049 芋煮(醤油)
ダンジョンから地上へと戻る帰り道、俺は今日の探索を振り返っていた。
結局、午後は地下9階の階段付近で暴れ牛を数体倒したわけだが、その手応えはこれまでの階層とは明らかに違っていた。タフさも攻撃力も、一段階跳ね上がっている。
(そろそろ、中ランクの魔法を戦闘で楽に発動できるようにしないと、いよいよまずいかな……。買ってない中ランクの魔法も買いに行くか。それに合わせてステータスの振り分けも、もう少し計画的に考えないとな)
頭の中で、今後の課題ややるべきことを整理していく。
・『中火炎波』の実戦投入。
・『魔力』のステータスを上げる。
・中ランク魔法を楽に撃てるようにする。
・中ランク魔法の連射実験。最低でも二連射はしたい。
・店で中〇球シリーズ(中火球など)の魔法を買う。
・防具や武器などの装備の更新。
こうして考えてみると、思った以上にタスクが溜まっている。
……この前の土日に伊勢神宮へ行って旨いもん食って観光して遊んでいる場合じゃなかったのでは? そんなマイナス思考に囚われていると、隣を歩いていたリサが不思議そうに顔を覗き込んできた。
「おじさん、なに難しい顔してるの?」
「ああ、今後のことを、いろいろ考えててな」
「なるほどねー、おじさんも人生について深刻に悩んでいるんだね。よーし、ダンジョン出たらこの私がたっぷり相談に乗ってあげるよ! もちろん、一杯飲みながらね!」
「……」
有無を言わせぬ勢いに押され、結局俺はそのままダンジョン近くの赤提灯の居酒屋へと、リサに引きずられるように暖簾をくぐった。
まずは席に着くなり生ビールと枝豆を注文する。キンキンに冷えた中ジョッキを合わせ、乾杯の音頭と共にビールを喉へと流し込んだ。
「ふーっ、生き返る……。そうだ忘れないうちに、伊勢のお土産を渡しておくよ」
俺はリュックから伊勢のお土産を取り出し、リサへと手渡す。
渡したのは、可愛いおかげ犬のイラストが入ったハンカチと、伊勢拾萬で買った純米大吟醸、ご飯やお酒の最高のお供になる伊勢牛の時雨煮に、そして特産の伊勢海老をふんだんに使った伊勢海老せんべいだ。
「わー! ありがとう!」
「ノリで日本酒を買ってきたが、日本酒も飲むか?」
「飲む飲む! 普段はビールとかサワーが多いけど、飲むよ! 美味しそう!」
「それならよかった。家飲みの時にでも楽しんでくれ」
リサが嬉しそうにお土産をバッグにしまうと、再び身を乗り出してきた。
「それで、おじさんの悩みごとってなんなの?」
「それはな……」
俺はビールをちびりやりながら、中ランク魔法のMP消費による立ちくらみの問題について正直に打ち明けた。
「なるほどねー。『魔力』の数値を少しずつ上げながら、実戦でいろいろ試したいわけだ」
「ああ。いろいろやるから、結構な時間を取ることになるかもしれないと思ってな」
「別にいいんじゃない? 結果的に強くなるわけだし、パーティーの安定感も増すしね」
「そう言ってくれると助かる。よし、明日は地下8階で『魔力』の調整と魔法の検証をしよう」
「賛成! じゃあ、おじさんの悩みごとも無事に解決したことだし、パーッと飲もうよ!」
「いやいや、明日も朝からダンジョンに潜るんだからほどほどにしとけよ」
呆れつつもメニューに目を落とすと、とある季節感があるメニューが目に飛び込んできた。
「おっ、芋煮があるな。……店員さーん、芋煮に合うオススメのお酒、ありますか?」
「それなら、七歌仙 六段仕込み純米の燗酒なんてどうですか? じっくり温めることでお米のふくよかな旨味がグッと引き立ち、冷えた体にしみわたりますよ!」
「じゃあそれをお願いします。他はどうする?」
「そうねー、芋煮とお酒は私も注文するとして……追加であけびの油焼きとおみ漬、それと寒河江やきとりの豚モツをお願いしまーす!」
「はい。かしこまりました」
注文してしばらくすると、まずは湯気を上げる芋煮と、徳利に入った七歌仙 六段仕込み純米の燗酒が運ばれてきた。
山形県村山地方特有の醤油ベースの汁には、じっくり煮込まれてトロトロになった牛肉と、味が染み込んだ里芋がゴロゴロと入っている。
さっそく芋煮をほおばる。牛肉の濃厚な旨味と、すっきりとした醤油のコク、そして里芋特有のねっとりとした甘みが、体に染み入る。
徳利から注いだ七歌仙 六段仕込み純米の燗酒を口に含むと、じんわりとした温かさと共に、まろやかな旨味が口いっぱいに広がり、牛肉の脂っぽさを綺麗にまとめて流し去ってくれた。この組み合わせはたまらない。
「おじさん、これも食べてみてよ! おいしいよー」
リサが勧めてくれた、あけびの油焼き、おみ漬、寒河江やきとりの豚モツにも箸を伸ばす。
香ばしく炒められた、あけびの油焼きは、ほんのりとした独特のほろ苦さに油のコクが絶妙に絡み合い、大人の味わいだ。
刻まれた青菜が心地よい、おみ漬はシャキシャキとした食感と程よい塩気が最高の箸休めになる。
そして、香ばしい煙をまとった、寒河江やきとりの豚モツにかぶりつく。噛み締めるたびにジューシーな脂とタレの旨味がジュワッと溢れ出し、燗酒を飲む手が止まらなくなる。
「美味いつまみに、美味い燗酒。山形最高だな」
美味い料理と最高のお酒を静かに味わいながら、明日からのダンジョン攻略に向けた英気をしっかりと養うのだった。
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ストック尽きるまで、7:00・12:00・18:00・20:00に投稿予定。




