062 ドイツ
地上に出ると、夕暮れの風がひんやりと頬を撫でた。
「さーて、今日は、どこで飲むかな」
ダンジョンの出入り口からほど近い飲食店街を、二人でぶらぶらと歩く。
「おじさん、ドイツ料理だって。ちょっと食べてみない?」
リサが指差した先には、木組みの外壁に、店名を記した看板が掲げられていた。
「ドイツ料理か、本場のビールとソーセージで一杯……入ってみよう」
重い木の扉を押すと、芳ばしいスパイスと焼いた肉の匂いがふわりと漂ってきた。
「いらっしゃいませー」
店内は、ビール瓶にビールジョッキがずらりと飾られている。案内されたテーブル席に腰を下ろし、メニューを広げた。
「ビールが充実してるな」
ページいっぱいに、聞き慣れない銘柄が並んでいる。
「さすがドイツね。このヴァイツェンってのがいいかしら。ソーセージやプレッツェルと相性がいいみたい」
「それなら、プレッツェルと一番人気のカリーヴルスト。あとは、ブラートカルトッフェルンなんてどうだ?」
「いいんじゃない。店員さん、注文お願いしまーす!」
しばらくして、テーブルいっぱいに料理が運ばれてきた。きめ細かな泡をまとった小麦色のビール。カレー粉をまぶしたソーセージ。艶やかに焼けたプレッツェル。こんがりと焼き目のついたジャガイモ。
「オーク初討伐を記念して、乾杯!」
「乾杯!」
ジョッキがこつんと触れ合う。
ヴァイツェンを一口。
白く濁った琥珀色の液体が、喉を滑り落ちていく。バナナやクローブを思わせる華やかな香りがふわりと鼻に抜け、きめ細かな泡が舌の上でまろやかに弾けた。苦味は控えめで、代わりに小麦のやわらかな甘みが後味にじんわりと残る。
「おお……華やかな香りだな」
「ソーセージと食べると、もっと美味しくなるらしいよ」
カリーヴルストにフォークを伸ばす。
ぱりっと焼き上げられた皮を割ると、肉汁がじゅわりとあふれ出した。粗挽きの肉が持つしっかりとした弾力と、噛むたびに広がるスパイシーな香り。そこへ、たっぷりとかけられたスパイシーなケチャップとカレー粉が絡みつく。甘酸っぱさとカレーの刺激的な香りが混ざり合い、一口ごとに食欲をかき立ててくる。
「これはカレー粉の香りが、クセになるな」
ビールをあおると、ソーセージの脂とスパイスが、泡と一緒にすっと流されていった。
続いて、プレッツェル。
表面は艶やかな茶褐色で、粗い塩の粒がきらきらと散っている。ちぎると、もちっとした弾力のある生地が顔を出す。噛みしめると、しっかりとした塩気とパンの甘みが口の中で混じり合う。外側はかりっと香ばしく、中はむっちりとした弾力。シンプルなのに、手が止まらない味だ。
「これ、ビールのお供にちょうどいいね」
「ああ、しょっぱさがたまらないな」
最後にブラートカルトッフェルン――ジャーマンポテトのルーツだ。
厚切りのじゃがいもが、表面はこんがりきつね色に焼き上げられ、刻んだベーコンと玉ねぎがたっぷりと絡んでいる。湯気とともに、バターと燻製ベーコンの香ばしい匂いが立ち上った。
一口頬張ると、外側はかりっと香ばしく、中はほくほくと柔らかい。ベーコンの塩気と脂のコクが、じゃがいもの甘みをぐっと引き立てている。玉ねぎの甘みと香ばしさも加わって、噛むたびに味わいが深まっていった。
「じゃがいもって、こんなに美味くなるんだな……」
ビールをもう一口。小麦の甘みとホップの香りが、ベーコンの脂を綺麗に洗い流してくれる。そこへまたカリーヴルストへ箸を伸ばし、プレッツェルをちぎり、ジャーマンポテトをつまむ。料理とビールが、次から次へと胃袋へ吸い込まれていった。
気がつけば、テーブルの上はすっかり空になっていた。
「ごちそうさま。本場のビールとソーセージ、最高だったな」
「ほんとに! 今度は違う銘柄のビールも試してみたいね」
満ち足りた腹をさすりながら、夜の飲食店街を後にする。頭上には、すっかり暗くなった空に星が瞬いていた。
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