妻
「おかえりなさい」
玄関ホールで出迎えると、ウィリアムはそれは嬉しそうに表情を和らげた。婚約してからのウィリアムはまるで別人で、いつも無愛想だったのが嘘のようだ。
子ども達が駆け寄って纏わりついたため、ウィリアムの顔は更に崩れた。右手で長男、左手で次男を抱き上げて、両頬にキスをされている。
この所帰宅が深夜になっていたので、起きている子ども達がウィリアムに会うのは久し振りだ。そのため子ども達は普段よりはしゃいでいる。まだ1歳にならない双子の長女次女も、侍女に抱っこされながらウィリアムに手を延している。
「皆ただいま。良い子にしてたな?」
「うん!」
子ども達が我先に、いかに自分が良い子だったかを喋りだす。それを楽しげに聞きながら居間へと移動し、少しだけ落ち着いたところで、ウィリアムが暫く休暇で家に居ると告げる。子ども達は大喜びで、ウィリアムと遊ぶ約束を取り付ける。
とても温かく幸せな家庭。ずっと欲しかった、でも諦めていたものを、ウィリアムは私に与えてくれた。
双子が女の子2人だと分かった時、私は不安に苛まれた。この子達を平等に愛せるだろうか。母のように、一方を可愛がって一方を放置してしまうのではないだろうか。そこまで酷い差を付けることはなくても、無意識にどちらかを優先してしまうのではないだろうか。
ウィリアムはそんな私の不安を感じ取り、辛抱強く私と話してくれた。私の不安を安易に否定せず、そうなったとしても自分が居るから大丈夫だと言ってくれた。私が1人を甘やかしたら、自分がもう1人を甘やかす。私が厳しく接した子を慰め、私が贔屓した子を諌めるからと。
「何もかも1人で抱え込まなくて良い。何時でも俺を頼ってくれ」
ウィリアムと過ごすようになって、私は知った。ああ、全部自分で背負わなくてもいいんだと。
誰にも頼れないから、何でも自分で出来るように努力してきた。そうすると自分の事だけでなく、スノウやキール王子の不始末まで押し付けられるようになり、後始末のためにまた頑張って……それが私の役割なのだと思っていた。
けれどウィリアムは、私が抱える荷物をさり気なく受け取り、共に背負い、時には私のぶんまで預かってくれる。始めはそれを申し訳なく思っていたけれど、ウィリアムに言わせれば、夫婦なんだから当然のことらしい。
「ねぇ、ウィリアム。私、貴方と結婚できて幸せだわ」
「俺の方が何倍も幸せだ。でも、いきなり如何したんだ?」
「いえ、ただ伝えたかっただけなの。聞き流して」
「それは出来ないな。最近忙し過ぎて夫婦の時間が取れていなかった。何か話があるなら遠慮なく言ってくれ」
子ども達はもう寝てしまい、寝室に夫婦2人きりだ。私はそっとウィリアムに寄り添った。彼の胴体に腕を回して抱き着くと、頭を撫でてもらえる。
ずっと昔にもこんな事があった気がする。ぶっきらぼうに見えても、ウィリアムはいつも優しかった。
「本当に如何したんだ?今日はいつになく甘えてくるな」
「……ごめんなさい」
「謝る事じゃない。むしろ大歓迎だ。ノエリアは滅多に甘えてくれないからな、凄く嬉しいよ」
言葉通り、ウィリアムの声は嬉しげに弾んでいる。抱き寄せられ、頭に何度もキスを落とされる。
「あー可愛い、甘えるノエリアは破壊力があり過ぎる。俺以外に甘えたら駄目だからな?他の誰にも、こんな事したら駄目だからな?」
「しないわよ。ウィリアムこそ、他の人に優しくしたら駄目よ」
「もちろんだ。俺が陰でなんて呼ばれてるか知らないのか?妻狂いだぞ?」
「知ってるわ。お義父様が孫狂いって呼ばれてるのも」
「ノエリア、夫婦の時間に他の男の話はしないでくれ」
私の夫は嫉妬深い。でもちっとも嫌じゃない。
ウィリアムがゆっくりと体重を掛けて、私をベッドに押し倒す。額から頬、唇へのキスが続き、首筋から下へと下がっていこうとして。
ふとウィリアムが動きを止めた。
「如何かした?」
「いや……今日、帰り際に陛下から節度を身につけろと言われたのを思い出して」
「他の男の話をしたら駄目なんじゃなかったの?」
「そうだった」
ニッといたずらっぽく笑ってから、ウィリアムが再び私を愛し始める。妊娠中だからと手加減してくれているのが感じられる。膨らんだお腹にキスしながら、赤ちゃんに話し掛けているウィリアムの柔らかい声を聞き、幸福感が増してゆく。
こんなに幸せになれるなんて思わなかった。私のお腹に頬ずりしているウィリアムの髪を手で梳きながら、ゆっくりと目を閉じた。




