三発目(じゃくてん)
「う……ぉおおおおお!」
誠人の裂帛の気合を乗せた剣撃が、遂に剛羽を捉えたのは試合開始五分後のことだった。
観客席に詰め掛けていた九十九チームの三軍、四軍の選手たちからどよめきの声が上がる。
あの《最弱》が元闘王の選手から一本取った事実に驚きを隠せない。
中には「蓮の調子が悪いのではないか」「手を抜いているのではないか」と現実を受け入れられない者もいた。
しかし、その光景をこれでもかと焼き付けさせるように、誠人は剛羽にダメージを与えていく。
両肩、左脇、右太腿。
剛羽の傷口からぶしゅーっと《心素》が漏れ出す。
耀の攻撃を再警戒するとどうしても誠人への対処が疎かになってしまう。かといって、光への注意を怠るわけにはいかない。彼女の攻撃をまともに食らってしまったら一撃で戦死してしまうのだから。
と考えてる傍から、耀の剛閃が襲い掛かる。
「二倍加速!」
重たく鋭い一撃を個心技で間一髪かわした剛羽は、誠人に盾で殴り付けられ、視界がブレてぐらりとよろめく。
そして、その隙を見逃してくれるほど、剛羽の相手は低レベルではない!
味方のピンチにたまらず、サーヤは亀球で耀の背面を攻撃する――が。
ダンと跳ね上がっていた耀はぐるんと反転して亀球を真っ二つにし、その勢いのまま剛羽に横薙ぎの一撃を見舞う。
球を割ってから続けざまの攻撃。
その一連の流れがあまりにスムーズ過ぎて、寧ろサーヤのサポートで一瞬気を抜いてしまったため、一瞬反応が遅れる。
これはもう間に合わない。
「ッ、二倍加速!」
剛羽でなければ、間に合わない!
剛羽は視界の端で、低い姿勢で突っ込んできた誠人が足斬りを狙っているのを感知し、耀の攻撃を上に跳ぶことで避ける。
それが罠だと分かっていても、そうせざるを得ない。剛羽にとって今の誠人は無視できないレベルの選手に成長しているのだ。
「勝つ、僕が!」
誠人は横薙ぎされた耀の剣を踏み台にして跳躍し、盾を前に突き出して突っ込んできた。
剛羽は相手を叩き落とすように双剣を振り下ろす。が、そこで、誠人は盾を霧散させた。
防御する術を失った誠人は身体にV字の傷を受ける。
が、その突然の行動に剛羽は体勢を崩された。盾を弾くつもりで強振した分、身体が前方向に流れてしまったのだ――そして。
「神動、三発目だ!」
「分かってるわ!」
落下していく誠人と入れ替わるように、耀が跳躍してきた。
火曜日、一般寮の誠人の部屋にて。
「三回?」
三日後の金曜日に剛羽との決闘を控えた耀は、誠人の言葉を反芻した。
「うん、三回だ。蓮の個心技は短い間隔で三回以上使おうとすると、その精度がガクっと落ちる」
そう言って、誠人は眼鏡をくいっと押し上げながら、PCの画面を耀にも見えるように動かす。そこには一ヶ月以上前に行われた九十九学園、春の入部試験の様子が映されていた。
「これ、いつのシーンかしら?」
「最後のところだよ。蓮と閑花、山伏先輩と鞍馬、木礎先輩がぶつかるところ……って、神動、自分の試合振り返ってないな!?」
「べ、別に面倒臭いとかそういう理由じゃないんですからね!」
「嘘付け! まったくキミってやつは脇が甘いな!」
「ふ、ふん、あたしは過去を振り返らないだけよ。そんなことより、話を続けましょう」
耀に促された誠人は釈然としない気持ちを抱えながらも、入部試験中のあるシーンで動画を止める。
「このシーン、蓮が相手の弓を食らったんだ。それもかなりのダメージを受けた」
「ふーん、なんだかひょいっと避けられそうなものですけどね」
「そう、確かに相手の攻撃するタイミングはよかったけど、蓮なら避けられると思ったんだ。なのに避けられなかった。それで気になったから、このシーンを何度も見直してたんだけど、そこである推測が立った」
「それが三発目ってやつね」
耀の問いに、誠人は首を縦に振って頷いた。
「弓矢を食らったとき、蓮は個心技を発動させてたんだ。けど、完全にかわしきることはできなかった。過去の試合も見てみたけど、連続で三発使うときは多かれ少なかれダメージを受けたり、相手を仕留め損なったりすることが多いって分かったんだ」
「…………」
「何故急に黙る?」
誠人はぽかーんとした耀をいぶかしむように訊ねる。
自分は何かおかしなことを口走っただろうかと不安になってきた。しかし。
「いや、その……すごいな~って思って。だって、それを調べるのってたいへんだったでしょう?」
耀の素直な称賛に、今度は誠人がぽかーんとなる。が、ぶんぶんと頭を振り、ごほんと咳払いをしてから話を続ける。
「蓮の個心技の弱点はもう一つあるんだ。三連続以上の他に、大技は連発できないみたいだ」
「というと?」
「つまり、蓮は個心技を連続で使うときは少ない加速、減速で凌ごうとするんだ。多分、威力の高い個心技は連発できない。だから――」
「その威力の高いやつを無駄打ちさせるのね!」
「違う、威力の高いやつは食らったら即戦死コースなんだよ! ふぅ……だから、蓮に大技を使わせないように戦うんだ。具体的には――超接近戦」
それから、誠人は椅子から立ち上がり宣言する。
「僕が蓮の三発目を引き摺りだす」




