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めぐり逢う月と暁  作者: 我亦恋
後編
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23/32

3 いつも通りじゃない

朝。


 月奈は制服に袖を通しながら、小さく息を吐いた。


 熱は下がった。


 体調もだいぶ良い。


 それなのに、なぜだか落ち着かない。


 理由は分かっていた。


 今日から学校だからだ。


 リビングへ行くと、朝陽が朝食を食べていた。


「あ、おはよう」


「おはよう」


 朝陽は月奈の顔を見る。


「もう大丈夫そうだな」


「うん」


「無理すんなよ」


 その時、母親も台所から顔を出した。


「少しでも辛かったら保健室行きなさいね」


「大丈夫だよ」


 そう答える。


 本当に体調は悪くない。


 問題は別の方だった。


 朝食を終えて、朝陽と一緒に家を出る。


 いつもの通学路。


 いつもと同じ景色。


 なのに、月奈だけが少し違う世界にいる気がした。


◇


 学校へ着き、教室へ向かう。


 何人かに体調を心配されて、「もう大丈夫」と答えながら席に着いた。


 午前の授業は、思ったより普通に過ぎた。


 そして昼休み。


 光希が当然のように、月奈の席へやって来る。


「復活した?」


「一応」


「よかった」


 そう言ったあと、光希はじっと月奈の顔を見た。


「何?」


「いや」


 光希は首を傾げる。


「なんか元気ない?」


「普通だけど」


「そう?」


 光希は少しだけ眉をひそめた。


 月奈は視線を逸らす。


 前世の話なんて、説明できるはずがない。


 告白のことだって。


 まだ自分の中で整理できていないのだから。


◇


 午後の授業を終えて、放課後になる。


 月奈は鞄を持って立ち上がった。


 向かう先は、いつもと同じ。


 美術室。


 なのに、扉の前まで来たところで足が止まる。


 東雲先輩がいる。


 当たり前のことだった。


 一昨日までだって、毎日会っていた。


 それなのに、今日は妙に緊張する。


 月奈は小さく息を吸った。


 そして、扉を開ける。


 いつもの美術室。


 窓から差し込む夕陽。


 絵の具の匂い。


 部員たちの話し声。


 その中で、窓際にいた朔夜が顔を上げた。


 目が合う。


 心臓が大きく鳴った。


 朔夜は、ほんの少しだけ表情を和らげる。


「体調、大丈夫か」


 ただそれだけ。


 いつも通りの言葉だった。


 なのに、月奈はうまく返事ができなかった。


「だ、大丈夫です」


 思ったより大きな声が出た。


 自分で驚く。


 朔夜も少しだけ目を瞬いた。


「そうか」


 それだけ言うと、再び手元のデッサンへ視線を落とす。


 月奈は慌てて自分の席へ向かった。


 ただ一言話しただけなのに、どうしてこんなに緊張するんだろう。


 席に着いてキャンバスを見る。


 けれど、絵に集中できない。


 少し離れた場所にいる朔夜を、意識してしまう。


 視線を向けそうになって、慌ててやめる。


「月奈」


 不意に声をかけられた。


 振り向くと、光希が隣の席に腰を下ろしていた。


「なに?」


「いや?」


 光希はじっと月奈の顔を見る。


「なんか変」


「またそれ?」


「うん」


 月奈は思わず顔をしかめる。


「普通だけど」


「普通じゃない」


「どこが」


「全部」


 雑だった。


 けれど光希は、妙に自信満々だった。


「病み上がりだからじゃなくて?」


「違う」


「じゃあ何」


 光希は少しだけ身を乗り出す。


「東雲先輩となんかあった?」


「っ!」


 月奈は盛大に咳き込んだ。


「なんでそうなるの!?」


「図星?」


「違うし!」


 反射的に否定する。


 光希は面白そうに笑った。


「だって今日ぎこちないもん」


「そんなことない」


「ある」


 月奈は言葉に詰まる。


 自分でも分かっていた。


 いつも通りにできていないことくらい。


 距離を取りたいわけじゃない。


 むしろ逆だ。


 近くなりすぎてしまったから。


 どう接していいのか、分からない。


「ふーん」


 光希は意味ありげに笑う。


「その顔やめて」


「別にー?」


 絶対、何か思っている。


 月奈は思わずため息をついた。


 その時、ふと視線を感じる。


 顔を上げると、少し離れた席にいる朔夜と目が合った。


 心臓が跳ねる。


 朔夜は何も言わない。


 ただ静かに、こちらを見ていた。


 月奈は慌てて視線を逸らす。


 その様子を見て、隣で光希が小さく笑った気がした。

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