007 ウルフソード
ダンジョンに潜り始めて、あっという間に一週間が経った。
相変わらず俺は地下3階でオオカミを討伐しながら、受付で換金してもらうゴールドの額を、怪しまれない程度に少しずつ増やしている。
地下3階で活動する探索者の数が、ほんの少しだけ増えてきたような気がする。
しかし、俺以外の連中は皆パーティーを組んで動いている。俺のようにソロ活動している探索者は、かなり少ないみたいだ。
その日、いつものようにオオカミを倒すと、チャリンと落ちるゴールドに混じって、見慣れないものが転がっていた。
「これは噂の、オオカミのレアドロップのウルフソード?」
骨でできた刀身に、オオカミの鋭い牙がびっしりと埋め込まれた禍々しい剣だった。
こういう時、ラノベみたいに鑑定スキルがあれば便利なんだが。
俺はステータス画面を開き、『木の剣』を『道具』にしまい、ゲームっぽいモンスター素材の剣を装備してみた。
【E:ウルフソード(攻撃力+13)】
「おお。青銅の剣より強いな」
正直、地下3階で『木の剣』を持ち歩いていると、すれ違う探索者からやたらとジロジロ見られるのだ。そろそろ青銅の剣あたりに買い換えようかと考えていたので、まさにナイスタイミングだ。
そしてウルフソードの攻撃力は、想像以上だった。
木の剣でもオオカミを一撃で倒せるのだが、打ち所を間違えると倒しきれずに反撃を食らうこともあった(俺の防御力が高いからノーダメージなのだが)。
それがウルフソードだと、打ち所に関係なく一撃で討伐可能なのだ。
サクサク狩れる爽快感に浸りながら、俺はふと思った。
「そろそろ、地下3階は卒業かな……」
地上に戻り受付でゴールドを153枚換金する。
「15300円になります」
受付係の女性から現金を受け取り、更衣室で防具一式を『道具』にしまって私服に着替える。
外に出ると、空はすでに薄暗くなっていた。
「久しぶりに居酒屋に行くか」
先日大将にサービスしてもらった『せんべろセット』を思い出しながら、俺はダンジョンから駅周辺の飲み屋街へと向かって歩き出した。
しかし――
「はぁ、慣れない道で迷うなんて……」
少しでも早くビールにありつこうと、近道しようと狭い裏路地に入ったのがよくなかった。完全に迷ってしまった。
スマホでマップを開こうと立ち止まった時、ふと視界の端に異質なものが映った。
裏路地に面した小さな空き地に、独特の雰囲気を漂わせる黒いテントがぽつんと立っているのだ。
「なんだこれ……っていうか、絶対ダンジョン関係だよな」
俺は周囲に誰もいないことを確認し、吸い寄せられるようにテントの中へと足を踏み入れた。
薄暗いテントの中央には、三角の帽子を深くかぶった魔法使い姿のおじさんが、椅子に無表情で座っていた。
「こんにちわ」
「……火の魔法しかないぞ」
神官や武器屋のオヤジと同じく、感情の抜け落ちた抑揚のない声だった。
それと同時に、俺の目の前にウインドウが現れる。
火の矢……400G
炎の矢……1600G
炎の槍……3300G
小火炎波……700G
中火炎波……1400G
大火炎波……2900G
なるほど。
確かに火の魔法しかない。名前から想像するに火の矢系は単体攻撃、火炎波系は全体攻撃だろう。
ネットの情報では魔法も、謎の店で販売されているらしい(近所には無いが)。火球は売られているらしいが、火の矢、火炎波は初耳だ。
そういえば、ネットの情報で、テントの店について書き込まれていた気がする。
『見かけたら絶対入れ! 買えるだけ買え!』と言われているのだ。テントの店は神出鬼没で、気づいたら無くなっているらしい。
スマホで上から下まで足算してみる。
合計10300ゴールド。日本円にして103万円だ。
俺の『所持金』には、庭のスライム狩りで貯め込んだゴールドがまだまだ唸っている。十分買える額だ。
「俺はほどほど稼いで毎日の呑み代が稼げればいいんだけど……」
一人そう呟いてみる。目立たず、ひっそりと生きていくつもりだった。
だけど――。
子供の頃見た夢。魔法を使い、モンスター相手に無双する光景。
それが、103万円を払うだけで手に入るのだ。
「……また、稼げばいいか」
毎朝スライムを突っつけばいいだけのことだ。
俺は逸る気持ちを抑えながら、上から下まですべてタップし、魔法を全部購入するのだった。
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ストック尽きるまで、7:00・12:00・18:00・20:00に投稿予定。




