054 対人戦
翌日――
いつもより二時間遅く集まった俺たち、地下9階へたどり着いた。
「さて今日は、いつもより二時間遅いしどうする?」
「そうね。地下9階でゴブリンウォーリアーやホブゴブリン相手に、対人戦の訓練とかどうかしら?」
リサが提案したのは、年末に控えた『日本一武闘会(仮)』に向けての特訓だった。本番のことを考えれば、少しでも対人戦に慣れておきたいだろう。
「そうするか」
地下9階の草原は相変わらずで、風が吹くたびに草がさざ波のように揺れていた。
「それじゃ、おじさん。ゴブリン軍団が出たら、まずはノーマルゴブリンの始末をお願いね」
「了解」
モンスターの気配がする方角へ、草を踏み分けて進む。やがて小さな窪地を越えたところで、ゴブリンウォーリアーを先頭にした一団と鉢合わせした。取り巻きのノーマルゴブリンは四匹だ。
「火の矢!」
出会い頭、俺の放った火の矢が一番近くのノーマルゴブリンの胸を貫いた。短い悲鳴を残して、光の粒子と化す。
同時に、リサが腕をしならせた。投斧が風を切って飛び、別のノーマルゴブリンの額に吸い込まれる。
残る二匹が棍棒を振りかざして突っ込んでくる。俺は腰のウルフソードを抜き、踏み込みざまに一閃した。一匹の胴を薙ぎ、返す刀でもう一匹の首筋を断つ。
完全に我流だ。それでも、レベルとステータスがゴブリンたちを力づくでねじ伏せる。
「さて、リサの様子は」
視線を向けると、リサはゴブリンウォーリアーと正面から向かい合っていた。
ゴブリンウォーリアーが剣を唸らせる。リサは最小限の動きで身を躱し、すれ違いざまに脛と手首を斬りつけた。浅くない傷に、ゴブリンウォーリアーの顔がみるみる歪んでいく。
苛立ったゴブリンウォーリアーが、大振りの一撃を振り下ろした。
リサは半歩だけ横にずれる。斧は空を切り、地面を叩いて土煙が舞い上がった。
その隙を逃さず、リサの剣が閃く。
首が宙を舞い、ゴブリンウォーリアーの体が崩れ落ちて光の粒子に変わった。
「お疲れ様」
「…………」
リサは剣を見つめたまま、何やら考え込んでいる。
「どうかしたか? いい動きだったぞ」
「ゴブリン相手だと、相手の攻撃が単調なんだよね」
「まあ、モンスター相手だからな」
「やっぱり対人戦の特訓なら、人を相手にしないと」
「…………」
リサがじっとこちらを見つめる。
「探索者のマナーでレベルとか聞かなかったけど、おじさん、実はかなり強いでしょ」
「ソ、ソンナコトシナイヨー」
「バレバレだよ。ねぇ、対人戦の相手になってよ」
そう言って、リサがどこか猟奇的な笑みを浮かべた。
「い、いやー、危険なモンスターが出るエリアで訓練は、ちょっと……」
「そうだね。さすがに地下9階は、危険だよね」
「ほっ」
「地下6階で訓練しよっか!」
「えっ!」
「おじさん、木の剣持ってる? なかったら私の貸すよ」
「…………」
こうして俺は、地下6階でリサの対人戦の訓練に付き合うことになった。
「それじゃ、いくよ!」
掛け声と同時に、リサの木剣が俺に迫り肩口を鋭く叩いた。
「はやっ!」
「まずは一本!」
幼い頃にスポーツチャンバラをやっていたというだけあって、リサの動きは軽快そのものだ。目にも留まらぬ足さばきで間合いを詰め、光のような速さの打ち込みで俺の防御をこじ開けてくる。
「おじさん、大振りすぎ! 当たらないよ!」
「くっ、ちょっと待て!」
「待ちません!」
俺が必死に振るう木剣は、リサの体をかすめもしない。軽やかなステップで踊るように避けられ、そのたびに隙を突かれて、また一本。
「……ぐぅ」
「はい! 次いこ次!」
笑いながら木の剣を構えるリサに、俺の攻撃はことごとくかわされたのだった。
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ストック尽きるまで、7:00・12:00・18:00・20:00に投稿予定。




