11 伝えたいこと
「東雲先輩」
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「ん?」
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朔夜は静かに月奈を見る。
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逃げ場なんてない。
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自分でここまで来たのだから。
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月奈は小さく息を吸った。
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「私」
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声が震える。
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恥ずかしい。
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緊張する。
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けれど。
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今なら言える気がした。
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「前世のことを思い出した時」
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「最初は分からなかった」
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朔夜は黙って聞いている。
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「月乃の気持ちなのか」
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「私の気持ちなのか」
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「ごちゃごちゃになってて」
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月奈は少し笑った。
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「だからずっと考えてた」
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何度も。
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何度も。
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考えてきた。
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「でも」
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顔を上げる。
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夕暮れの中。
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朔夜の姿が見えた。
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「分かったんです」
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胸が苦しいほど鳴っている。
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それでも視線は逸らさない。
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「会いたいと思うのも」
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「話したいと思うのも」
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「絵を見てほしいと思うのも」
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一つひとつ言葉にする。
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「全部」
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月奈は小さく笑った。
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少し照れながら。
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少し泣きそうになりながら。
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「東雲先輩だったから」
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沈黙。
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夕暮れの風が吹く。
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朔夜は何も言わない。
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ただ月奈を見つめている。
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その視線が少しだけ勇気をくれた。
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「だから」
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月奈はぎゅっと手を握る。
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そして。
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「前世とか」
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「記憶とか」
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「そういうのじゃなくて」
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もう迷わない。
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答えは見つけた。
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「私は」
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まっすぐに朔夜を見上げる。
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「あなたが好きです」
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言ってしまった。
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胸の奥にしまっていた言葉を。
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ずっと伝えたかった気持ちを。
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沈黙。
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返事がない。
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「……先輩?」
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朔夜は動かなかった。
目を見開いたまま。
珍しく。
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本当に珍しく。
固まっている。
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「え……」
月奈まで戸惑う。
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こんな朔夜は見たことがなかった。
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数秒。
あるいはもっと長かったかもしれない。
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やがて。
朔夜が小さく息を吐く。
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「……そうか」
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それだけ言って。
少しだけ困ったように笑った。
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「驚いた」
「そうなの?」
「うん」
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月奈は思わず笑った。
朔夜でもそんな顔をするんだ。
そう思ったら、
さっきまでの緊張が少しだけほどけた。
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朔夜はしばらく月奈を見つめた。
それから。
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「俺も好きだ」
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その一言で十分だった。
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胸の奥が熱くなる。
泣きたいような。
笑いたいような。
そんな気持ちになる。
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夕暮れの道で。
二人はしばらく何も言えなかった。
言いたいことはたくさんあるはずなのに。
言葉が見つからない。
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けれど。
不思議と気まずくはなかった。
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月奈は少しだけ俯く。
頬が熱い。
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思い出しただけで恥ずかしい。
勢いで告白してしまった気もする。
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いや。
勢いではない。
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ずっと考えて。
ようやく伝えられた言葉だ。
「……」
隣を見る。
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朔夜は前を向いて歩いていた。
いつも通りの横顔。
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けれど。
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よく見ると少しだけ耳が赤い。
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月奈は思わず目を瞬いた。
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まさか。
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そんなことを思っていると。
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「見るな」
低い声が飛んできた。
「見てません」
「見てただろ」
「見てないです」
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反射的に否定する。
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すると。
朔夜が小さく笑った。
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その顔を見て。
月奈もつられて笑ってしまう。
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なんだろう。
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付き合うことになったのに。
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急に何かが変わったわけではない。
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それなのに。
世界が少しだけ違って見えた。
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住宅街の角が見えてくる。
もうすぐ家だった。
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その時。
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月奈はふと思う。
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昔は。
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本当に小さい頃は。
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こう呼んでいた。
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少しだけ勇気を出す。
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「……さっくん」
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朔夜の足が止まった。
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月奈の心臓が跳ねる。
やっぱり恥ずかしい。
けれど。
呼んでみたかった。
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朔夜はしばらく黙っていた。
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そして。
少しだけ笑う。
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「久しぶりだな」
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その声は、
どこか嬉しそうだった。
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月奈も笑う。
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「うん」
二人は並んで歩き出す。
夕暮れの道を。
今度は恋人として。




