051 KC Smoked Chicken
『魔力』の調整と『中ランク魔法』の実戦検証も無事に終わり、ちょうどいい時間になっていたので、俺たちはダンジョンを出て地上へと戻ってきた。
「俺はこれから、駅前の謎店で新しい防具を見てくる」
「何買うの? 私もついてっていい?」
「青銅の鎧を買うだけだぞ。俺はリサほど反射神経がよくないから、もしもの時のことを考えてな。リサは、今の革の鎧のままでいくのか?」
「うーん、金属鎧は重そうだし、動きが鈍りそうでちょっとね……」
「そうだな。軽くて動きやすい防具がドロップするといいんだが」
(いざとなったら、お金を貯めて、共同でミスリルの鎧を買うのもありだな……)
そんなことを考えながら駅前へと移動し、謎店で『青銅の鎧』を購入した。
持ち上げて重さをたしかめてみる。
「ふむ……このくらいの重さなら、『筋力』のステータスを上げなくても何とかなりそうだな」
「へぇー、ちょっと私にも持たせて!」
リサが手を出してきたので、そのまま青銅の鎧を手渡す。持ち上げた途端、彼女は少し顔をしかめた。
「うーん……やっぱりちょっと重いかなー」
「まあ、無理して装備を更新する必要はないさ。いざという時は俺が壁になるよ」
「頼もしい! その時はよろしくね、おじさん」
無事に防具の買い物を終え、店を出た俺たちは夕暮れの街へと歩き出す。
「さて、今日はどこで食べてく?」
「昨日は和食だったから、和食以外だったらなんでもいいよー」
「となると……前に話したカンザスシティBBQの店に行くか!」
カランコロン――
「いらっしゃいませ!」
ドアベルを鳴らして店内に足を踏み入れると、星条旗柄のエプロン姿の店員さんが迎えてくれた。
「へぇーー。前から気にはなってたんだけど入ったことなかったんだよね。中はこんな風になってたんだ」
「さて、今日は本場仕込みの牛肉のBBQを……」
期待に胸を膨らませてメニューを開いた俺たちだったが、そこへ申し訳なさそうに店員さんがやってきた。
「お客さん、大変申し訳ありません! 今日はお客さんが多くて、今お出しできるのは、チキンと自家製ソーセージなんですがどうします?」
がーーーん
分かりやすく肩を落とす俺を見て、リサが苦笑しながらフォローを入れてくれた。
「そんなに落ち込まないでよ、おじさん。店員さん、チキンのセットを二人前お願い。それでお酒はどうする?」
「そうだな……俺は、ブルーバードのアンフィルタード・ヒートを頼む」
「それじゃあ、私も同じのをお願いします」
「はい! 少々お待ちください!」
注文を終え、料理を待つ間にふと店内を見回すと、壁に貼られた一枚のカラフルなポスターが目に留まった。
「……ご当地グルメフェスティバル?」
「へぇー、今度の土日、近くの河川敷でやるみたいね」
俺たちがポスターを眺めていると、料理を用意していた店員さんが話しかけてきた。
「そうなんですよ! ウチも『カンザスシティのご当地グルメ』ってことで参加することになっていまして」
「ご当地グルメでカンザスシティBBQって、ちょっと範囲が広すぎるだろ……」
「ははは、そうなんですけどね。ただ、せっかく出店するなら、他所にはない目玉料理がほしいんですけどねー」
店員さんが困り顔で首を傾げたので、リサがニヤリと笑って提案した。
「それなら私たち、ダンジョンの探索者をやってるんですけど……ダンジョン産のお肉とかどうです?」
「おおっ!? 手に入りますか! 牛の肩バラ肉か胸肉、イノシシも肩肉かあばら肉があれば最高なんですけど……」
「任せておいて、どーんと大船に乗ったつもりでいてよ!」
おいおい勝手に約束して大丈夫か、と俺が内心心配していると、ビールと木製プレートが運ばれてきた。
香ばしい燻製の匂いをまとった豪快な木製のプレート。
こんがりとキツネ色にスモークされた『スモークド・チキン』の半羽、バターの香りを漂わせる厚切りの『テキサストースト』、たっぷりの『コールスロー』に、甘く濃厚な『ベイクドビーンズ』、そして大ぶりの『ピクルス』。傍らには、小鉢に入った濃厚な『カンザスシティ風BBQソース』が添えられている。
「わぁー、美味しそう!」
「トーストに肉汁を吸わせて食べらと最高でさよ」
「それじゃ、美味しい牛肉が手に入るように乾杯!」
「ははは、乾杯!」
冷えたグラスをカチンと合わせる。
『ブルーバード・アンフィルタード・ヒート』は、無濾過ならではの黄金色の濁りがあり、口に含むと小麦のまろやかな甘みとフルーティーな香りが包み込んでくる。苦味が少なく爽やかで、驚くほどスルッと喉を通った。
喉を潤したところで、主役のスモークド・チキンに手を伸ばす。
こんがりと燻された皮が艶やかに光り、フォークを当てただけでパリッと心地よい音を立てて、香ばしい脂がじわりと滲み出てきた。
熱々の身を豪快に引き裂き、まずはそのまま口へと運ぶ。
「うわっ……たまらん!」
口いっぱいに広がるのは、じっくり燻製された芳醇なスモークの香りだ。パリッと香ばしい皮の下から、しっとりと柔らかくジューシーな鶏肉の繊維がほどけ、噛みしめるたびに肉汁と旨味がジュワリと溢れ出してくる。絶妙な塩気とスパイスの効き具合だけでも、ビールを呼んでやまない最高の味わいだ。
続いて、プレート上の黄金色の厚切りテキサストーストを手に取る。
表面はカリッと香ばしく、中はフワフワ。ちょっと行儀が悪いが、チキンから溢れ出た旨味たっぷりの肉汁を吸わせて、かぶりつく。バターのコクと肉汁の旨味を吸い込んだパンは、思わず笑みがこぼれるほどの美味さだ。
チキンを手に取り、別添えのカンザスシティ風BBQソースをたっぷりと絡めて味変してみる。
ドロッと濃厚なソースを纏ったチキンを頬張ると、トマトの甘みと糖蜜の深み、そしてスモーキーなスパイスのパンチが口の中で一気に爆発した。
トーストにチキンとコールスローを乗せて一緒に頬張り、冷えた小麦ビールをぐっと流し込む。爽やかな酸味とキレが口の中の濃厚な旨味を綺麗に洗い流し、たまらない快感が駆け抜けた。
「美味い! チキンもビールもソースも最高だ!」
口直しに大ぶりにカットされたピクルスにかじりつく。ザクッという心地よい音と共に爽やかな酸味が口いっぱいに広がり、脂っぽくなった口の中を完璧にリセットしてくれた。
じっくり煮込まれたホクホクのベイクドビーンズも、甘みとコクがクセになる最高のサイドディッシュだ。
肉汁とソースを余すことなくトーストに染み込ませて、夢中でプレートを平らげると、お腹も心も大満足だった。
「ごちそうさま! 店員さん、ご当地フェスの肉、あんまり期待されると困るから、期待しないで待っててください」
「ええ、分かりました。それなりに期待して待ってますね」
店を出て、夜風に吹かれながら道を歩く。
お目当てのBBQは食べ損ねたが、最高の料理と面白い目標が手に入った。
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ストック尽きるまで、7:00・12:00・18:00・20:00に投稿予定。




