶりですね、上妃先輩。随分息が上がっていますが……?」


「ちょっと……はぁはぁ……走ってきたから……はぁはぁ……ね」


 突然第三闘技場に現れた優那は、激しく肩を上下させながら膝に手を当てて前屈みになっていた。

 服装は、優那がバイト先で着用している身体のラインが色濃く出るスポーツスーツだ。

 隣に三軍で練習中の風歌の姿があることから、騒ぎを聞き付けた風歌が優那を呼んだのだろう。


「何用ですか? 試合の進行を妨げるような行為はマナー違反ですよ」


「うん、そうだね……でも、この勝負ちょっと待ってくれないかな?」


「待つ、とは?」


「私もこの決闘に参加させて。元はと言えば、耀ちゃんと誠人くんを勝手に大会に誘ったのは私だから」


 優那は胸の辺りに手を置きながら、力強い眼差しで話し掛ける。


「なるほど……いいでしょう、あの上妃先輩からのお願いですからね。ただし、条件があります。上妃先輩が負けたら、ボクのチームに戻ってくる。それが約束できるなら、決闘をやり直しましょう」


「……うん、分かったよ」


「ありがとうございます。上妃先輩がいれば百人力ですよ」


 進行中の試合を中止し、耀・誠人・優那VS九十九で再開する。


「二人とも、そんな顔しないで。私、三年生だよ。頼れる先輩だよ」


 優那は不安そうな二人を安心させるようにぽんと胸を叩く。

 落ち着いた笑顔。包み込むような母性。

 10秒カウントを待つ二人を安心させるには、十分な効果を発揮した。

 そして、優那は今にも倒れそうな耀を抱きしめ、耳元でそっと呟く。


「大丈夫、みんなをここで終わらせたりしないよ……っと、そろそろか――トランス、ダブル」


 相対する九十九の方を向いた優那の表情は、いつもの柔和なものからきりっとしたものに変わっていた。


「九十九くん、ありがとね。私の参加、認めてくれて」


「いえいえ、いいんですよ……一人増えたくらいじゃ問題ないし」


 間もなく、試合開始のゴングが響く。

《闘技場》内に展開されたフィールドは先程と同じ砂漠。


 耀たちの勝利条件は変わらないが、九十九の勝利条件が相手の球を五個全て破壊することに変わる。


「行きますよ、上妃先輩。《大蛇丸》!」


 開始早々、九十九の手から大質量の鞭のようにしなる黒剣が出現し、球操手である優那に一直線に襲い掛かった。


「僕を忘れるな!」


 射線に飛び込んだ誠人が盾をぶつけて大蛇の軌道を僅かにずらし、優那が逃げる時間をつくる。


「ほらほら、ボクの攻撃は点じゃないよ!」


 九十九は短い鞭でも振り回すように大蛇をビチンビチンとしならせ、同時に砂嵐を巻き起こした。

 砂塵の竜巻の中で、無軌道に暴れ回る大蛇。

 砂のカーテンがいいカモフラージュになって、視認するまで回避先の選択ができない。


 そんな綱渡りのように危うい状況でも、誠人は冷静に対処する。

 大蛇に注がれた《心力》は、そのオーラだけで相手を竦ませるほどのものだ。よって、強い《心力》に敏感な誠人が感じ取れない道理はない!


「三時の方向から二秒後、十時の方向から二・五秒後、八時の方向から三秒後!」


 砂嵐から現れる大蛇の到達時間を予測し、事前に回避コースを選択する。

 砕球をやっている選手たちと比べると、誠人の身体能力は高くない。

 しかし、その感覚の鋭さと判断力の速さで、優那と耀をできるだけ安全な場所に導く。


「――ぐわッ」「誠人くん!」


 だが突然、誠人が掻っ攫われるように真横へ吹っ飛ばされた。

 衝撃の正体は、拳程度の白い球状の物体。


「さっきのお返しだよ」


 そう、その白球を操作したのは嵐の向こう側にいる九十九だ。

 大蛇が当たらないと見るや、大蛇を囮に誠人たちの回避コースを誘導し、そのポイントを生成した白球で急襲したのである。


「いやー、びっくりしたよ。中々当たらないもんだから」


 激しかった嵐が弱まり出し、人影が見え始め、九十九の声が聞こえる。


「カモフラージュはいらないねえ。真正面から叩き潰すよ」

 

 そちらの方が好都合だと言わんばかりに宣言した。

 しかし、それは耀たちにとっても同じだ。

 ずっと逃げ回っていたわけではない。九十九が攻撃方法を切り替える前から、試合が始まる前から策は練っていた。

 砂嵐が弱まり、相手を視認できるようになってきたところで、その策が実行される!


「セカンドバイタル転置完了……3、2」


 優那の全身から青色に輝く粒子が爆発的な勢いで迸り。


「1」


 その粒子全てが優那の手にした長銃に急速に収束。そして。


「――バースト!」


 瞬間、耳をつんざく爆音と場内を激しく揺さぶる轟音とともに、直径五メートルを超える巨大な青色の弾丸が発射された。


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