061 オーク
月曜日。
俺たちは、地下10階に降りる階段前に立っていた。
「さて、そろそろ地下10階も視野に入れるか?」
「オーク……おじさんの魔法なら楽勝だろうけど、私の剣がどこまで通用するか……」
リサは腰の鋼鉄の剣に手を添え、少し考え込むように眉を寄せた。
「鎧を新調したせいで、ミスリルの剣に買い換える予定が後回しになっちゃったのよね。でも、攻略組の情報じゃ地下10階なら鋼鉄の剣で十分って言ってたし」
「まあ、一度相手をしてからでもよくないか?」
「そうね」
階段を下りて、地下10階へ。
ひんやりとした空気が頬をなでる。地下9階と同じ草原が広がっているのに、どこか空気が重く感じられた。風の音に混じって、低いうなり声がかすかに聞こえてくる。
「オークが現れたら、まずは炎の矢を試してみる」
「了解」
草原を進んでいくと、前方の草むらがざわりと揺れた。
現れたのは、二足歩行の大柄なモンスターだ。日本のラノベやゲームでおなじみの、豚顔のオークではない。ごつごつした灰色の肌、背丈はゴブリンの倍ほどもあり、手には肉厚の剣が握られている。海外作品に出てくる、ゴブリンがそのままランクアップしたようなオークだ。
「……あれがオークか。映像より、ずっと厳つい見た目だな」
「ゴブリンの親玉みたいね」
「炎の矢!」
俺の放った炎の矢がオークの胸を正確に射抜いた。巨体がよろめき、そのまま光の粒子となって弾ける。あとにはゴールドが残された。
「一撃だな」
「さすが。おじさんの魔法、えげつないわね」
ゴールドを拾い上げながら、リサが肩をすくめて笑う。
「次は、どうする?」
「そうね、私の剣が通用するか試してみるわ」
「なら、一対一になるようにしよう。周りの敵は俺が引き受ける」
草原を再び歩き出す。
しばらく進むと、今度はオークが一匹と、ゴブリンが数匹まとまって現れた。
「小火炎波!」
俺が放った炎の波が、ゴブリンの群れを一気に包み込む。甲高い悲鳴が上がり、光の粒子となって消えていった。
「サンキュー」
リサが鋼鉄の剣を構え、オークと正面から向かい合う。
オークが剣を振りかぶり、地面を揺らすような重い踏み込みで斬りかかってきた。風を切る音が、ぶおんと耳に刺さる。
リサはとっさに身をかがめて攻撃を回避する。続けざまに振り下ろされた二撃目は、左腕の青銅の盾でがっしりと受け止める。盾に走った衝撃で、リサの足が草の上をずりっと滑った。
「くっ……重い!」
それでも、リサは踏みとどまった。一撃ごとに、オークの動きを目で追い、呼吸を読んでいく。
何度か攻撃を防ぎ続けるうちに、リサの動きが少しずつ変わっていく。オークが大きく剣を振りかぶった瞬間、その腕の内側へ、するりと体を滑り込ませた。
鋼鉄の剣が、オークの脇腹を深く斬り裂く。
「ぐおおっ!」
オークが苦痛に吠え、大きくのけぞった。その隙を逃さず、リサは踏み込んで、今度は肩口に斬撃を叩き込む。
攻撃を重ねるたびに、オークの動きが鈍っていく。やがて、膝をついたオークの巨体が、ぐらりと揺れて地面に崩れ落ちた。
光の粒子となって消えていくオークを、リサは肩で息をしながら見届けた。
「お疲れさん、どうだった?」
「ゴブリンと比べたら、かなり強いわね。でも、これくらいならなんとかなるわ。今回は慎重になりすぎて、時間がかかっちゃったけど」
リサはリュックからボトルを取り出し、ごくごくと水を飲む。
ふう、と一息ついて、汗をぬぐう。その横顔には、手応えを感じている表情が浮かんでいた。
「それじゃ、当分の間、地下10階でレベリングだな」
「うん! 次はもっと早く倒してみせるからね」
俺たちは顔を見合わせて笑い、再び草原の奥へと歩き出した。
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ストック尽きるまで、7:00・12:00・18:00・20:00に投稿予定。




