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約束
陽だまりの庭を、月乃は走っていた。
「暁人、待って!」
振り返った少年が、少し困ったように笑う。
「月乃様、走ると危ないです」
「“様”いらないって言ったのに」
月乃が頬を膨らませると、暁人は少しだけ目を細めた。
春の庭。
柔らかな風。
少し年上の暁人は、いつも月乃の後ろを静かについてくる。
転ばないように。
危なくないように。
それが当たり前みたいだった。
暁人は、兄上の乳兄弟だった。
兄上の乳母の子で、物心ついた頃から、同じ屋敷で育っている。
だから月乃にとっても、兄のようで、兄ではない人だった。
「暁人」
「はい」
「ずっと一緒にいようね」
幼い月乃は、何の疑いもなく笑った。
暁人は一瞬だけ目を見開く。
それから。
どこか困ったように、優しく笑った。
「……そうですね」
優しい返事だった。
けれど
その笑顔が少し寂しそうだったことを。
あの頃の月乃は、まだ知らない。




