050 中ランク魔法
火曜日――。
俺たちは地下8階へと足を運んでいた。今日の目的は、ステータスの『魔力』の調整と中ランク魔法の実戦検証だ。
しばらく進んでいると、前方の草原からワイルドボアとゴブリンライダーの群れが姿を現した。
「中火炎波!」
俺は右手を突き出し、中ランク魔法『中火炎波』を放つ。
ズゴゴゴッ! と、小火炎波とは比較にならないほど巨大な炎の波が、ワイルドボアたちを呑み込みながら広がる。周りの空気が一瞬で沸騰し、凄まじい熱風が吹き荒れた。
炎の波が収まったあとには、ワイルドボアとゴブリンライダーの姿はなく、ゴールドだけが残されていた。
「……ふーー、少しクラッときたな」
微かな眩暈で少しだけ足元がふらつく、俺は思わずこめかみを押さえる。
「えげつない……これは、大会で禁止される訳だ。で、大丈夫? 見た感じ、ボス戦の時よりは平気そうだけど」
リサが感心したような、呆れたような複雑な目を向けてくる。
「ふぅ、少し休憩しながら、ネットで集めた情報で考えた俺の仮説を聞いてくれるか?」
「うん、いいけど、長くなる?」
「手短に話すよ。まず魔法は、値段が高いとその分、威力とMP消費が上がる。そしてステータスの『魔力』が上がると、総MPが増えるか、あるいは同じ威力のままMP消費が少なくなると予想される……というのが俺の仮説だ」
「あーそーゆーことね。完全に理解した」
「……よし、じゃあステータスを振ったら、すぐ次の検証に出発しよう」
俺は空中にステータスウィンドウを呼び出し、温存していたポイントを使って『魔力』の数値を35から40へと引き上げた。
柏木湊
レベル16
筋力 :30
身の守り:35
素早さ :30
魔力 :40
運の良さ:30
ボーナスポイント:40
この魔力の底上げによって、あの嫌な立ちくらみがどう変化するか。
少しのインターバルを挟み、再び現れたワイルドボアたちの群れに向けて、俺は右手を構える。
「中火炎波!」
轟音と共に放たれた灼熱の波が、モンスターたちをまとめて焼き尽くす。
「よしっ! 何ともないぞ!」
眩暈は一切ない。
「ねえ、これ、敵だけ焼ける? フレンドリーファイアーとか嫌なんだけど」
中ランク魔法の威力を目の当たりにして、リサが引き気味に確認してくる。
「……試すわけにはいかないし、発動する時は大声で叫ぶから、なんとか……避けてくれ」
「……なんとかしてみるわ」
何とも言えないやり取りのあと、俺たちは次の課題へ移る。
「よし次は、『炎の矢』を楽に撃てるようにするか。リサ、ワイルドボアを優先するから、他のモンスターは頼む!」
「任せて! 体力有り余ってるから!」
「炎の矢!」
手元から放たれた炎の矢は鋭く直進し、狙い違わずワイルドボアに突き刺さる。以前と比べれば負荷は軽いものの、ほんの少しだけ頭がクラッとした。
実験台になったワイルドボアは炎に包まれ、一瞬で光の粒子と化して消えていく。
その横で、リサの戦闘センスが炸裂していた。
ゴブリンライダーが手斧を投擲するよりも早く、鉄の投斧を投げ放ち、ゴブリンライダーを文字通り叩き伏せる。
「さてと……」
ステータスウィンドウを操作し、『魔力』の数値をさらに5ポイント引き上げ、45へと到達させた。
柏木湊
レベル16
筋力 :30
身の守り:35
素早さ :30
魔力 :45
運の良さ:30
ボーナスポイント:35
貯めていたボーナスポイントがかなり減ってしまった。まあ、先行投資だ!
「次、炎の矢を発動して、大丈夫そうだったら、そのまま連射したい」
「OK。少し休憩する?」
「そうだな。なんか魔法を使うと腹が減るのが早い気がするなー」
背負ったリュックから一口羊羹を取り出してかじる。
休憩を終え草原を進むと、前方の草むらをガサガサとかき分けて、ワイルドボアとゴブリンライダーのペアが二組、こちらへ向かって突進してきた。絶好の実験タイミングだ。
「炎の矢!」
鋭い風切り音を立てて放たれた炎の矢は、一匹目のワイルドボアに直撃した。先ほど感じた嫌な眩暈――あの反動が嘘のように全くない。
「よしっ……! ならもう一発!」
間髪入れず、すぐさま二発目を放つ。
「炎の矢!!」
連続詠唱にもかかわらず、反動は一切ない。二発目の炎の矢がもう一匹のボアへと突き刺さった。
ドォォォンッ! と激しい炎が上がり、二頭のワイルドボアは炎に包まれると、光の粒子となって消えていった。
「うわ、あっさり二連発できたね」
リサが感心したように目を丸くする。
主を失って地面に投げ出されたゴブリンライダーたちが、ゴロゴロと転がり落ちてきた。
「覚悟!」
リサは素早く鉄の投斧を投げつけて一匹を片付け、間髪入れずに踏み込んでもう一匹を鋼鉄の剣で一閃。
「反動がなくなっただけじゃなくて、連射しても頭が重くならない……。うーん、これはもしかして、一度の発動に使えるMP量には限界があり、それを超えると反動がくる。魔力値を上げると限界があがり反動無しで連発も出来るようになるってところか?」
「ちょっとおじさん、魔法で全部倒したら私がレベルアップできないじゃない!中ランクは、ピンチの時以外禁止ね!」
「そ、そうだな……さて、今日はもういい時間だし、そろそろ切り上げて帰るか」
「帰り道は私に経験値回してよね」
こうして俺達はタスクを消化し、リサを先頭にダンジョンの出口を目指すのだった。
ここまで読んでいただき、ありがとうございます!
もしよろしければ、『ブックマーク』と『★評価』をしていただけると、ものすごく嬉しいです。
これからも頑張って更新しますので、引き続きよろしくお願いいたします!
ストック尽きるまで、7:00・12:00・18:00・20:00に投稿予定。




