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055 芋煮(味噌)

ダンジョンの入口を抜けると、夕方の涼しい風が頬をなでた。


「ふー、生きて地上に戻ってこれるとは……」

「何言ってるの? あんなの全然じゃん」


リサが木の剣を肩に担ぎ、ニヤニヤしながらこちらを覗き込んでくる。


「おじさん、万が一のことを考えて、対人戦もう少し訓練した方が良くない?」

「勘弁してくれよ」


今日一日で、どれだけ木の剣で叩かれたことか。正直対人戦は、こりごりだ。


「さて、今日はどこで飲もうかな」

「遅くなっちゃったから、空いてるところにすぐ入ろっか」


遅くなった原因は、リサの訓練がなかなか終わらなかったのが原因なんだが……




しばらく歩くと、赤提灯をぶら下げた居酒屋が目に留まった。


「どれどれ、ここは、すぐ座れそうだな」


引き戸を開けると、「いらっしゃい!」と威勢のいい声が飛んできた。L字型のカウンターに、四人掛けのテーブルが二つ。壁には短冊のお品書きがずらりと並んでいる。


「ここにも『芋煮』があるな。食べ比べてみるか」

「他はだだちゃ豆に、庄内浜の焼き魚、あつみかぶの甘酢漬けでどう?」


「美味そうだな。酒は、いろいろあるな。店員さん、おすすめある?」

「そうですね、初曾孫 魔霧なんてどうですか? 辛口のキレのいいお酒ですよ」


「それじゃ、初曾孫 魔霧をお願いします。リサは、どうする?」

「私も同じのをお願い」






しばらくして、店員さんが料理を次々とテーブルに運んできた。


湯気が立ち上る芋煮。山盛りのだだちゃ豆。庄内浜の焼き魚に、小鉢のあつみかぶの甘酢漬け。最後に、白い徳利とお猪口が二つ並ぶ。


「ここの芋煮は、味噌に豚肉なんですね」

「内地の醤油に牛肉の芋煮は、すき焼きみたいで高級でしょ。庄内の芋煮は、毎日食べたくなる素朴な味なんですよ」


店員さんが笑顔で言いながら、徳利を傾けた。

とくとくとく、と軽やかな音を立てて、透明な液体がお猪口に満ちていく。


「それじゃ、大会に向けて頑張るぞ! 乾杯!」

「程々に頼むぞ。乾杯!」


お猪口がかちんと小気味いい音を立てる。


お猪口を鼻を近づけると穏やかな米の香りとともに、ひんやりとした清涼感がすっと立ち上った。色は透明にごく近く、照明の光を受けてきらりと揺れる。


まずは初曾孫 魔霧を一口。舌に触れるのは思ったよりもすっきりとした辛口の味だ。米の旨味がほのかに広がったと思ったら、すぐにキレのいい辛さが舌を引き締め、後味は喉を滑るように消えていく。余韻に残るのは、ほんのりとした米の甘みと、冷たい湧き水のような清らかさだ。


「くぅ……これは、キレがいいな」




まずは庄内地方の芋煮から。器を持ち上げ、ふうっと息を吹きかけてからひと口、汁をすする。味噌の角のない甘みと、豚バラから溶け出した脂のコクが、舌の上でふわりと重なった。出汁の旨味がしっかり効いていて、味噌の香ばしさとのバランスが絶妙だ。


里芋を箸で割ると、中までしっかり熱が通っていて、白くねっとりとした断面がほろりと崩れる。とろけるような舌触りと一緒に、ほくほくとした芋の甘みが口いっぱいに広がった。豚の脂がしみた里芋は、噛むたびに旨味がじゅわっとあふれ出す。


薄切りの豚肉は、噛みしめるほどに濃い脂の甘さがにじみ出てくる。ごぼうのシャキッとした歯ごたえと、長ネギの甘み、こんにゃくのつるりとした食感も、いいアクセントだ。


「うん、これは毎日でも食べたいな」




次は、だだちゃ豆。山盛りの皿から緑色の莢を一つ取り、指先で豆を押し出す。ぷりっとした薄皮ごとつるんと口に飛び込んできて、塩気と濃厚な甘みが一気に広がった。もちっとした食感で、噛むほどに豆の甘さがじわじわと舌に絡みついてくる。


「枝豆って、こんなに甘かったか……?」

「香りが違うわ」


リサが驚きながら豆を口へ放り込む。




続いて、庄内浜の焼き魚。ハタハタの塩焼きだ。皮目はパリッと香ばしく焼かれ、炭火の香りがふわっと立ちのぼっている。箸を入れると身がほろりとほどけて、白い湯気が上がった。


身は淡白なのに、旨味がしっかり詰まっている。噛むたびに脂がじわりとにじみ、ほんのりとした塩気がその甘みをぐっと引き立てる。焦げた皮の香ばしさと、ふっくらとした身の食感がたまらない。




口直しに、あつみかぶの甘酢漬け。薄く切られた白いかぶが、透明感のある甘酢でほんのり桜色に色づいている。箸でつまむと、シャキッと小気味いい音がした。かじれば、甘酢の爽やかな酸味がつんと鼻に抜け、かぶのみずみずしい甘みがじわりと広がる。




口の中がさっぱりとリセットされたところで、お猪口をもう一口。辛口の日本酒が、かぶの酸味と一緒に喉を通っていく。

夢中で箸を動かすうちに、器も皿もすっかり空になっていた。


「ごちそうさま。庄内の芋煮、最高だったな」

「おじさん、前にも似たようなこと言ってなかった?」




お茶をすすりながら、リサがふと思い出したように顔を上げる。


「それで、おじさん今週末はどうするの?」

「土曜日は、ご当地グルメフェスに行ってBBQを食べて、日曜日は店売りの中ランク魔法を買いに行く」


「それじゃ、私も土曜日に行くね。一緒にBBQ食べよっか」

「ああ、楽しみだな」




ここまで読んでいただき、ありがとうございます!

もしよろしければ、『ブックマーク』と『★評価』をしていただけると、ものすごく嬉しいです。

これからも頑張って更新しますので、引き続きよろしくお願いいたします!


ストック尽きるまで、7:00・12:00・18:00・20:00に投稿予定。

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