表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
めぐり逢う月と暁  作者: 我亦恋
後編
PR
31/32

11 伝えたいこと

「東雲先輩」



「ん?」



 朔夜は静かに月奈を見る。



 逃げ場なんてない。



 自分でここまで来たのだから。



 月奈は小さく息を吸った。



「私」



 声が震える。



 恥ずかしい。



 緊張する。



 けれど。



 今なら言える気がした。



「前世のことを思い出した時」



「最初は分からなかった」



 朔夜は黙って聞いている。



「月乃の気持ちなのか」



「私の気持ちなのか」



「ごちゃごちゃになってて」



 月奈は少し笑った。



「だからずっと考えてた」



 何度も。



 何度も。



 考えてきた。



「でも」



 顔を上げる。



 夕暮れの中。



 朔夜の姿が見えた。



「分かったんです」



 胸が苦しいほど鳴っている。



 それでも視線は逸らさない。



「会いたいと思うのも」



「話したいと思うのも」



「絵を見てほしいと思うのも」



 一つひとつ言葉にする。



「全部」



 月奈は小さく笑った。



 少し照れながら。



 少し泣きそうになりながら。



「東雲先輩だったから」



 沈黙。



 夕暮れの風が吹く。



 朔夜は何も言わない。



 ただ月奈を見つめている。



 その視線が少しだけ勇気をくれた。



「だから」



 月奈はぎゅっと手を握る。



 そして。



「前世とか」



「記憶とか」



「そういうのじゃなくて」



 もう迷わない。



 答えは見つけた。



「私は」



 まっすぐに朔夜を見上げる。



「あなたが好きです」



 言ってしまった。



 胸の奥にしまっていた言葉を。



 ずっと伝えたかった気持ちを。



 沈黙。



 返事がない。



「……先輩?」



 朔夜は動かなかった。


 目を見開いたまま。


 珍しく。



 本当に珍しく。


 固まっている。



「え……」


 月奈まで戸惑う。



 こんな朔夜は見たことがなかった。



 数秒。


 あるいはもっと長かったかもしれない。



 やがて。


 朔夜が小さく息を吐く。



「……そうか」



 それだけ言って。


 少しだけ困ったように笑った。



「驚いた」


「そうなの?」


「うん」



 月奈は思わず笑った。


 朔夜でもそんな顔をするんだ。


 そう思ったら、


 さっきまでの緊張が少しだけほどけた。



 朔夜はしばらく月奈を見つめた。


それから。



「俺も好きだ」



 その一言で十分だった。



 胸の奥が熱くなる。


 泣きたいような。


 笑いたいような。


 そんな気持ちになる。



 夕暮れの道で。


 二人はしばらく何も言えなかった。


 言いたいことはたくさんあるはずなのに。


 言葉が見つからない。



 けれど。


 不思議と気まずくはなかった。



 月奈は少しだけ俯く。


 頬が熱い。



 思い出しただけで恥ずかしい。


 勢いで告白してしまった気もする。



 いや。


 勢いではない。



 ずっと考えて。


 ようやく伝えられた言葉だ。


「……」


 隣を見る。



 朔夜は前を向いて歩いていた。


 いつも通りの横顔。



 けれど。



 よく見ると少しだけ耳が赤い。



 月奈は思わず目を瞬いた。



 まさか。



 そんなことを思っていると。



「見るな」


 低い声が飛んできた。


「見てません」


「見てただろ」


「見てないです」



 反射的に否定する。



 すると。


 朔夜が小さく笑った。



 その顔を見て。


 月奈もつられて笑ってしまう。



 なんだろう。



 付き合うことになったのに。



 急に何かが変わったわけではない。



 それなのに。


 世界が少しだけ違って見えた。



 住宅街の角が見えてくる。


 もうすぐ家だった。



 その時。



 月奈はふと思う。



 昔は。



 本当に小さい頃は。



 こう呼んでいた。



 少しだけ勇気を出す。



「……さっくん」



 朔夜の足が止まった。



 月奈の心臓が跳ねる。


 やっぱり恥ずかしい。


 けれど。


 呼んでみたかった。



 朔夜はしばらく黙っていた。



 そして。


 少しだけ笑う。



「久しぶりだな」



 その声は、


 どこか嬉しそうだった。



 月奈も笑う。



「うん」


二人は並んで歩き出す。


夕暮れの道を。


今度は恋人として。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