065 やば豚
木曜日夕刻――
地下10階でオークを狩りまくった、俺たちは夕方になりダンジョンをあとにした。
「さーて、明日はボスのハイオークに挑戦するわけだが、何か勢いがついて縁起がいい食い物を……」
「それなら、やっぱりカツじゃない?」
「そうなるよな」
勝負に勝つ、で「カツ」。ベタすぎるとは思いつつ、こういう験担ぎは馬鹿にできない。
向かったのは、味噌カツで名高いトンカツ専門店、やば豚だ。暖簾をくぐると、味噌だれの甘く香ばしい香りが店内いっぱいに漂っていた。
案内されたテーブル席に着き、メニューを広げる。
「俺は、やば豚のみそかつに、すごくよく合うビールと、どて煮と、ロース・ひれ・海老フライの盛り合わせをお願いします」
「私も同じのをお願いしまーす」
「はい! かしこまりました!」
しばらくすると、よく冷えたビールと、小鉢に盛られたどて煮が運ばれてきた。
「それじゃ、ハイオークにカツぞ! 乾杯!」
「乾杯!」
ジョッキがこつんと触れ合う。
ビールを一口。
きりっと冷えたビールが喉ごしよく滑り落ちていく。しっかりとした苦味とホップの香りが鼻に抜けていく。濃厚な味噌には、この苦味の立ったビールがよく合いそうだ。
「くぅー、やっぱりビールの一口目は格別だな」
続いて、どて煮に箸を伸ばす。
ぐつぐつと長時間煮込まれた牛すじは、箸を入れただけでほろりと崩れるほど柔らかい。赤味噌が、じっくりと染み込んでいる。
口に運ぶと、まず赤味噌の深いコクと甘みが広がり、続いて牛すじのとろけるような食感が舌に絡みついてくる。噛むたびに、濃厚な旨味があふれ出てきた。
「このどて煮、味噌が濃くてうまいな……ビールが止まらない」
ビールをあおると、味噌の濃厚な甘辛さが、すっきりと流れていく。
どて煮を平らげた頃、待ちに待ったロース・ひれ・海老フライの盛り合わせが運ばれてきた。
大皿に、黄金色に揚がった三種類のカツが、並んでいる。湯気とともに、味噌の甘く香ばしい匂いと、揚げたてのカツの香りが立ちのぼってくる。
まずはロースカツから。
味噌だれをたっぷりつけてかぶりつくと、サクッと小気味いい音がした。衣は薄く、軽い食感だ。断面には、ほんのりピンク色で肉汁が滲んでいる。脂の甘みと肉の旨味がじゅわっと広がり、そこへ味噌だれの濃厚な甘辛さが絡みつく。少し加えられた芥子の香りが、いいアクセントになっている。
続いて、ひれカツ。
ロースよりも脂身が少なく、きめ細かい肉質が特徴だ。噛むと、驚くほど柔らかく、肉そのものの繊細な旨味がじんわりと口に広がっていく。味噌だれの甘さと、肉の淡白な味わいが、絶妙なバランスで溶け合っていた。
最後に、海老フライ。
太く身の詰まった海老が、パン粉の衣をまとってサクサクに揚げられている。かじると、プリッとした弾力が歯に跳ね返ってきて、噛むたびに海老本来の甘みがあふれ出した。味噌だれをちょんとつけて食べると、海老の甘みと味噌のコクが重なり合い、また違った美味しさになる。
三種のカツを味噌だれにくぐらせながら、交互に頬張る。ビールを飲んでは、またカツへと箸を伸ばす。気づけば、皿はすっかり空になっていた。
「ふー、ごちそうさま。これで明日は勝てる気がしてきたな」
「いやいや、勝てる気じゃなくてちゃんと勝たないとね」
リサが笑いながら、空になったジョッキを掲げる。
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