066 高級焼肉
金曜日、夕刻。
「ハイオーク、楽に倒せたな」
「そうだったね」
拍子抜けするほど、あっけない幕切れだった。
結界の中へ足を踏み入れた瞬間、ハイオークが棍棒を唸らせて突進してきたが、俺が放った中ランク魔法の炎の矢が、その巨体の胸を正面から撃ち抜いた。一撃。炎の爆発とともに、ハイオークは短い悲鳴を残して光の粒子へと変わっていった。
「一撃か」
「……やっぱりチートだ!」
リサが目を丸くしながらブツクサ文句を言っていたのを覚えている。
次はリサの番だ。
新調した黒炎豹の皮鎧に身を包んだリサは、スピードをフルに活かし、ハイオークの棍棒を紙一重で躱し続けた。苦し紛れの一撃も、横薙ぎの一撃も、すべて空を切る。苛立ちを露わにしたハイオークの隙を突いて、鋼鉄の剣が首筋に吸い込まれた瞬間、巨体は光の粒子となって消えていった。
◆◆◆◆◆
「ハイオーク撃破記念でお祝いしよう!」
「そうだな」
というわけで、俺たちは高級焼肉店で名高い寿々苑にやってきた。
「高級焼肉……初めて入ったが、緊張するな」
「おじさん、しっかりしてよ。すいません、星会席コースでお酒は、ビールで」
リサは物怖じすることなく、店員さんに注文を伝えていく。落ち着いた雰囲気の内装、磨き上げられた黒いテーブル。普段の居酒屋とは違う空気に、俺はかなり緊張していた。
やがてビールと前菜の小鉢が運ばれてきた。
「えー、それではハイオーク撃破を記念して乾杯!」
「乾杯!」
ビールで喉を潤し、小鉢に箸をのばす。
キムチ盛り合わせは、白菜キムチに加えて、大根や胡瓜のキムチが彩りよく盛られている。一口食べると、しっかりと発酵の効いた酸味と辛味が広がり、唐辛子の香ばしさが鼻に抜けた。箸が止まらなくなる、上品な辛さだ。
ナムルは、もやしとほうれん草、人参が丁寧に和えられていて、ごま油の香りがふわりと立ちのぼる。シャキシャキとした歯ごたえの中に、ごまの香ばしさと塩気がほどよく効いていた。
寿々苑サラダは、シャキッとした葉野菜に、ごまだれがたっぷりと絡んでいる。濃厚でコクのあるごまの風味と、ほんのり甘いたれが絶妙で、箸でつまむたびに野菜の瑞々しさが口に広がった。
「前菜だけでも、丁寧さが違うな……」
続いて、海鮮が運ばれてくる。炭火の網の上に乗せられたホタテは、厚みのある貝柱がふっくらと白く輝いていた。
焼き上がりを待つ間、じゅわじゅわと脂の爆ぜる音と、磯の香ばしい匂いが立ちのぼる。ひと口頬張ると、表面はかりっと香ばしく、中はしっとりとした弾力。噛むたびに、濃厚な甘みと旨味がじゅわりとあふれ出してきた。
「ホタテがここまで美味いとは……」
そして、いよいよメインの焼肉だ。
タン塩から焼いていく。薄くスライスされた肉を網にのせると、パチパチと小気味いい音を立てて脂が弾けた。レモンを軽く絞り、塩をまとわせて口に運ぶと、コリコリとした独特の食感と、じゅわりとした旨味が広がる。嫌味のない脂と、さっぱりとしたレモンの酸味が絶妙に調和していた。
続いて、カルビ。霜降りの入った肉を網に乗せると、たちまち脂が炎を上げて燃え立つ。表面に香ばしい焦げ目がついた瞬間を見計らって頬張ると、とろけるような脂の甘みと、濃厚な肉の旨味が一気に口いっぱいに広がった。甘辛いタレが、脂のコクをさらに引き立てている。
「このカルビ、とろけるな……」
「本当、油が甘いね」
最後に、ロース。赤身と脂のバランスが絶妙な一枚を、丁寧に焼き上げる。噛みしめるたびに、肉本来の深い旨味がじんわりと広がり、脂の甘みがそれを優しく包み込んだ。塩でシンプルに味わうと、肉質の良さが際立つ。
炊きたてのライスに、焼いた肉を乗せて頬張る。肉汁をたっぷり吸ったご飯粒が、口の中でほろりとほどけた。わかめスープの優しい塩気と磯の香りが、濃厚な肉料理の合間にほっと一息つかせてくれる。
食事の締めに運ばれてきたデザートのアイスは、冷たくなめらかで、バニラの上品な甘さが口の中に広がった。濃厚な肉料理を食べた後だからこそ、その清涼感がことさら心地よい。
「ふー、ごちそうさまでした。やっぱり高い肉は違うな」
「今日は、頑張った自分たちへのご褒美だね」
満ち足りた腹をさすりながら、店を出る。夜の空気はひんやりと澄んでいた。
「おじさん、明日明後日はどうするの?」
「先々週、三重県に行ったから、今度は東、静岡の伊豆にでも行って温泉に入ってこようかなと思ってる」
「へー、いいねー」
「リサは何するんだ?」
「私は推しアイドルのライブ行ってくる」
「そうか、楽しんどいで」
「おじさんもね、また来週!」
「また来週」
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