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『本日もメニュー開発(デスゲーム)のち、大バズり。』  作者: ののん


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第8話:『対象年齢3歳からのコール。ミニキッチン(炎上仕様)で二郎を錬成せよ!』

大手おもちゃメーカーからの依頼。それは、これまで数々の無理難題を乗り越えてきた設楽膳治の料理研究家人生の中でも、最大級の不条理だった。

「……美咲さん。もう一度、僕の耳が狂っていなければ、今なんて言いました?」

膳治はピキリと不穏な音を立てる自分の腰をさすりながら、作業台の上に置かれた「それ」を凝視した。

そこにあるのは、ピンクと黄色で彩られた、全高わずか30センチのプラスチック製ミニキッチン。シンクの蛇口を押すと「ピュッ」と水が出る、対象年齢3歳以上の完全なる女児向け玩具である。

「聞こえた通りよ、膳治」

敏腕マネージャーの美咲は、タブレットの画面から目を離さずに冷徹と言い放つ。

「おもちゃメーカー『バンダイス』様からのタイアップ案件。お題は『このミニキッチンと水だけで作る、本物の大盛り二郎系ラーメン』。当然、火も電子レンジも、本物の包丁も使用禁止。あ、対象年齢3歳以上だから、劇薬系の添加物もNGね。これで今週中に動画を一本バズらせて」

「できるわけがないでしょう!」

膳治は裏返った声をあげた。

「二郎系ですよ!? 豚骨を何時間も煮込んでドロドロのスープを作り、強力粉を限界まで練り込んだ極太麺を茹で上げ、山盛りのヤサイとニンニク、背脂を親の仇のようにトッピングする、あの男たちのソウルフードですよ!? それをこの、水しか出ないおままごとセットでどうやって作れと!?」

「それを考えるのがカリスマ料理研究家、設楽膳治の仕事でしょ」

美咲は冷たい視線を膳治に向ける。

「すでにSNSで『#3歳児でも作れるコール』ってハッシュタグで予告打っといたから。目標は200万再生。落としたら、来月のあなたの買い出し予算、全部駄菓子にするわよ」

「鬼だ……! ここに現代のシリアルキラーがいる……!」

膳治が絶望に頭を抱えた、その時だった。

「膳治さん! 諦めるのはまだ早いですッ!!」

スタジオのドアを勢いよく蹴破って現れたのは、第7話から加入した新人アシスタント、乾舞(22歳)だった。彼女は両手に巨大なプロテインシェイカーと、何やら怪しい白い粉の袋を抱えている。

「舞ちゃん……」

「二郎系と聞いて、私の野生の血が騒ぎました! 料理はパッション、そして筋肉の化学反応です! 火が使えないなら、別のエネルギーで分子を結合させればいいんですよ!」

舞はそう言うと、ミニキッチンのプラスチック製ボウルに、謎の白い粉をドサドサと投入した。

「それは……寒天粉と、ジャガイモ澱粉(片栗粉)……それに高タンパクのプロテインパウダーか!?」

膳治の脳内で、料理研究家としてのバグった回路が高速で回転を始める。

「待てよ、舞ちゃん。それらを冷水で溶いて、このおもちゃの泡立て器で超高速撹拌かくはんしたら……」

「はい! 私の背筋力(180kg)で分子構造をぶっ壊します! フンッ!!」

オオオオオ!と雄叫びをあげながら、舞がおもちゃの小さなプラスチック製泡立て器を毎分3000回転の猛スピードで回し始めた。摩擦熱でおもちゃが溶けそうである。しかし、その超高速の「人力せん断応力」によって、冷水に溶けた澱粉とタンパク質が急速に粘度を増し、まるで茹で上がる直前の、あのゴワゴワとした二郎系特有の極太麺の質感を帯びていく。

「いける……いけるぞ! 舞ちゃん、そのまま粘性をキープして、おもちゃの『コロコロ麺押し出し機』にセットするんだ!」

「了解です! 筋肉マッスル・プレッシャー!!」

舞が親指一本でおもちゃのレバーを押し込むと、ニュルニュルと、どう見ても「オーション(二郎専用小麦粉)100%」にしか見えない、うねりの効いた極太麺がミニチュアの丼にこんもりと盛られていく。

