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059 ナポリタンとミックスフライ

日曜日の午前


電車で忌まわしき前職の会社近くの駅近くにある、魔法の謎店にやってきた。駅前のシャッター商店街が謎店ができたことにより探索者らしき人々が大勢行き交っている。探索者目当ての飲食店も増えてきている。


(ダンジョンのおかげで、街まで様変わりしたんだな)


俺は魔法屋の前に立つ警備員に探索者証を見せ、店内に入る。






店を出ると、昼の陽射しがアスファルトを照らしていた。ウインドウを開いて、昨日今日の支出を一覧にしてみる。




睡眠……700G

解毒……1,100G

中ヒール……1,400G

黒炎豹の皮鎧……9,800G

中火球…… 1,000G

中水球…… 1,000G

中石球…… 1,000G

中風球…… 1,000G




合計、17,000G。


「だいぶゴールドを使ったな。また明日から頑張って稼がないとな」


日本円にして、170万円か。

「社畜していた時には、考えられない買い物だな……」


苦笑しながらウインドウを閉じた、その瞬間。


ぐぅーーー。


腹の虫が盛大に鳴いた。


「ちょうど昼時だし、またあの洋食屋さんに行ってみるか」






以前、オムライスを食べた老舗の洋食店に到着。

レンガ調の外壁にある木製のドアを押し開けると、カランコロンとベルの音が鳴り響いた。


「いらっしゃいませ。一名様ですね、こちらへどうぞ」


席につき、さっそく革張りのメニューを開き、俺は深く悩んだ。


「どれも美味そうだな」




ハンバーグ

ビフテキ

ポークステーキ

チキンソテー

トンカツ

エビフライ

ナポリタン

ハヤシライス

カレー

チキンドリア

サンドイッチ

……




王道の洋食メニューがずらりと並ぶ様は、まさに迷宮。ダンジョンよりもずっと厄介だ。

下手にあれこれ悩むと一生決まらない気がして、ここは自分の直感を信じることにした。


「すいません。ナポリタンをセットで。それと、単品でミックスフライをお願いします」

「かしこまりました。お先にセットのサラダとスープをお持ちしますね」




すぐに、ガラスの器に盛られたサラダと、白いカップに入ったコンソメスープが運ばれてきた。

湯気と共に、コンソメの良い香りが鼻をくすぐる。


「いただきます」


まずはコンソメスープをひと口。

透き通った琥珀色のスープが舌に触れた瞬間、牛骨と香味野菜をじっくりと煮込んで抽出された、上品で力強い旨味が口いっぱいに広がる。余計な雑味が一切なく、五臓六腑にじんわりと染み渡るような、老舗のプライドを感じる味だ。




続いてサラダ。シャキシャキに冷えたレタスやキュウリの上には、少しオレンジ色がかった自家製ドレッシングがたっぷりとかかっている。

フォークで刺して食べると、マヨネーズのまろやかなコクの中に、すりおろした玉ねぎやりんごのようなフルーティーな甘みと酸味が絶妙なバランスで混ざり合っている。具体的に何が入っているのかは素人の俺には分からないが、とにかく美味い。野菜が無限に食べられそうな魔法のドレッシングだった。




「お待たせしましたー。ナポリタンとミックスフライです」


スープとサラダを平らげた絶好のタイミングで、主役たちがテーブルに舞い降りた。


「まるで大人のお子様ランチだな」




まずは、湯気を立てる熱々のナポリタンから。

フォークでくるくると巻き取り、大きな口で頬張る。


「あっつ、うまい!」


鉄フライパンでしっかりと炒められたことでケチャップの酸味が飛び、代わりに濃厚な甘みとコクが引き出されている。それが、もっちりとした太麺にネットリと絡みついていた。

具材は昔ながらのピーマン、玉ねぎ、厚切りのベーコン。ピーマンのほろ苦さと玉ねぎの甘さ、そしてベーコンから出た豚の脂の旨味が、ケチャップの風味と完璧な一体感を生み出している。これぞまさに、洋食屋のナポリタンだ。




そして、もう一つの主役であるミックスフライ。

ラインナップは、エビフライ、カニクリームコロッケ、メンチカツの黄金トリオ。


俺はまず、ピンと反り返った立派なエビフライだ。

添えられた小さな容器から、ゆで卵がゴロゴロと入った手作りのタルタルソースをたっぷりと乗せ、ガブリとかぶりつく。

ザクッ! というパン粉の軽快な音の直後、中のプリプリのエビが弾けるような食感で応えてきた。エビの力強い甘みに、タルタルソースのまろやかな卵のコクとピクルスの酸味が絡み合い、極上のハーモニーを奏でる。




次はカニクリームコロッケだ。

こいつは繊細な味を楽しむために、ソースも何もつけずにそのままいく。

サクッとした薄い衣をかじった瞬間、中から熱々でトロトロのベシャメルソースが溢れ出してきた。火傷しそうになりながらハフハフと味わうと、バターと生クリームの濃厚なコクの中に、カニの豊かな風味がこれでもかと凝縮されている。歯を立てる必要すらないまま、口の中で雪のようにとろけて消えた。




最後は、どっしりと構えるメンチカツ。

これには卓上の特製ソースをたっぷりと回しかける。ソースのフルーティーでスパイシーな香りが立ち上ったところを、大きく一口。


ザクッ! ジュワァァッ……!


香ばしい衣を突き破ると、粗挽きのひき肉から暴力的なまでの肉汁と脂が溢れ出し、口の中を大洪水にした。そこに玉ねぎの強烈な甘みと、酸味の効いた特製ソースがガツンとぶつかり合う。




ご飯が欲しくなる強烈な旨味を、俺はナポリタンのケチャップ味で迎え撃つという、大人げない最高の贅沢で堪能した。

ナポリタン、エビフライ、コロッケ、メンチカツ。

童心に帰り、無我夢中でフォークとナイフを動かし続ける。






「ふう……ごちそうさまでした。これは、食べ過ぎたな」


タルタルソースの一滴まで綺麗に平らげ、俺は食後のコーヒーを飲み干して大きく息を吐いた。

心も胃袋も満たされる、完璧な休日のランチだった。


レジへ向かう前、テーブルの端に置かれた革張りのメニューをチラッとめくる。

ハンバーグも、ハヤシライスも、ポークステーキも……まだまだ、俺を呼んでいる気がする。


「これは、また来ないとだな」


俺は小さな決意を胸に伝票を手に取り、洋食屋を後にした。




ここまで読んでいただき、ありがとうございます!

もしよろしければ、『ブックマーク』と『★評価』をしていただけると、ものすごく嬉しいです。

これからも頑張って更新しますので、引き続きよろしくお願いいたします!


ストック尽きるまで、7:00・12:00・18:00・20:00に投稿予定。

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