005 ダンジョン
ダンジョンが出現してから約一ヶ月。
俺は失業保険をきっちり1ヶ月分もらったタイミングでダンジョンデビューをしようとしていた。
自称攻略組からは、かなり出遅れたがスライム以外の情報が入手できたのでよしとしよう。
そして今、俺は家から一番近いダンジョンの前にいる。
案内板に従ってプレハブの更衣室に入り、ウインドウの『道具』を開いた。
先日、買い揃えたばかりの革の鎧、木の盾、革の帽子、そしてスライムドロップの木の剣を取り出し、手早く身に付けていく。
更衣室を出て受付へ向かい、真新しい探索者証を提示する。
「地下一階と二階のマップはいかがですか? 一枚五百円になります」
受付係の女性に勧められ、俺はマップをそれぞれ一枚ずつ購入した。こういうところは、協会もちゃっかりしている。
準備を整え、いざダンジョン内部へ。
「……結構な人混みだな」
地下一階は、まるで休日のテーマパークのような有様だった。薄暗い石壁のダンジョンの中を、大勢の初心者探索者たちが歩き回っている。
マップを確認しながら地下二階への階段を目指していると、少し先の通路で女子大生くらいのグループが「キャー!」「ウケるー!」と黄色い歓声を上げながら、スライムを棒でポカポカと叩いているのとすれ違った。
俺がこの一ヶ月間、毎日のように庭で無表情のまま惨殺し続けてきたスライムたちである。あんな風にエンジョイできる精神的余裕は、俺には微塵もなかった。
人の波を抜け、地下二階へ降りる。
地下一階ほどではないが、ここもそこそこの人混みだ。ネットの情報によると、この階層に出現するモンスターは、猪突猛進に突っ込んでくるウサギ――通称『突撃ウサギ』らしい。
マップを頼りに地下三階の階段へ向かって歩き出すが、ふと足を止めた。
「せっかくだし、三階に行く前に一回くらいウサギと戦っておきたいな」
俺はメインルートから外れ、人気の少ない脇道へと逸れてみることにした。
少し進むと、前方の薄暗がりから、赤い目をした凶暴そうなウサギが姿を現した。
俺と目が合うなり、ウサギは後ろ足で地面を強く蹴り、文字通り弾丸のようなスピードで突撃してくる。
「っと!」
俺は冷静に腰を落とし、左手の木の盾を構えて待ち構えた。
ドンッ!
鈍い音が響いたが、盾越しに腕に伝わってきたのは拍子抜けするほど軽い衝撃だった。よろけるどころか、俺の足は一ミリも後退していない。
……スライムでレベルを上げすぎたか?
俺は突撃を防がれて地面に落ちたウサギに向かって一歩踏み込み、右手の木の剣を無造作に振り下ろした。
ザシュッ。
あっけない手応えと共に、突撃ウサギは光の粒子となって四散した。あとに残されたのは、チャリンと音を立てて転がる三枚のゴールドだけだ。
「……」
ウインドウの『所持金』にゴールドを回収し、俺はさらに奥へと進んだ。
その後も何匹か突撃ウサギを見つけては倒し、実戦の感覚を掴もうと試みた。
しかし、どいつもこいつも盾で防いで剣を振るだけで、一撃で光の粒子に変わってしまう。これでは、果たして自分が戦闘に慣れてきているのかどうか、全く分からなかった。
ダンジョンの階段を下り、俺は地下3階へと足を踏み入れた。
辺りを見渡すと、上の階とは打って変わって探索者の姿がほとんどない。静まり返った薄暗い空間に、少しだけ緊張感が走る。
事前情報によれば、この階層の出現モンスターは『オオカミ』だ。
どこのダンジョンでも登場するモンスターは、共通らしい。
警戒しながら通路を真っ直ぐ進んでいくと、唐突としてそいつは姿を現した。
低く唸り声を上げたかと思うと、迷うことなくこちらに向かって力強く飛び掛かってくる。
「うおっ!」
唐突な強襲に、思わず情けない声が漏れた。
しかし、体は反射的に動いていた。俺は構えていたシールドを咄嗟に前へと突き出し、オオカミをガツンと弾き飛ばす。
よし、いける!
俺は体勢を崩したオオカミに向かって、右手に握った木の剣を夢中で振り回した。
しかし、焦りからか隙が大きかったらしい。着地と同時に俊敏に動いたオオカミの牙が、俺の右腕にガブリと食らいついた。
「痛っ……!」
激痛を覚悟して、顔をしかめる。
……あれ?
「……くない」
牙は確かに肌に達しているはずなのに、まるで強めの洗濯ばさみで挟まれた程度の感覚しかない。
オオカミ自身も「あれ?」というように動きを止めている。その隙を見逃す手はない。
俺は右腕にオオカミをぶら下げたまま、右手に持っていた木の剣を素早く左手に持ち替えると、そのまま力任せにボコボコと殴りつけた。
『ギャウンッ!』
短い悲鳴を上げて、オオカミは光の粒子となって消滅した。討伐成功だ。
チャリン、という小気味良い音と共に、床にはゴールドが5枚転がっていた。
ふぅ、と息をつきながら、噛まれた右腕を恐る恐る確認する。
くっきりと歯の跡は残っているものの、血すらにじんでいなかった。完全に防御力が攻撃力を上回っている証拠だ。
「……マジで、事前にレベルを上げておいてよかった」
心底ホッとして独り言が漏れる。ステータス、バンザイである。
自分の頑丈さが分かればこっちのものだ。
二匹目以降のオオカミとの遭遇からは少し冷静になり、シールドで防いでは的確に木の剣を叩き込んで順調に討伐していくことができた。
ふと周りを見渡しても、相変わらず他の探索者が来る気配はない。
(人も少ないし、わざわざ家でちまちまスライムを狩らなくても、ここで稼げばいいかもな……)
俺はドロップしたゴールドを拾い集めながら、次の獲物を求めて地下3階の奥へと歩を進めた。
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ストック尽きるまで、7:00・12:00・18:00・20:00に投稿予定。




