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めぐり逢う月と暁  作者: 我亦恋
前世編
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11/29

4 会えない日々

暁人は、来なかった。



 それが“たまたま”ではないことを、月乃も少しずつ分かり始めていた。





 琴の音は今日も庭へ落ちていく。



 ぽろん。



『姫様……少し、間が』



 蛍の声に、月乃は指を止めた。



「うん……」



 自分でも分かっている。



 最近、音が安定しない。



 理由も分かっている。



 視線が。



 何度も御簾の向こうを探してしまうからだ。



 けれど今日も、そこには誰もいない。



「……忙しいのかな」



 誰に言うでもなく呟く。



 蛍は答えなかった。



 ただ静かに目を伏せる。



 その沈黙が、少しだけ胸に引っかかった。





 日が落ちる。



 琴を置いても、月乃はしばらくその場を動かなかった。



 風が庭を渡っていく。



 冬の気配を含んだ冷たい風。



 ふと。



 どこかで人の気配がした気がした。



 思わず顔を上げる。



 けれど誰もいない。



 気のせいだったのかもしれない。



 それでも。



 胸の奥が少しだけ痛んだ。



「……来ないね」



 ぽつりと零れた声は、風にさらわれる。



 返事はない。



 ただ。



 なぜだろう。



 会えない日が続くたびに。



 その人のことばかり考えてしまう。



 暁人が姿を見せなくなってから、数日が過ぎていた。


 それでも月乃は、御簾の向こうを見てしまう。


 今日こそ来るかもしれないと。





「姫様?」



 蛍が不思議そうに首を傾げる。



 月乃は庭を見たまま、小さく息を吐いた。



「……兄上のところへ行こうかな」



『朝臣様の?』



「うん」



 そう言って立ち上がる。



 理由は自分でもよく分からなかった。



 兄に用事があるわけではない。



 けれど。



 もしかしたら。



 そんな期待だけが胸の奥にあった。





 朝臣のいる部屋へ向かう。



 廊下を歩くたび、心臓が少しずつ騒がしくなる。



 何を期待しているのだろう。



 自分でも分からない。



 それなのに足は止まらなかった。





『月乃?』



 朝臣が顔を上げる。



 机の上には書物が広げられていた。



「兄上」



 月乃は部屋の中を見回す。



 ――いない。



 少しだけ肩の力が抜けた。



『どうした』



「別に」



 即座に答える。



 すると朝臣がじっとこちらを見た。



 その視線が妙に居心地悪い。



『暁人なら、先ほどまでいたぞ』



 月乃の肩がぴくりと揺れる。



『探していたのか?』



「違う!」



 思ったより大きな声が出た。



 朝臣が吹き出す。



『そうか』



 絶対に信じていない顔だった。



「本当に違うから!」



『分かった分かった』



 全然分かっていない。



 月乃はむっと頬を膨らませた。



 その時だった。



 廊下の向こうに、人影が見えた。



 見慣れた姿。



 胸が、どくりと鳴る。



「……暁人」



 思わず声が漏れた。



 暁人もこちらに気づく。



 一瞬だけ。



 本当に一瞬だけ、足が止まった。



 けれど。



『朝臣様』



 そう言って部屋へ入り、


 月乃ではなく朝臣へ頭を下げる。



 いつも通りの態度。



 何も変わらないはずなのに。



 なぜだろう。



 少しだけ遠く感じた。



『失礼します』



 用件だけを伝えると、


 暁人はすぐに立ち去ろうとする。



「暁人」



 呼び止める。



 暁人の足が止まる。



 けれど振り返らない。



「最近、忙しいの?」



 ようやく出た言葉だった。



『少々』



 短い返事。



 それだけだった。



『では』



 再び歩き出す背中を見つめる。



 追いかければいいのに。



 なぜか、それができなかった。





『泣きそうな顔をするな』



 不意に朝臣の声が落ちる。



「してない」



 月乃はすぐに否定した。



 でも。



 胸の奥が少しだけ痛かった。



 会えれば嬉しいと思った。



 なのに。



 会ってしまったら、もっと会いたくなった。



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