063 秋鮭 秋茄子 さつまいも
火曜日、俺たちは地下10階の草原でオーク狩りを続けていた。
「オーク、強いわね。対人戦の相手としても十分ね」
鋼鉄の剣を振り、リサが満足げに呟く。
(ほっ……、特訓に付き合わなくて助かる)
心の中でそっと胸を撫で下ろす。
そうして何体目かのオークを倒した時、光の粒子が消えた跡に、ゴールドとは別に小さな瓶がころりと転がっていた。
「ん、ドロップ品か」
淡い黄色の液体が入った、ガラス瓶だ。コルクの栓には、見慣れない紋様が刻まれている。
「何のポーションだ? 鑑定と」
鑑定スキルを発動すると、目の前にウインドウが開いた。
【病気回復ポーションⅠ】
軽度の病気を瞬時に回復する。
「病気回復ポーションⅠ……」
しばらく眺めてから、記憶の中にあったニュースのを思い出す。
「確か、感染症なら第5類まで、インフルエンザやコロナを瞬時に回復するポーションだな」
「結構いい値段で売れるんだよね?」
リサが覗き込みながら、興味深そうに瓶を見つめる。
「まあな。高齢者にしたら、インフルエンザやコロナでも死亡する可能性が高いからな。金持ちの高齢者なら、金で安心が買えるなら安いもんなんだろう」
「一応、取っておく?」
「まあ、取っておくか」
病気回復ポーションⅠを『道具』にしまう。
「大金持ちや政治家の本命は、もっとレベルの高い病気回復ポーションらしいな」
「ガンとか治せるポーションを手に入れるために、攻略組を支援してるって噂? 本当かしら」
リサが眉をひそめる。
「嘘だと思いたいが、本当なら関わりたくないな」
ダンジョンを出て、久しぶりに駅前の大衆居酒屋の暖簾をくぐる。
「いらっしゃい!」
大将の威勢のいい声に迎えられ、カウンター席に腰を下ろす。
「リサ、とりあえず、せんべろセットでいいか?」
「もちろん! 大将、せんべろセット2つ! ビールで!」
「あいよ!」
ほどなくして、きめ細かな泡をたたえたビールと、小鉢が二つずつ目の前に並んだ。大根と手羽元の煮物、それに中華くらげだ。
「じゃあ乾杯!」
「乾杯!」
ジョッキがこつんと触れ合う。
ビールを一口。
きめ細かな泡が唇に触れ、黄金色の液体が喉を滑り落ちていく。しっかりとした苦味とホップの香りが鼻に抜け、炭酸の刺激が喉の奥でパチパチと弾けた。冷えたグラスの表面に浮かんだ水滴が、季節の変わり目を忘れさせるほど心地いい。
「くぅー、やっぱりビールは最初の一口が一番うまいな」
続いて、大根と手羽元の煮物に箸を伸ばす。
煮汁に沈んだ大根は、透き通るような飴色をしていた。箸を入れると、ほろりと崩れるほど柔らかい。口に運ぶと、じゅわっと染み込んだ出汁の甘辛さが広がり、大根本来の瑞々しさと溶け合っていく。
手羽元は、骨からするりと身が外れるほど煮込まれていた。皮はぷるぷるとしたコラーゲン質で、噛むたびに濃厚な旨味とコクがあふれ出す。醤油と生姜の香りが、肉の脂っぽさをほどよく引き締めていた。
「ほろほろだな、これ」
次に、中華くらげ。
細切りにされたくらげは、ごま油の香ばしい香りをまとい、コリコリと小気味いい食感を響かせる。ピリッとしたラー油の辛味と、酢の爽やかな酸味が、口の中を一気にさっぱりとさせてくれた。煮物の甘さに少し重くなった舌を、きゅっとリセットしてくれる、絶妙な箸休めだ。
ビールと小鉢をあらかた平らげた頃、二杯目のビールと共に、串に刺さった焼き鳥が運ばれてきた。炭火の香ばしい匂いが、湯気と一緒にふわりと立ちのぼる。
「大将ー。今日のおすすめは?」
「そうですねー。秋鮭ときのこのホイル焼き、なんてどうですか?」
「もう秋かー。日本酒は、冷酒とぬる燗どっちが合う?」
「そうですね。味付けがバター醤油なんで、ぬる燗ですかね」
「ぬる燗一合に、あと秋茄子の田楽とお願い」
「私も秋鮭ときのこのホイル焼き! さつまいもとベーコンのガーリック炒めも追加で! 私はビールで」
「あいよ!」
焼き鳥を堪能していると、湯気を立てるアルミホイルの包みと、味噌の香りが食欲をそそる秋茄子の田楽、そして徳利が目の前に並んだ。
アルミホイルを開くと、バターの香ばしい匂いが一気に広がった。秋鮭の切り身は、箸を入れると淡いピンクの身がほろりとほどける。しめじやまいたけ、えのきがたっぷりと敷き詰められ、溶けたバターと醤油が絡み合っている。
一口頬張ると、鮭の脂の甘みと、バター醤油の香ばしいコクが口の中でじゅわりと広がる。きのこはしっとりと柔らかく、噛むたびに旨味がじんわりとにじみ出てきた。
徳利から注いだぬる燗を、ゆっくりと口に含む。
人肌よりも少し温かいくらいの燗は、米の優しい旨味とふくよかな香りをまろやかに引き出していた。バター醤油の濃厚な脂を、ぬる燗の柔らかな温かさが包み込むようにまとめてくれる。
「鮭のバター醤油にぴったりだな」
続いて、秋茄子の田楽。
とろりと柔らかく焼き上げられた茄子の上に、照りのある甘辛い味噌だれがたっぷりとのっている。箸を入れると、とろけるような柔らかさで、ほとんど力を入れずともすっと切れた。
一口食べると、まず味噌の濃厚な甘みが広がり、そこへ香ばしく焼けた茄子の皮の風味が追いかけてくる。中の果肉はとろとろで、ジューシーな水分が口いっぱいにあふれ出した。
「秋茄子は嫁に食わすなっていうが、うまいなあ」
「おじさん、さつまいもも美味しいよ」
リサが横から、ちゃっかり秋茄子の田楽に箸を伸ばし、ひょいとつまみ食いする。
「どれどれ」
さつまいもとベーコンのガーリック炒めに箸を伸ばした。
ほくほくに揚げ焼きされたさつまいもは、表面がかりっと香ばしく、断面は鮮やかな黄色に輝いている。刻まれたベーコンの脂とにんにくの香ばしい香りが、湯気と共にふわりと立ちのぼっていた。
一口食べると、さつまいもの自然な甘みが広がり、そこへベーコンの塩気と旨味、にんにくの香ばしさが重なってくる。かりっとした食感の後に、ほくほくとした優しい甘さがじんわりと追いかけてきて、箸が止まらなくなる味だった。
「これ、ビールにもお酒にも合うな」
「でしょ! でしょ!」
リサが得意げに胸を張りながら、ビールをぐいっとあおる。
秋鮭のホイル焼き、秋茄子の田楽、さつまいもとベーコンのガーリック炒め。どれも温かく、季節の移ろいを感じさせる味わいだった。
美味しい料理とお酒を存分に堪能し、腹も心もすっかり満たされた俺たちは、明日への活力を蓄えるのだった。
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ストック尽きるまで、7:00・12:00・18:00・20:00に投稿予定。




