048 暴れ牛
月曜日。
いつものようにダンジョンの前で待っていると、リサが元気に声をかけてきた。
「おっはよー。おじさん、伊勢神宮はどうだった?」
「よかったよ。伊勢神宮の厳かな雰囲気も最高だったし、伊勢牛、伊勢海老、美味い酒と、しっかり堪能してきた」
「いいなー! お土産、まさか忘れてないよね?」
「ああ。かさばるから、ダンジョンを出たら渡すからな」
「やったー! 楽しみー!」
機嫌を良くしたリサと共に、俺たちは地下8階へと降り立った。
「今日は、午前中は休み明けのなまった体を解して、午後から地下9階を少しだけ探索して帰るか」
「賛成! 地下9階は『暴れ牛』が出るんだっけ? あと、5階のボス部屋で出たゴブリンの上位種も」
「そうだな。特に牛の方は、ワイルドボア以上に突進力がすごいらしいぞ。気を引き締めていこう」
午前中。俺たちは大草原を歩き回り、ゴブリンライダーやワイルドボアを相手に汗を流した。休日の間に少しだけ鈍っていた戦闘勘も、数回戦ううちにしっかりと戻ってくる。
昼――。
地下9階に続く階段の前で休憩を取り、持ち込んだ昼飯のパンをかじる。
パンを食べながら、俺はこっそりステータスウィンドウを呼び出した。
これから挑む地下9階の敵は、確実に手強くなっているはずだ。念のため、温存していたボーナスポイントを使って『身の守り』と切り札の魔法攻撃に影響する『魔力』のステータスを5ポイント上げておく。
(大丈夫だと思うが、念のために……)
昼食を終え、俺たちは階段を下りて、未知の領域である地下9階へと足を踏み入れた。
「まずは試しだ。何かあってもすぐ逃げられるように、階段近くをうろついてみよう」
「了解」
フィールドの景色は相変わらずの大草原だが、空気の圧が少し違う気がする。警戒しながら歩き始めて数分後、俺のスキルが接近してくる気配を捉えた。
「反応あり! 前方から来るぞ!」
ドッ、ドッ、ドッ! と地響きのような重い足音が響き、高い草を掻き分けて姿を現したのは――白黒のホルスタイン柄をした巨大な牛だった。
だが、その牧歌的な柄とは裏腹に、目は血走り、鼻息を荒くして猛スピードでこちらへ突っ込んでくる。
「正面からぶつかるなよ!」
「了解!」
俺の指示に、リサがサッとステップを踏めるよう身構える。
俺は即座に杖を構え、迫りくる暴れ牛を狙い打った。
「火の矢!」
一直線に飛んだ炎の矢が、暴れ牛の顔面に突き刺さる。
「モオオォォッ!」
頭を激しい炎に包まれながらも、暴れ牛は倒れない。それどころか、怒り狂ったようにスピードを上げて突進を継続してきた。
「魔力のステータスを上げたのに、一撃じゃ無理か。なら、もう一撃……」
俺が次の魔法攻撃に入ろうとした瞬間、横からリサが前に出た。
「待って、ここは私が!」
彼女は左手に青銅の盾、右手に鋼鉄の剣を構え、自ら暴れ牛の正面へと躍り出る。
巨大な角がリサの体を串刺しにしようと迫った、まさにその直前。
「ふっ!」
リサはまるで闘牛士のようにヒラリと体を捻り、猛烈な突進の軌道から紙一重で身をかわした。
そして、すれ違いざまに全力で振り抜かれた鋼鉄の剣が、無防備になった暴れ牛の太い首筋を一閃する。
ズバァッ!
自らの突進の勢いも相まって深く斬り裂かれた暴れ牛は、数歩もつれるように進んだ後、ドサリと倒れ込んで光の粒子へと変わった。
後にはチャリンと、ゴールドだけが残される。
「おみごと!」
息も乱さずに剣を納めるリサの鮮やかな立ち回りに、俺は心からの感嘆の声を漏らした。
ここまで読んでいただき、ありがとうございます!
もしよろしければ、『ブックマーク』と『★評価』をしていただけると、ものすごく嬉しいです。
これからも頑張って更新しますので、引き続きよろしくお願いいたします!
ストック尽きるまで、7:00・12:00・18:00・20:00に投稿予定。




