053 焼き鯖弁当
「さてと、すっかり遅くなったな。明日はどうする? 昨日今日と頑張ったから、三連休にするか?」
「さすがに三連休は、体がなまっちゃうよ。いつもより二時間遅く集合にしない?」
「そうするか。じゃあ今日はもう解散で、お疲れさま」
「お疲れー、また明日ー」
リサと別れ、夜風吹く道を一人で歩く。
前方に24時間営業のお弁当屋さんの明かりが見えてくる。自動ドアをくぐり、店内を見渡す唐揚げ弁当、のり弁、ハンバーグ弁当の写真がずらりと並んでいた。
「最近、肉ばっかり見ていたからな。何だかむしょうに魚が食べたいなー」
俺が迷わず注文したのは、焼き鯖弁当だ。レジで会計を済ませると、袋の中から醤油と焼き魚の香ばしい匂いが漂ってきて、自然と足が早まった。
アパートに帰り着き、ちゃぶ台に弁当を置く。
「これも早く飲まないとな」
外飲みばかりでなかなか減らない芋焼酎の紙パックを手に取り、振ってみる。中身はまだまだたっぷり残っていた。
グラスに焼酎を注ぎ、同量の水を足して1:1の水割りを作る。もう1:2の水割りとは、さよならだ。
「いただきます」
水割りを一口含む。最近は伊勢の酒や高い酒を飲んで舌が肥えてきてしまったが、この安っぽくて、どこか懐かしい芋の香りに、なぜかほっとする。
続いて、焼き鯖の切り身に箸を入れる。
皮目はこんがりと焼き上がっていて、かじった瞬間にパリッという小気味いい音が静かな部屋に響いた。香ばしい焦げ目の香りが鼻に抜け、その奥から、じゅわっと鯖の脂がにじみ出してくる。
身はふっくらと柔らかく、箸で押すと白い身が薄い層になってほろほろとほぐれていく。塩加減は絶妙だ。しょっぱすぎず、ほんのりとした塩気が鯖本来の脂の甘みを引き立てている。
そこへ大根おろしをひとつまみ乗せ、醤油を少しだけ垂らしてみた。さっぱりとした辛味が、脂の濃さをきれいに洗い流してくれる。
続いて、玉子焼きに箸を伸ばす。
ふっくらとした断面には、黄身と白身がきめ細かくミルフィーユ状に積み重なっている。持ち上げるとふわりと弾力があり、口に入れると砂糖の優しい甘さが舌の上にふわっと広がる。卵の出汁の旨味が、ほんのり後から追いかけてくる。
最後に、かぼちゃの煮物。
醤油と砂糖でじっくり煮含められ、皮の緑がつやつやと濃く光っている。箸を入れると、ほろりと崩れるほど柔らかい。鮮やかな黄色の果肉は、ほくほくとして栗のように甘い。ほんのり塩気を帯びた煮汁がかぼちゃの芯まで染み込んでいて、ひと口ごとに出汁の旨味がじわりと広がる。
「はあー、うまい」
思わず声が漏れた。
今日一日、ダンジョンで暴れ牛を追いかけ回した疲れが、塩気と脂の旨味にほどけていくようだ。水割りをもう一口含み、焼き鯖をまた一口。
その後も箸は止まらず、ごはん一粒残さず平らげてしまった。
「ごちそうさまでした」
手を合わせて、空になった容器を見つめる。
「さて、満腹になったし、明日に備えて早いとこ寝るかな」
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