「よし、次はスープとヤサイ、そして『背脂』だ」

膳治の目が、職人のそれへと変わる。

「火が使えないなら、スープのコクは『粉末のポークパウダー』と『乾燥酵母エキス(マーマイト)』、そして大量の『おろしニンニク(チューブ)』で補う。これらを常温のミネラルウォーターで溶かせば、煮込まずとも強烈な豚の旨味とパンチが再現できる!」

膳治はミニキッチンの小さなプラスチックの鍋に、計量スプーン(1グラム用)で精密に粉末を配合していく。

「そして問題は二郎の命、あのギトギトの『背脂』……。3歳児でも扱えて、加熱せずにあの背脂の甘みとドロドロ感を出すには……これだ!」

膳治が取り出したのは、市販の「マヨネーズ」と「ココナッツオイル」、そして「水飴」だった。

「これらを1:1:1の黄金比で乳化させる。ココナッツオイルの常温で固まる性質を利用し、マヨネーズのコクと水飴の粘度を合わせることで、加熱なしで完璧な『味付き背脂』を偽装エミュレートする!」

「すごいです膳治さん! まるで錬金術アルケミスト!」

舞が目を輝かせる。

「仕上げのヤサイ(モヤシ・キャベツ)は、フリーズドライの野菜を、ミニキッチンの蛇口から出る水で戻す! シャキシャキ感を残すために、水の温度は15度に徹底管理だ! 最後に……チャーシュー(豚)は、大豆ミートの燻製スライスを醤油とみりんで即席漬けにしたものを、おもちゃのプラスチック包丁(刃なし)の圧力で繊維を押し潰して柔らかくする!」

「盛り付け(コール)行きますッ!!」

舞がミニチュアのトングを両手に構える。

「ニンニクマシマシ! ヤサイマサラ(山盛り)! アブラカタブラ(背脂大量)!!」

おもちゃのミニキッチンという極小の世界の中に、突如として、圧倒的な存在感を放つ「禍々しいまでの大盛り二郎系ラーメン(ミニチュアサイズだが、カロリーと密度は本物)」が完成した。

「できた……! 『3歳からのネオ・ジロウ 〜おままごとスペシャル〜』だ……!」

膳治と舞は、互いの健闘を称え合うようにガシッと固い握手を交わした。その瞬間、膳治の腰が「ギクッ」と悲鳴をあげたが、今の彼にその痛みを感じる余裕はなかった。

「……ふーん」

それまで沈黙を守っていた美咲が、ヒールの音を響かせて近づいてくる。彼女はミニチュアの二郎系ラーメンの前に立つと、おもちゃの小さなプラスチックのレンゲを手に取り、スープを一口、口に運んだ。

膳治と舞は生唾を飲み込む。

静寂がスタジオを支配する。美咲の無表情な顔が、ピクリと動いた。

「……悪くないわね」

美咲の口元が、サディスティックかつ満足げに吊り上がる。

「スープの暴力的な塩気とニンニクの刺激、麺のゴワゴワした食感……。これが火も使わず、3歳児のおもちゃから出てきたとは誰も思わないわ。即座に動画を編集して、ショート動画(TikTokとReels)にアップしなさい。サムネイルは『【放送事故】おままごとセットで二郎系作ったら、アシスタントの筋肉でスタジオが崩壊した件』でいくわよ」

「僕の料理の技術じゃなくて、舞ちゃんの筋肉が主役になってません!?」

膳治のツッコミは、すでに回り始めた撮影カメラのシャッター音にかき消された。

かくして、またしても美咲の無茶振りと、舞のパッション、そして膳治の五感を削る料理の化学変化によって、ネットの海に新たな「大バズり」のモンスター動画が放たれるのだった。膳治の腰の平穏は、まだしばらく戻りそうにない。

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