060 味噌カレー牛乳ラーメン
地元の駅に戻ると、駅前からご当地グルメフェスティバルが開催されている河川敷へと続く道は、多くの人で賑わっていた。
(昨日からずっと賑わっているのに、まだこんなに人が来るなんて。ご当地グルメの底力は計り知れないな)
腹はそれなりに満たされているが、まだ会場を楽しむ余裕は残っている。
河川敷の土手を登ると、眼下の会場が一望できた。醤油の焦げる香ばしい匂いと甘いソースの香りが、風に乗って流れてくる。
「BBQは、すごい長蛇の列だな」
カンザスシティのテントには、昨日と同じように行列が伸びていた。星条旗の下で、店員さんが忙しそうに肉を切り分けている。さすがは人気店だ。
仮設ステージのほうからは、軽快な音楽と歓声が聞こえてくる。俺は屋台でビールを買い、紙コップを片手にステージへ足を向けた。
ステージでは、隣の市のご当地アイドルが歌って踊っていた。お揃いの衣装がきらきらと光り、客席から威勢のいい掛け声が飛ぶ。
ステージから少し離れた場所で眺めていると、アイドルがくるりと回った。ふわりと広がるスカートの裾から、すらりと伸びた生足がちらりと覗く。
(いい目の保養……いや、目の毒だな)
ビールをぐいっとあおり、俺は慌てて視線を泳がせた。
ステージを離れ、企業と行政のテントを見て回る。地元企業のPRに、役所の観光紹介。そして、ダンジョンを絡めたテントがやたらと多い。
『ダンジョンご飯に最適! 水を加えるだけ!』
『探索者、特別補助! ダンジョン近くに新築市営住宅あります!』
『ダンジョン探索して、帰りに観光も』
どの看板にも、ダンジョン景気の波がはっきりと見えた。
中でも目を引いたのは、水を加えるだけというダンジョンご飯のテントだ。興味を惹かれて覗き込むと、白いエプロン姿の女性スタッフがにっこりと笑いかけてきた。
「どうですか? 非常食にもなりますよ」
小皿に盛られた炊き込みご飯を受け取る。
(アルファ米ってやつだな。普通のご飯とは少し違うが、お湯を注ぐだけでこの味なら、ダンジョンの携帯食にはありだな)
ほんのり醤油と出汁の香りが効いた炊き込みご飯は、ぱさつきもなく、ほぐれた米粒がほどよく柔らかい。
会場をぶらぶらと歩き回るうちに、小腹が空いてきた。
「さて、最後に気になっていたアレに挑戦してみるか」
人混みを抜けた先に、一軒のテントが見えた。店先に掲げられた大きな看板には『青森県青森市名物! 味噌カレー牛乳ラーメン』と書かれている。
発泡スチロールの器を受け取り、土手のコンクリートの階段に腰を下ろした。
「いただきます」
器から、湯気がもうもうと立ちのぼっている。味噌の香ばし香り、カレースパイスの香り、牛乳のまろやかな香りがふわりと鼻をくすぐる。
トッピングのチャーシュー、メンマ、もやし、ワカメ、そしてその中央で溶けかけたバターが黄金に輝いていた。
まずはスープを一口。
とろみのある濃厚なスープが舌に触れると、最初に来るのは味噌の深いコクだ。そこへカレーのスパイスがぴりりと立ち上り、後から牛乳のまろやかさがふわっと包み込んでくる。辛いのに、まろやかで、どこか甘い。三つの味が一つになって、喉の奥へ滑り落ちていった。
「……熱っ、でも、うまい」
思わず息を吐き出す。唇がじんわりとヒリヒリするが、それすら心地いい。
続いて麺をすする。
中太の縮れ麺は黄色く、よく絡むスープをたっぷりと抱え込んでいた。ずるずると啜り上げると、ぷりっとした弾力が歯に返ってきて、噛むたびに小麦の香ばしさが広がる。麺の一本一本にカレーと味噌のコクがしっかり染み込んでいて、口の中が幸せでいっぱいになった。
チャーシューを頬張ると、肉の旨味が一気に弾ける。もやしのシャキッとした食感と、メンマの歯ごたえ、ワカメの潮の香りがアクセントになり、食べ飽きる暇がない。
溶けたバターがスープに広がり、表面を濃厚なコクが覆っていく。その中に麺を沈めて啜ると、味がぐっと濃く、やわらかくなった。
「これは、罪深い味だな……」
夢中で麺をすすり、最後に器を持ち上げて、スープをごくりと飲み干した。舌に残るのは、味噌とカレーと牛乳の余韻。そして、腹の底からじんわりと広がる満足感だ。
「ごちそうさまでした」
空になった器を見つめながら、ゆっくりと立ち上がる。
土手の向こうでは、傾き始めた陽射しが河川敷を黄金色に染めていた。腹は満たされ、心は軽い。
「明日からまた頑張るか」
ゴールドを稼いで、また美味い酒と肴を楽しむために。
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ストック尽きるまで、7:00・12:00・18:00・20:00に投稿予定。




