058 焼きそば
「リサ、大丈夫か?」
「う、うーん。もう飲めない」
レア店で黒炎豹の革鎧を手に入れた喜びから、リサは浴びるようにビールを飲み、テーブルに突っ伏してしまった。
「BBQも買ってきてー」
「また、今度な」
「ラーメン食べたい」
さて、どうしよう。
魔法で治せたらいいんだが、酔っぱらいを治すような都合のいい魔法なんてない。
……いや、待てよ。
「そういえば、アルコールは毒だって聞いたことがあるな。ということは――」
呪文のウインドウを開ける。アパートの隣部屋に現れた謎の教会で買った回復魔法『小ヒール』『浄化』に続き『睡眠』『解毒』『中ヒール』の文字が並ぶ。
中ランク魔法が使えるようになったので今朝、買っておいたのだ。
初めて使う回復魔法が、酔っぱらい相手とは。なんだか情けない気もするが、今はそんなことを言っている場合じゃない。
俺はリサにそっと手をかざし、呪文を唱えた。
「解毒!」
手のひらから淡い緑の光があふれ、リサの体を包み込んでいく。光はゆっくりと明滅し、やがて溶けるように消えた。
「……ん……」
リサがうっすらと目を開ける。
「え!? なに? 急に酔いが……なんで私、鎧着てるの? この鎧何?」
ぱちぱちと瞬きを繰り返し、自分の体を見下ろすリサ。
「俺が解毒魔法をかけたんだよ。それで酔いが覚めたってわけだ」
「解毒魔法? おじさん、そんなの使えたの?」
「今朝謎店の教会で買った」
その後、酔が覚めたリサに、レア店で鎧を買ったこと、リサが「おそろいにしよう」とせがんだこと、そのあとビールを浴びるように飲んでテーブルに沈んでいったことを、かいつまんで説明した。
「……うそ、私そんなに飲んでたの?」
「そんなに飲んでたぞ」
「恥ずかしいー……」
リサは両手で顔を覆い、深いため息をつく。それから観念したように、黒炎豹の皮鎧をそっと脱いだ。
脱いだ鎧を膝の上に乗せ、黒い革の表面をなでながら、ぽつりとつぶやく。
「でも、この鎧、本当に軽いね」
「まあ、よくある酒の失敗だ。それより、買って来たやきそばを食べるぞ」
「焼きそば、ばっかり三つも……おじさん、焼きそば好きなの?」
テーブルの上には、リサにせがまれ俺が買った三種のやきそばが、鎮座していた。
まずは静岡県富士宮市の富士宮やきそば。
太くてもちもちとした麺が特徴だ。鉄板の上でじっくりと焼かれ、表面はこんがりと香ばしく焦げている。甘辛いソースの香りが湯気と一緒に立ちのぼり、削り節がふわりと踊っていた。
麺を持ち上げると、箸に弾力が伝わってくる。口に運ぶと、もちもちの食感と甘めのソースが絡み合い、キャベツの甘みが口いっぱいに広がった。青のりの磯の香りも心地いい。噛みしめるたびに、麺の旨味とソースのコクがじわじわと染み込んでくる。
「もちもちで、ソースがよく絡むな」
次は秋田県横手市の横手やきそば。
目玉焼きがのっていて、ふっくらとした黄身が半熟の状態でつやつやと輝いている。ソースの香ばしい香りと、紅しょうがの鮮やかな赤が食欲をそそる。
箸で黄身を割ると、とろりとした黄色い液体が麺に絡みついた。そのまま一口すすると、濃厚な卵のコクと、紅しょうがのぴりっとした辛味、そして酢の爽やかな酸味が一気に押し寄せてくる。麺はしっかりとコシがあり、噛むたびに香ばしさがあふれ出した。
「美味しい……卵と紅しょうがの組み合わせ、反則ね」
リサも目を細めて、麺に黄身をたっぷり絡ませている。
最後に、岡山県真庭市の蒜山地域のひるぜん焼そば。
豚肉と野菜がたっぷり乗った、太めの麺だ。とろみのある濃いソースが、麺の一本一本にしっかりと絡んでいる。ソースの香ばしさと、炒められたキャベツの甘い香りが湯気とともに立ち上る。
ひと口すすると、濃厚な甘辛さが口の中に広がり、豚肉の脂のコクがじゅわっと後から追いかけてくる。キャベツともやしのシャキッとした食感がいいアクセントになり、太麺がソースの旨味をぎゅっと抱き込んでいる。
「ひるぜんは、肉がしっかりしてて食べ応えがあるな」
三種のやきそばを交互につまみ、食べ比べを楽しむうちに、紙のトレイはすっかり空になっていた。
「ふー、どの焼きそばも個性があって美味かったな」
「うん、ごちそうさま! 次はラーメン行く?」
「いや、もう腹いっぱいだよ」
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ストック尽きるまで、7:00・12:00・18:00・20:00に投稿予定。




