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めぐり逢う月と暁  作者: 我亦恋
後編
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22/32

2 答えの出ない夜

震える指で通知を開く。



 表示されたメッセージは二行だけだった。



『体調どうだ。』


『熱下がったか?』



「……」



 月奈はしばらく画面を見つめたまま動けなかった。



 たったそれだけ。



 昨日のことには触れていない。


 告白のことも。


 前世のことも。



 まるで何もなかったみたいな文章だった。



 でも。



 朔夜らしいとも思う。



 昔からそうだった。



 必要以上のことは言わない。


 けれど、本当に大事なことは見落とさない。



 月奈はスマホを握りしめる。



 返信しなきゃ。



 そう思うのに、指が動かない。



 何を返せばいいんだろう。



 熱は下がった。


 体調も昨日よりはいい。



 でも。



 聞きたいことは山ほどある。



 どうして黙っていたの。



 いつから思い出していたの。



 どうしてあの時、


 「そうだよ」なんて言ったの。



 そして。



 どうして今も。



 何もなかったみたいに連絡できるの。



「……だめ」



 月奈は額を押さえた。



 頭が追いつかない。



 昨夜までの自分と。


 今の自分が。


 まるで別人みたいだった。



 けれど。



 既読をつけたまま無視するのも違う気がする。



 しばらく悩んだ末。



 月奈は短く文字を打った。



『熱は下がったよ』



 少し考えて。



『心配かけてごめん』



 送信ボタンを押す。



 途端に心臓が跳ねた。



 たったそれだけの返信なのに。



 妙に緊張した。



「何これ……」



 思わず顔を覆う。



 その時だった。



 スマホが震える。



「え」



 早い。



 あまりにも早かった。



 画面には、新しいメッセージが表示されていた。



 送り主は――



 東雲朔夜



 月奈は小さく息を呑む。



 震える指で画面を開いた。



『よかった』



 たった四文字だった。



 前世のことも。


 昨日のことも。


 何も書かれていない。



 それなのに。



 月奈はしばらく画面から目を離せなかった。



 夕食の時間になっても、どこか落ち着かなかった。



 朝陽と母親は、


「熱下がってよかったね」


くらいの認識だ。



 もちろん前世のことなんて知らない。



 月奈だけが別の世界を見ているみたいだった。



 朔夜から、それ以上の連絡は来なかった。



『よかった』



 たった四文字。



 それだけなのに。



 月奈は何度もスマホを見てしまう。



 別に続きを期待しているわけじゃない。



 そう思う。



 でも。



 少しだけ落ち着かない。



 夜。



 月奈はベッドの上で膝を抱えた。



 考えなきゃいけないことはたくさんある。



 前世のこと。


 月乃のこと。


 暁人のこと。



 思い出した記憶はどれも鮮明だった。



 御簾越しに会った穏やかな時間。


 月明かりの下で交わした約束。


 入内前夜。


 互いの想いを伝え合ったこと。



 暁人は月乃が好きだった。



 それはもう疑いようがない。



 けれど。



『ずっと好きだった』



 昨夜の言葉を思い出す。



 あれは。



 暁人の言葉だったのだろうか。



 それとも。



 朔夜自身の言葉だったのだろうか。



 考えても答えは出ない。



 月奈は枕に顔を埋めた。



 分からない。



 本当に分からない。



 ただ。



 もっと分からないことがあった。



 東雲先輩のことを考えると。



 胸が苦しくなる。



 それは前からだ。



 白昼夢を見るようになってから。



 目が離せなくなった。



 気づけば探していた。



 あれは。



 暁人を重ねていたからだろうか。



 それとも。



 東雲朔夜だからだろうか。



「……」



 答えはまだ出ない。



 けれど。



 もう知らなかった頃には戻れない。



 ふと時計を見る。



 22時を過ぎていた。



 明日は学校だ。



 そう思った瞬間。



 胸が少しだけ騒いだ。



 学校へ行けば。



 東雲先輩に会う。



 その事実を意識しただけで落ち着かなくなる。



 どういう顔をして会えばいいんだろう。



 答えは出ないまま。



 月奈は小さく息を吐いた。

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