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めぐり逢う月と暁  作者: 我亦恋
後編
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23/32

3 いつも通りじゃない

朝。



 月奈は制服に袖を通しながら、小さく息を吐いた。



 熱は下がった。



 体調もだいぶ良い。



 それなのに。



 なぜだか落ち着かない。



 理由は分かっていた。



 今日から学校だからだ。



 リビングへ行くと、朝陽が朝食を食べていた。



「あ、おはよう」



「おはよう」



 朝陽は月奈の顔を見る。



「もう大丈夫そうだな」



「うん」



「無理すんなよ」



 その時、母親も台所から顔を出した。



「少しでも辛かったら保健室行きなさいね」



「大丈夫だよ」



 そう答える。



 本当に体調は悪くない。



 問題は別の方だった。



 朝食を終え。


 朝陽と一緒に家を出る。



 いつもの通学路。



 いつもと同じ景色。



 なのに。



 月奈だけが少し違う世界にいる気がした。



 学校へ着き、教室へ向かう。



 何人かに体調を心配されて、


「もう大丈夫」


と答えながら席に着いた。



 午前の授業は思ったより普通に過ぎた。



 そして昼休み。



 光希が当然のように月奈の席へやって来る。



「復活した?」



「一応」



「よかった」



 そう言ったあと。


 光希はじっと月奈の顔を見た。



「何?」



「いや」



 光希は首を傾げる。



「なんか元気ない?」



「普通だけど」



「そう?」



 光希は少しだけ眉をひそめた。



 月奈は視線を逸らす。



 前世の話なんて説明できるはずがない。



 告白のことだって。



 まだ自分の中で整理できていないのだから。



 午後の授業を終え。



 放課後になる。



 月奈は鞄を持って立ち上がった。



 向かう先はいつもと同じ。



 美術室。



 なのに。



 扉の前まで来たところで足が止まる。



 東雲先輩がいる。



 当たり前のことだった。



 一昨日までだって毎日会っていた。



 それなのに。



 今日は妙に緊張する。



 月奈は小さく息を吸った。



 そして扉を開ける。



 いつもの美術室。



 窓から差し込む夕陽。


 絵の具の匂い。


 部員たちの話し声。



 その中で。



 窓際にいた朔夜が顔を上げた。



 目が合う。



 月奈の心臓が大きく鳴った。



 朔夜はほんの少しだけ表情を和らげる。



「体調、大丈夫か」



 ただそれだけ。



 いつも通りの言葉だった。



 なのに。



 月奈はうまく返事ができなかった。



「だ、大丈夫です」



 思ったより大きな声が出た。



 自分で驚く。



 朔夜も少しだけ目を瞬いた。



「そうか」



 それだけ言うと、再び手元のデッサンへ視線を落とした。



 月奈は慌てて自分の席へ向かう。



 心臓がうるさい。



 ただ一言話しただけなのに。



 どうしてこんなに緊張するんだろう。



 席に着いてキャンバスを見る。



 けれど絵に集中できない。



 少し離れた場所にいる朔夜を意識してしまう。



 視線を向けそうになって。



 慌ててやめる。



「月奈」



 不意に声をかけられた。



 振り向くと、光希が隣の席に腰を下ろしていた。



「なに?」



「いや?」



 光希はじっと月奈の顔を見る。



「なんか変」



「またそれ?」



「うん」



 月奈は思わず顔をしかめる。



「普通だけど」



「普通じゃない」



「どこが」



「全部」



 雑だった。



 けれど光希は妙に自信満々だった。



「熱のせいじゃなくて?」



「違う」



「じゃあ何」



 光希は少しだけ身を乗り出す。



「東雲先輩となんかあった?」



「っ!」



 月奈は盛大にむせた。



「なんでそうなるの!?」



「図星?」



「違うし!」



 反射的に否定する。



 光希は面白そうに笑った。



「だって今日ぎこちないもん」



「そんなことない」



「ある」



 月奈は言葉に詰まる。



 自分でも分かっていた。



 いつも通りにできていないことくらい。



 距離を取りたいわけじゃない。



 むしろ逆だ。



 近くなりすぎてしまったから。



 どう接していいのか分からない。



「ふーん」



 光希は意味ありげに笑う。



「その顔やめて」



「別にー?」



 絶対何か思っている。



 月奈は思わずため息をついた。



 その時。



 ふと視線を感じる。



 顔を上げると。



 少し離れた席にいる朔夜と目が合った。



 心臓が跳ねる。



 朔夜は何も言わない。



 ただ静かにこちらを見ていた。



 月奈は慌てて視線を逸らす。



 その様子を見て。



 隣で光希が小さく笑った気がした。

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