7 眠れない理由
玄関のドアを開けると、キッチンから夕飯のいい匂いがした。
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「おかえり」
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母の声が聞こえる。
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「ただいま」
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いつものやり取り。
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いつもの家。
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なのに。
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月奈だけが少し違っていた。
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「顔色だいぶ良くなったわね」
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「うん」
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「でも無理しちゃだめよ」
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「分かってる」
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そう答えながら靴を脱ぐ。
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前世のことも。
約束のことも。
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もちろん。
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朔夜に告白されたことも。
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母は何も知らない。
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月奈は少しだけ苦笑した。
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夕食を食べて。
お風呂に入って。
明日の準備をする。
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気づけば夜になっていた。
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ベッドに横になる。
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けれど。
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眠れない。
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目を閉じる。
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すると浮かぶのは、
今日の帰り道だった。
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『月奈がいたから』
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『だから大丈夫だった』
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胸の奥が小さく熱くなる。
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「……もう」
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枕に顔を埋める。
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前世の暁人の言葉なのか。
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朔夜自身の言葉なのか。
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考えても分からない。
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けれど。
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どちらでも嬉しいと思ってしまった自分がいた。
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「……」
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その事実に気づいてしまって、
さらに眠れなくなる。
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窓の外を見る。
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夜空には月が浮かんでいた。
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前世でも。
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月を見上げたことがあった。
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けれど今、思い出しているのは月乃ではない。
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夕暮れの道を歩く朔夜の横顔だった。
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月奈は慌てて布団を頭まで被る。
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「……寝よう」
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そう呟く。
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けれど。
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目を閉じるたびに浮かぶのは、
月明かりの下の暁人ではなく。
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今日、自分の隣を歩いていた朔夜だった。
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しばらく眠れそうになかった。
結局。
月奈が眠りについたのは、かなり遅い時間だった。
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だからだろう。
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「月奈」
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遠くで声がする。
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「月奈」
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ぼんやりと目を開ける。
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時計を見て固まった。
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「えっ」
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思ったより時間が過ぎている。
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慌ててベッドから飛び起きた。
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その時。
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「やっと起きたか」
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部屋のドアのところに朝陽が立っていた。
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すでに制服姿で、スポーツバッグを肩に掛けている。
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「お、お兄ちゃん!」
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「先行ってるからな」
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「え?」
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「遅刻すんなよ」
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そう言い残して部屋を出ていった。
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「ちょっ……!」
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バタバタと階段を下りる音。
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玄関の閉まる音。
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そして静寂。
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「やばい……」
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月奈は頭を抱えた。
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急いで制服に着替えて階段を駆け下りる。
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母が呆れたように振り返った。
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「だから昨日は早く寝なさいって言ったのに」
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「ごめん!」
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食パンを一枚くわえるように手に取り、牛乳で流し込む。
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「ちゃんと噛みなさい!」
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「はーい!」
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全然ちゃんと返事できていない。
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鞄を掴み、玄関へ向かう。
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「行ってきます!」
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「行ってらっしゃい」
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勢いよく家を飛び出した。
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朝の空気が少し冷たい。
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住宅街を急ぎ足で歩く。
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「眠い……」
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欠伸を噛み殺す。
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昨日のことを思い出しただけで、また顔が熱くなった。
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『月奈がいたから』
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『だから大丈夫だった』
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「うう……」
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思わず頭を抱える。
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だから眠れなかったのだ。
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前世のこと。
暁人のこと。
朔夜のこと。
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考えれば考えるほど分からなくなる。
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「月奈ー!」
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後ろから元気な声が飛んできた。
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振り返る。
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光希だった。
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「おはよー」
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「おはよう……」
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「何その顔」
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開口一番だった。
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「え?」
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「寝不足?」
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図星だった。
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月奈は思わず目を逸らす。
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「まあ、ちょっと……」
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「ふーん」
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光希がにやりと笑う。
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嫌な予感しかしない。
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「何その顔」
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「別にー?」
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絶対何かある。
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けれど光希はそれ以上追及せず、月奈の隣に並んだ。
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二人で学校へ向かう。
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見慣れた校舎が少しずつ近づいてくる。
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その時。
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月奈は無意識に周囲へ視線を向けた。
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そして。
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自分が何を探しているのか気づいてしまう。
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「……」
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慌てて前を向いた。
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そんな月奈の横顔を見て。
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光希は小さく笑った。
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「月奈」
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「なに?」
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「誰探してるの?」
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月奈の心臓が止まりそうになった。
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「探してない!」
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「へぇ」
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まったく信じていない顔だった。
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月奈は思わず顔を覆う。
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今日も、穏やかな一日にはならなそうだった。
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そんな予感を抱きながら、月奈は校門をくぐる。
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昇降口へ向かおうとした、その時だった。
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「お」
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聞き慣れた声がする。
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顔を上げると、朝陽がこちらへ手を振っていた。
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「ギリギリじゃん」
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「誰のせいだと思ってるの」
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思わず言い返す。
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「起こしただろ」
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「もっと早く起こしてよ」
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「自分で起きろ」
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朝陽は楽しそうに笑った。
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その隣にいる人を見た瞬間。
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月奈の心臓が大きく鳴る。
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朔夜だった。
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視線が合う。
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昨日の帰り道が頭をよぎった。
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『月奈がいたから』
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『だから大丈夫だった』
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慌てて思考を振り払う。
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「おはよう」
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朔夜が言う。
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いつもと変わらない声。
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なのに。
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「……おはようございます」
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少しだけ返事がぎこちなくなる。
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「月奈」
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隣の光希がじっとこちらを見ていた。
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「な、なに」
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「やっぱり変」
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「変じゃない!」
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即答すると、朝陽が吹き出した。
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「確かに変だな」
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「お兄ちゃんまで!」
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顔が熱い。
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光希は面白そうに笑い、朝陽は呆れたように肩をすくめる。
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そして。
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朔夜だけが何も言わなかった。
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ただ少しだけ優しい目でこちらを見ている。
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その視線が気になって仕方なかった。
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「ほら、行くぞ」
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朝陽が歩き出す。
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月奈は慌ててその後を追った。




