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第七十五話 神竜統治

前回までのあらすじ!


人斬り侍が必死扱いて戦っている一方で、ドラ子は食べたらおいしそうなやつらに囲まれていたぞ!

 リリィが圧し殺したような声で念話を送ってきた。


『オキタ、わたしの背に』

「あン?」


 この軍用飛空挺は舵を失っただけで機関(エンジン)を破壊したわけではない。揚力は生きている。高度が下がってきているとはいえ、まだ猶予はあるはずだ。


『……雰囲気がどこかおかしいです』


 殺気は感じ取れない。おれの臓腑はざわついていない。

 軍用飛空挺を取り囲んでいる竜騎兵らもまた、おれたちの――というか銀竜シルバースノウリリィの存在に戸惑っているのだろう。明確なる敵である軍用飛空挺に攻撃をしかけてこないのは、おそらくそういうことだ。


「了解した」


 だが、リリィの分析は往々にして正しい。おれには感じ取れない何かを知覚しているのかもしれない。

 腕のように大きな翼を下げたリリィにつかまって、おれはすっかりと乗り慣れた彼女の背へと導かれる。


『飛びます』

「おう」


 リリィが白銀の翼で空をつかみ、船体を蹴る。

 大風が巻き起こり、銀竜シルバースノウリリィが軍用飛空挺から空へと舞い上がった。反動で軍用飛空挺はさらに高度を下げ、森の大樹に腹を擦り始めた。

 甲板からは、風の隙間を縫って魔術兵どもの悲鳴が聞こえている。絶望的状況に、自ら森へと飛び降りている輩もいる。


『オキタ、竜騎兵が動きます』

「ああ。おれたちの離脱を待っていたようだねェ」


 軍用飛空挺を取り囲んでいた三桁をこえる竜騎兵らのおよそ半数が、一斉に軍用飛空挺へと襲いかかった。ワイバーンを巧みに操り、その怪力で砲塔を破壊し、甲板で逃げ惑う魔術兵らを噛み砕く。

 竜騎兵らが長槍を武器に魔術兵を貫き、次々と屠ってゆく様は、さながら地獄絵図のようだ。やはりさっさと飛び降りたやつらの判断が正しかったのだろう。

 ま、散々殺してきたおれが言うことでもないが。


 そんなことよりも、だ。

 三桁をこえる竜騎兵の、およそ半分。つまりは軍用飛空挺墜としに加わっていない竜騎兵らが、おれたちを包囲している理由のほうが気になる。

 しかも、だ。おれたちの行く先を指定するかのように、あからさまに幅を寄せてきている。


『……体当たりで強引に突破することは簡単ですが、どうしますか?』


 ワイバーンと古竜のリリィでは、肉体の大きさも秘めたる力もまるで比較にならない。リリィにとっては草原の草を分ける程度のことなのだろう。


「いいんじゃねえの。どうせおれたちゃセレスティの正確な場所もわかんねえんだ。このまま誘導に乗ってやろうじゃねえの」

『わかりました。それでは、おとなしく連行されましょう』


 が、思惑は大いに外れ。


 しばらくの後におれたちが翼を休めた場は、リリィの故郷であるルナイスにも似た、岩ばかりの植物すら育たぬ大きな山の上だった。

 もっとも、雪がない分、ずいぶんと過ごしやすい。よく見りゃ岩の隙間に緑も見えていることだしな。


「セレスティってのは寂しい町だねェ」

『そんなわけないでしょう』

「……冗談だよぅ」


 おれたちの周囲に、次々と竜騎兵たちが着陸する。

 およそ五十といったところか。空飛ぶ相手ってのは、さすがに斬りにくい。そうはならないことを祈るばかりだ。


『こちらに敵意がないことを示すため、女性体になります』

「女性体でもおまえさんならワイバーンくらいは片手で絞めそうだけどな」

『……? 造作もありませんが、それが何か……?』

「……なんでもねえよ」


 おれが背中から飛び降りたのを見計らって、リリィが光の粒子を散らした。

 赤の懸衣をまとった女性体が光の粒子から現れた瞬間、竜騎兵らから一斉に「おお……」「古竜様……」という感嘆の声がもれた。


 敵意のない声だ。美しきもの、星の空や、舞い散る桜、神々しき存在、そういったものを見たときにもれる、心の声。


 おれは肩の力を抜いて安堵の息をつく。

 どうやら敵には回らずにいてくれそうだ。

 竜騎兵らが次々とワイバーンの背から降りて、その場で片膝をついた。さすがのリリィもこれには面食らって戸惑う。


「あ、あの、えっと……あわ、あわわわ……」


 古竜は天秤の神アリアーナや戦女神リリフレイアと並ぶ信仰の対象だ。ふだんのこいつを見ているから、おれにとっちゃ、ちゃんちゃらおかしな話だが。

 リリィがでっけえ胸の前で拳を握りしめ、真っ赤に染まった顔で叫んだ。


「――く、く、苦しゅうないっ!!」


 一言めがこれだ。だいぶおかしいだろ。

 おれは噴出しかけた笑いをかろうじて堪えつつ、口を開けた。


「おまえさんたち竜騎兵の代表者は誰だい? 少し話をしてえんだが」


 途端に竜騎兵たちは、訝しげな表情でリリィの隣に立つおれに視線を向けた。

 おっと、こいつは……あまりよろしくない目だ。ま、てめえらが神と崇める存在の横にただの人間が偉そうに立ってりゃ、誰だってそうなるか。めんどくせえなァ、宗教ってのはよ。

 おれは肩をすくめて呟く。


「リリィ」

「はい。ええっと、どなたかおられます?」


 竜騎兵のうち、一人が進み出てきた。

 青みがかった深い海のような髪色と瞳をしている男だ。年の頃はおそらく四十あたり。はち切れんばかりの筋肉に、背中には魔術兵のものとは比較にならない大きさの特大剣を背負っており、顔も肉体も疵だらけだ。

 醸し出す雰囲気は、リザードマン族の戦士ギー・ガディアに似ている。

 軍用飛空挺内で戦った若い魔術兵もそうだが、案外いるもんだ。こういう力を抑え切れていない野獣のような戦士ってのは。

 味方になってくれりゃ心強いが、はてさて。やけに居心地の悪い視線だ。


「神竜国家セレスティの竜騎兵隊を率いているラドと申します」


 年相応に(しわが)れた、低い声だった。

 リリィが眉をひそめる。


「神竜国家? 竜騎国家ではないのですか? 騎竜王はどうなさったのです?」


 ラドが苦笑いを浮かべた。


「あなた様は長きにわたり、どこかの山々にでも封じ込められていましたか」

「ええ。盟約により、およそ二〇〇年、あるものを守っていました」


 ラドがうなずく。


「なるほど。それでは知らないのも無理からぬこと。セレスティは二〇〇年前より、すでに竜騎兵のものではありません。()の黑竜との戦い以降、火竜族がセレスティの神王として統治しておられます」

「古竜の国……? 古竜が王となって、おまえさんたちはそいつに従っているのかい?」


 思わず呟いた言葉に、ラドが怪訝な表情を向けてきた。だがすぐにリリィに視線を戻すと、おれではなく彼女に尋ねる。


「この者は?」

「我が主、オキタです」


 どよめき、広がる。

 あ~、嫌な予感しかしねえ……。


ドラ子の雑感


うふふ、この持ち上げられている感……。

恍・惚!

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