続けるか?
剛羽に短い間隔で個心技を二発使わせてからの三発目。
個心技の精度がガクッと落ちた剛羽に向かって、耀は渾身の《心力》を得物に込めながら跳躍した。
対して剛羽は、強力な個心技の弱点を突かれ、誠人の捨て身な奇策で体勢を崩され、その上さらに空中というただでさえ無防備な状態だ。
(こいつら……)
しかし、絶体絶命のピンチだというにも関わらず、剛羽は口角を上げて笑っていた。なぜなら。
(俺に本気で勝とうとしてる!)
それが堪らなく嬉しかったから。
九十九学園に編入してからは、特に入部試験を経てからは自分に挑戦してくる相手がほとんどいなかったため余計である。
だから、全力で応えよう。
「二倍加速!」
剛羽は個心技を発動して耀を迎え撃つ。加速させるのは自分――ではなく、サーヤの操作した亀球だ!
剛羽と耀たちに球を差し込むのに十分な間ができたため、サーヤがすかさずヘルプに入る。
そして二人の戦士が交差し、黄色い粒子が散華した。
急加速して飛んできた亀球を横っ腹に食らい体勢を悪くした耀が、双剣を手に回転しながら降下してきた剛羽に斬り刻まれたのだ。
「神動!?」
「大丈、夫……」
しゃがみ込み、地面に剣を突き立てながら耀。
亀球に邪魔された時点で攻撃を諦め回避を優先したため、その結果、戦死しない程度のダメージで済んだ。
が、同時に好機を逸したのも事実である。
「ごめんなさい、びびちゃったわ……」
「まったく、情けない顔をするな。まだ終わっていない、だろう?」
誠人は眼鏡の位置を直してから、補助武器庫を片手剣に変化させる。
「それはあたしの台詞です」
ふんと鼻を鳴らしてから耀も剣を構え直す。
「やることは変わらない。とにかくハードワークして蓮に個心技を使わせよう」
《速度合成》の弱点が分かっている以上、そこを突いて勝機を見出すしかない――が。
「三倍加速」
剛羽が今までにない動きを見せて、耀たちを翻弄し始める。個心技を自分ではなく、耀たちに使い始めたのだ。
それも減速させられるのではなく加速させられることで、耀たちは自身のスピードに振り回されてしまう。
自分の身体を思うように動かせなくては、剛羽に張り付くことはできない。張り付くことができなければ、剛羽を追い詰めるための連続攻撃ができない!
彼我の距離感が開いたため、サーヤの操作した球が進路を阻む。
超接近戦を仕掛けてくる耀たちの動きを掴んだ剛羽は、個心技で相手の体勢を崩し、戦死狙いの激しい攻撃を見舞う。
耀たちの戦用複体に次々と斬痕が刻まれ、《心素》が勢いよく溢れ出す。
もう対応されている。
それが耀と誠人の素直な感想だった。
剛羽を研究する過程が知ったことだが、彼は個心技を連続で使わなくても、数え切れないほどの数の相手を戦死させてきた。
単発で使うだけでも《速度合成》は十分な効果を発揮する。それを可能にするだけの能力が、剛羽自身に備わっている。
よって、自分たち有利から不利に一気に傾いたのは地力の差。
踏んできた場数の違いである。
「どうする、もう降参するか? 別に恥ずかしいことじゃないと思うぜ。俺の個心技が強過ぎるだけだからな」
膝を付いて息を荒げる耀たちを見下ろしながら、そう催促してくる剛羽。試すように問い掛ける。
「悪いが俺は天才ってやつだ。周りじゃそういうことになってる。でもって、お前らは九十九学園の四軍、ポンコツだ。そんな俺たちが戦ったらどうなるか……子どもでも分かる。亀は兎に勝てない」
突き放すように、突き付けるように。
そして何かを期待するように、最後に訊ねる。
「例え俺を倒しても俺より強いのはゴロゴロいるぜ。それでもまだ――続けるか?」
「「当然!」」
即答した耀と誠人の目は死んでいない。それどころか、この決闘が始まる前よりも力強いものだ。
この決闘で力の差をまざまざと見せ付けられても、厳しい現実を突き付けられても、耀と誠人は立ち上がる。
「そうか……俺もだ」
剛羽はにっと笑って双剣を構えた。
(やっぱり俺はお前らと一緒に砕球をやりたい!)
そして《闘技場》内の様子は、観客席で観ている風歌と優那にも伝わっていた。
二人とも涙ぐみながら言葉を紡ぐ。
「お兄ちゃん、すごく楽しそうです」
「うん、そうだね……本当によかった」
部活動中のどこか落ち込んだ兄の表情。
九十九のチームに入ってから苦しんだ幼馴染の少年。
そんな彼が、今、心底楽しそうに砕球をしている。それが自分のことのように嬉しい。
「頑張れ、お兄ちゃん!」
「耀ちゃん、誠人くん、もう一踏ん張りだよ!」
それから三人の選手は再び衝突し、そして耀たちはこてんぱんにされるのであった。




