064 サイゼリ屋
水曜日――
地下10階、ひときわ太い巨木がそびえ立つ場所に、俺たちはたどり着いた。
巨木の根元には、地下11階へと続く階段が口を開けている。そして階段の手前に通常のオークよりもひと回り大きい個体が、どっしりと陣取っていた。その手に握るのは、肉厚な剣ではなく、禍々しいとげのついた棍棒だ。
階段を中心に、半径50メートルほどの円を描くように、拳大の石が等間隔に並べられている。
「この石から先が、ボスのエリアか」
「あれがハイオークかー。強そうだね。おじさんの魔法で、石の外からやっつけられない?」
「協会のHPに情報が出てるが、結界が張られてるらしい。中に入らないと、攻撃も効かないってさ」
俺は腕を組んで、円の中心に座り込むハイオークを見据えた。時折、鼻を鳴らすようにこちらを睨みつけてくる以外は、じっと動かない。まるで番人のようだ。
「さて、ボス挑戦は、いつにする?」
「そうね、金曜日に一回挑戦してみる?」
「そうするか。それまでに、少しでもレベルを上げとくか」
軽く休憩して、俺たちは巨木を後にした。
ダンジョンを出ると、空は薄暗く、すっかり肌寒くなった風が頬を撫でる。
「今日は、どうする?」
「今日は、何だか朝からイタリアンが食べたい気分なの」
「イタリアン。あんまり、オシャレなところは勘弁な」
「大丈夫! 大丈夫! こっち、こっち!」
連れて行かれたのは、見慣れた緑の看板を掲げたファミリーレストランだった。
「サイゼリ屋……ここでいいのか?」
「いいの、いいのー。なんか久しぶりー。食べたいの、どんどん頼もうかー」
リサがスマホで慣れた手つきで操作していく。
「とりあえずグラスワイン、生ハム、辛味チキン、アロスティチーニ、柔らか青豆の温サラダと……」
俺も注文をしていく。
しばらく待つと、テーブルいっぱいに料理が並んだ。小さなグラスに注がれた赤ワインが、照明の光を受けて透き通るように輝いている。
「乾杯ー!」
「乾杯!」
グラスを軽く触れ合わせる。
グラスワインを一口。
軽やかな酸味、その奥からベリーのような果実の甘い香りがふわりと広がった。渋みは控えめで、するすると喉に収まっていく。値段からは想像できないほど、飲みやすく親しみやすい味わいだ。
「これで、この値段は反則よね」
「確かに、気軽に飲めるのはありがたいな」
続いて、辛味チキンに手を伸ばす。
衣はかりっと揚がり、割ると湯気と一緒に、ぴりりとした唐辛子の香りが立ちのぼった。かじりつくと、ジューシーな肉汁があふれ出し、その後を追うように、じわじわとした辛さが舌に広がっていく。
「結構、辛いな……でも、ワインが進む」
ワインを一口含むと、辛さがすっと落ち着いて、また一口と手が伸びた。
次に、アロスティチーニ。串に刺さった羊肉の塊が、香ばしく焼き上げられている。
かぶりつくと、表面のかりっとした焼き目から、肉の脂がじゅわりとにじみ出てきた。羊肉特有の、少し野性的な香りが鼻に抜けていく。塩気はしっかりめで、噛むほどに肉の旨味が濃く感じられた。ハーブのすっきりとした香りが、脂のしつこさを上手に中和してくれる。
箸休めに、柔らか青豆の温サラダ。
ほくほくに温められた青豆は、口に入れた瞬間、ほろりと崩れるほど柔らかい。オリーブオイルのまろやかな風味と、ほんのりとした塩気が青豆本来の甘みを引き立てている。シンプルな味付けながら、豆の香りがしっかりと感じられる優しい一皿だった。
ワインを飲み進めながら、辛味チキンとアロスティチーニ、青豆のサラダをつまむ。どれも手を抜いていない味だった。
対面では、リサがエスカルゴ、マルゲリータ、アラビアータを平らげている。
「うんうん、この味!」
どうやら、大満足のようだった。
いつも読んでいただき、ありがとうございます!
毎日4話投稿を続けてきましたが、ついにストックが尽きました!
今後は週1回程度の更新を目指していきます。
これまでのような更新ペースではなくなりますが、引き続き書いていきますので、これからも読んでいただけるとうれしいです。
ブックマークや評価なども大変励みになります!
今後ともよろしくお願いします!




